featuring Kobe Jazz People

「スーパー中学生ビッグバンド」を育てる秘策とは?

あのシャープス&フラッツの原信夫氏をして「スカッとしたすばらしい演奏。こんないい音が聴けるとは!」と言わしめた横浜市立笹下中学校SASAGE JAZZ ENSEMBLE ORCHESTRA。昨年各地で行われたスチューデント・ジャズフェスティバルでは、大人顔負けのハイレベルな演奏で上位の賞を総なめにしたほか、浅草ジャズフェスティバルでは「浅草ジャズ賞」を受賞。その「スーパー中学生バンド」を率いる顧問・紺野光之先生にお話をうかがいました。

person

紺野光之さん[横浜市立笹下中学校 SASAGE JAZZ ENSEMBLE ORCHESTRA 顧問/同校国語科教諭]

高校生からサックスを始め、大学時代は法政大学 ニュー・オレンヂ・ジャズ・オーケストラ、横浜市立大学 セカンド・ウインド・ジャズ・オーケストラに所属。2005年笹下中学校へ赴任し、3年前から本格的にジャズ・オーケストラの指導を開始。その演奏は各方面で高く評価されている。2012年3月には横浜みなとみらいホール 大ホールで行われた熱帯ジャズ楽団のステージに子どもたちとともに特別出演。

interview

部活動でジャズを教える

楽器を始めたのは、高校生の時です。
吹奏楽部で3年間サックスを担当し、そのころから、将来は教職に就いて子どもたちに音楽を教えることができれば、と思っていました。大学ではジャズをやってみたくなり、朝から晩までみっちりビッグバンドで演奏活動をしました。
そして念願が叶い、教師となって横浜の中学校に赴任するとともに前任の先生から吹奏楽部を引き継いで指導することに。しかし吹奏楽は、クラシックを中心に楽器も楽曲も幅広く、専門的な勉強をしていない自分が教えるには、なかなか難しいものがありました。
あるとき、「吹奏楽の編成でジャズっぽい曲をやってもいいのでは?」と思いつき、その辺りからなんとなく部活のサウンド作りに自分らしさが出せるようになったのかもしれません。以後吹奏楽コンクールの県大会に4年連続出場。当時はかなり異色だったと思いますが、サミー・ネスティコのアレンジ曲などで3年連続で東関東大会にまで行けるようになりました。
やがて転勤の時期を迎え、希望を出して現在の笹下中学校へ。すでにジャズアンサンブル部がありましたので、いよいよ本格的にジャズを指導することになりました。


組織づくりと基礎練習。子どもたちは勝手に上手くなっている

子どもたちが上達するためには、楽器の技術以前に部活の組織づくりが大切だと感じています。「顧問の見ていないところで、いかにちゃんと練習させるか」がカギ。部長・パートリーダー・上級生、とそれぞれに責任を持たせ、「パートができていなければ合奏はできない」「個人ができていなければパートも成り立たない」という考えを、まずしっかり定着させることが第一だと思います。
入学した時点では、生徒は楽器の演奏経験がほとんどありません。ですから最初の1年目は呼吸法からマウスピースのことまでつきっきりで指導します。一人ひとりの癖を把握し、かつて僕が学んできた上達するためのノウハウ——サウンドの作り方や楽器の技術——を、実際に吹いて音を出したり、指使いを見せたりしながら徹底的に教えます。
そして翌年からは、僕に教えられた上級生が新入生に伝授するという体制をつくりました。もちろん分からないことがあれば、個別の指導に当たりますが、基本的には個人練習もパート練習も見に行きません。僕がいないところで「みんなで勝手に上手く」なっている。
子どもたちには自分の持っているCDをどんどん貸し、「何やりたい?」と選曲させています。彼らはゴードン・グッドウィン、バディ・リッチなど、派手で早い曲が大好き。もう勢いでやるしかないような曲ばかり(笑)。
それにしても中学生の能力の高さには驚かされますね。あっという間に譜面を覚えて暗譜で吹ける。吸収力と上達の早さは僕ら大人にはとても真似できない。


笹下中学校と熱帯ジャズ楽団

紺野先生と近藤和彦氏

子どもにとっても僕にとっても普通の楽しい部活動

子どもたちにジャズを指導するのは、あくまで学校教育の一環としてです。集団生活をする中で、仲間に思いやりを持つこと、きちんと挨拶ができること、マナーを大切にするなど、音楽活動を通じて社会性を身につけることが第一の目的といえます。プロを育てている訳ではないので、技術の向上は二の次です。
えっ!スパルタ教育ですか?まさかまさか(笑)。
もう全然です。僕なんかより女の子たちのほうが後輩にはよっぽど厳しい。ほんと、コワいんですよ〜(笑)。演奏ではどんなに厳しくしてもかまわないけど見捨てることだけはするな!最後まで練習につきあってやれよ、と言っています。僕が子どもたちを叱るのは、時間にルーズだったり、後片付けをしないなどの生活指導面だけです。
部活では練習と遊びのメリハリをつけ、あとは「こういう練習がいいよ」といった情報提供をする。ほかに特別なことはなにもしていません。
だからこの3年間、指導が大変だと思ったことはないですね。半分は自分の趣味みたいなもの。学校の仕事をし、子どもたちの成長を目の当たりにしながら好きなビッグバンドに毎日関わることができる。幸せですよね。
僕が最初に教えた1年生は現在3年となってこの春卒業します。入学した頃から、無邪気な「部活大好きっ子」が多かったので、無理なく続けてこられたのかもしれません。多くのコンクールで素晴らしい賞をいただけたのは、みんなで楽しくやってきたからかなあ。
ほんとうに、それくらいしか思い当たることがないんです。

——どんなに厳しい部活かと思いきや、紺野先生は拍子抜けするほど自然体。この日は熱帯ジャズ楽団のカルロス菅野氏と近藤和彦氏を迎え、学校内でクリニックが行われました。「日頃硬い表情でマジメに演奏してる子たちがどれだけノリノリになるか楽しみ」と笑顔で音楽室へ向かっていかれました。ありがとうございました。

取材協力:BIGBAND!編集部