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山口ミルコのジャズひと観察
第7回

メグちゃんである。
”メグちゃん”といえば、魔女っ子だ。
そして、いま注目の、ジャズシンガーなのである。
私が彼女をさいしょにみたのは、2011年の7月、ブルーノート東京で開催された「Love for Japan- Special edition Women in JAZZ」だった。
阿川泰子さん、平賀マリカさんといった映えある先輩たちを前に、メグちゃんは、恐縮しているようにみえた。
ところがメグちゃんは背が高い。
さらに生まれ持つ華というものは、隠すことができない。
ひかえめにしていても、だんぜん目立ってしまうのである。
ステージでも楽屋でも、長い手足を折りたたむようにしていても、アタマ隠してしり隠さずとなる。
このひとボーカルがほんとうに向いてるのだろうか?
私はおせっかいながら心配になった。
本人は裏方志望なのに、美しいからといってつい、フロントに出されてしまうという人がいる。
それからおよそ一年がたち、ふたたびメグちゃんをみる機会をいただいた。
新譜「Little Waltz」のリリース記念ツアーの東京ライブ。
場所は「No Bird」ときいて喜んだ私。
じつは先だって、トランペットの中村恵介くんから、
「銀座に新しくオープンしたジャズクラブで演るので来てください〜」
と連絡をもらい、行ったばかりだった。
若手精鋭ぞろいの演奏ももちろんよかったのだが、私はここのお料理が美味しいことに感激した。
お店は細長いのだが見やすいし、新進気鋭のジャパニーズジャズを聴きながら、素敵な食器で美味しい食事をいただける。
「デートに誘われるならNo Bird」と何人かに言ったが、お誘いは未だいただいていないなァというところの、メグちゃんであった。
私がブルーノートで感じたこと自体は、あまり変わっていなかった。
性格が良すぎる。
良すぎる性格はそのままに、ひかえめな振る舞いはそのままに、しかし、彼女は女優になっていた。
ロン・カーターが提供したユニークなアレンジや楽曲は、メグちゃんのちょっとヌケた可愛らしさによく合っている。
二人は似ている。
おそらくロンは知っている。
彼もきっとそんなふうに、先輩にかわいがられてきた。
後ろに立つベーシスト中村健吾さんを紹介するのに、膝まづいてしまうメグちゃん。
ちょっと泣きそうな笑顔のメグちゃん。
そして、”ジャズ界のユーミン” 守屋純子とデュオで聴かせた「虹のかなたに」。
そこで見せてくれた物語へのアプローチには舌を巻いた。
メグちゃんがもっとナルシストだったら?
いやいや、このね、役に入りきってるときと、入りきれてないとき、どっちをも往き来するところがいいんです。
魔女っ子だから。
彼女のうたう「Love Witch(恋の魔女)」が耳から離れないのは、「唱えると、すべてうまくいく」呪文に、誰に対しても誠実で優しい心が込められているからですよ。
今後は、大きくて、柔軟で、包容力あふれるミュージカルスターのメグちゃんを見たいと思っている。

(筆者注=meg を、メグ と、音読みで表記させていいただきました)

ARTIST INFORMATION
meg[ジャズシンガー]

秋田県大館市生まれ、横浜育ちのジャズシンガー。
エラ・フィッツジェラルドの「Night And Day」に衝撃を受けジャズの世界へ。
仲村トオル、小西真奈美主演の映画「行きずりの街」の主題歌、「再愛~Love you again~」(10)は、小室哲哉作曲/湯川れい子作詞によりリリース。2011年11月30日リリースの最新シングル「Love Witch」は、エスプリライン『スピードラーニング』CMタイアップソングとして現在放映中。本人もCMに出演し、大きな話題となっている。カップリング収録「Moon River」は廣木隆一監督最新作映画『RIVER』の主題歌に決定。
スレンダーな容姿からは想像できない、パワフルかつストレートに胸に響く歌声を持ち、実力を兼ね備えた“美Jazzシンガー”として、今最も注目を集めている。

公式ウェブサイト
Album Information
meg ニューアルバム「Little Waltz」
ロン・カーターがプロデュースするmegなんて、なんと贅沢なアルバムだろう!—湯川れい子

“天衣無縫”という言葉がぴったりの、何事にも全身でチャレンジするmegは、まさにマンハッタンという水槽で自在に泳ぐかわいいエンゼル・フィッシュのように、歌う本人も、それを取り巻いて名演奏を聞かせるミュージシャン達も、愉しくて楽しくて仕方が無いという雰囲気が伝わってくる。しかもこの無邪気さと品の良さは、他にちょっと類を見ないロン・カーターとmegならではの味わいだろう。

山口ミルコ

プロデューサー、編集者として出版社で20年、現在はフリー。文筆を主に芸能・文芸メディアのさまざまな企画にかかわっている。近況は、ミシマ社の「ミシマガ」連載エッセイ「ミルコの六本木日記」に。
最近の著書:『毛のない生活』山口ミルコ著(ミシマ社)