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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.118
横濱エアジン

“店主”という名のクリエイター
@神奈川・横浜

きっとコワーい店主さんがでてくるんだろうなァ。なにせ日本のジャズを生み出してきた名店だもん。
松本英彦(ts)、山下洋輔(pf)トリオ、亀淵友香(vo)、市川秀男(pf)、今田勝(pf)、ジョージ大塚(ds)、中本マリ(vo)、古澤良治郎(ds)、本田竹広(pf)、渡辺香津美(g) 生活向上委員会、ドクトル梅津バンド、ICPオーケストラ、渋さ知らズ、ITARIAN INSTABILE Orc、三上寛(vo)、浅川マキ(vo)などなど、海外からはカーメン・マクレイ(vo)、シェリー・マン(ds)、ウディ・ショウ(tp)、フレディ・ハバードtp)、マル・ウォルドロン(pf)、ハンク・ジョーンズ(pf)、レイ・ブライアント(pf)、シーラ・ジョーダン(vo)といった“レジェンド”たちがお店の歴史を彩る。
1969年、新宿でジャズ・レコード喫茶として開店し、'72年に横浜初のジャズライブハウスとしてスタート。当時、ジャズの生演奏を聴ける店は新宿のタロー(現・BODY&SOUL VOL.110)、PIT INN(VOL.51)、そしてこの横濱エアジンくらいだったという。'80年に店を引き継いだのが現オーナー・うめもと實(みのる)氏だ。

JR関内駅、みなとみらい線・馬車道駅からわずか数分。飲食店で賑わう路地の一角に『横濱エアジン』はある。
おびただしい数のチラシ・ポスターがひしめく4階フロアにたどり着き、おそるおそるドアを開くと、出迎えてくれたのは予想を裏切る人なつこい笑顔だった。刈り上げた短髪、びしっと伸びた背筋、ライブのセッティングにキビキビ世話を焼く姿は若々しい。
うめもとさんは桐朋学園大学でトランペットを学び、学生時代は羽田健太郎(p)や角田健一(tb)らとビッグバンドを組んで演奏していたこともあるそうだ。卒業後はドイツに留学し、そのまま現地で演奏活動。生涯ドイツに留まるか、あるいは日本で活路を見つけるのか、将来を見据えて一時帰国していた矢先、初代店主・義兄の高岡寛治氏を事故で失った。
「当時の僕は日本のオケに籍を置きつつ、指揮者・山本直純さんの会社『オズ・ミュージック』の仕事もしていて多忙でした。店は閉じるしかなかったが、山下洋輔さんをはじめ出演していたミュージシャンたちから懇願されて、つい引き受けてしまった」という。
「まあ店に出てる連中はクラシックの世界から見たら演奏技術、ひどいわけ。とにかくヘタすぎる(大笑)。『それ、ぜったい変でしょ。自覚、ないんですか!』『いやいや!ヘタだろうがなんだろうが…etc!!』なんてやりとりを繰り返すうち、どんどん親しくなっちゃって」。
オケもやめ、店に専念し、彼らとともに「本牧ジャズ祭」「New York Jazz Fes'97(USA)」「湘南カンヌ映画祭のための音楽祭'99」「サーフ'90」「Japan Year in Paris(仏)」「横濱Jazzプロムナード」「横浜・シンフォニックinジャズ」「横濱国際インプロ音楽祭<春><秋>」といったイベントを次々立ち上げ、プロデュースしてきた。

「でもね、日本のジャズがほんとうにおもしろくなってきたのはほんのこの4〜5年。外国のマネではない、オリジナリティを持ったサウンドを聴ける時代がとうとう来たか!という感じ。『エアジンはもうジャズをやってない』とか言う人がいるけどそれは違う。これがまさに今のジャズなんだよ。せっかくこの時代まで生きてこられたのに、そういう人たちは自分が若かった頃に興奮した4ビートがジャズだと思い込んでいる。4ビートを踏み台に新しい音楽をやる若い世代がいっぱい出てきてるのにね。まあ優れた新しい音楽を目の前に、昔のレコードでも抱えてなさいって(笑)。ジョン・ケージの、あんな『裸の王様』みたいな音楽だってそこから次が生み出される契機になった。そうしたことが今、毎日ここで起こっているんだと思う」。
うめもとさんが今、注目するのは北欧の音楽。年間約30バンドが出演し、皆すべて自分のオリジナル曲を暗譜で演奏するという。
「日本の若いミュージシャンを招待することもあります。お互い親しくなれるし、ヨーロッパへ行くチャンスもできますから。向こうにはインチキくさい(笑)音楽ファンやパトロンが時々いて、『すごかった』とか言ってミュージシャンをその気にさせてくれるんですよ。まあエアジンだって売れないミュージシャンのパトロンみたいな場所。なんでオレ、こんなヘタくそな連中のために、パトロンなんかやってるんだろ」。
弾丸毒舌はもはや痛快な話芸。なぜジャズという音楽に寄り添い続けるのかとうかがうと「厳格な西洋音楽の理屈をベースにしながら、なおもスキをついて自由さを見いだし続けるこの音楽の不思議」に惹かれる、と。
店内にはアーティストの絵画や壁画、グラフィックスや写真がいっぱい。映像と音楽のコラボもやるそうだ。無秩序に見える作品群には、どれも的を得たユニークさがある。アートもアーティストも横濱エアジンのすべてが、うめもとさんご自身の『創造物』なのだ。
本日のライブは『SAKI'S JAPAN UNIT 2016』。Saki Minamimoto(Vo/SanFrancisco USA)、タカスギケイ(g)、かみむら泰一(sax)、カイドーユタカ(bass)、橋本学(ds, per)の若手ユニット。メンバー紹介の最後にSakiさんが「そして、みんなが大好きな日本一のマスター、うめもと實さん!」。
観客の拍手は、ちいさな灯りとともに横浜の夜に暖かく広がった。