featuring Kobe Jazz People

楽器と対等にわたり合える、本物のミュージシャンになりたい。

昨年、5月に開催された「第12回神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテスト」で、富士通テン賞を受賞した中川さつきさん。今回、初めてのレコーディングを行い、現在は関西を中心に活動中の中川さんにジャズとの出会いから現在の音楽活動、将来の夢を語っていただきました。

person

中川さつきさん[ジャズヴォーカリスト]

京都府出身。ストリートダンスをきっかけにブラックミュージックに目覚め、2002年にゴスペルシンガー、リチャード・ハードリーのゴスペルレッスンを受けるため渡米。ニューヨークの教会でゴスペルを歌うなどの経験を積む。2003年、ボブ・マーリーソングスコンテストで3位に入賞し、ジャズヴォーカルを志す。2011年、第12回神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテストで富士通テン賞を受賞。
公式ウェブサイト

interview

カラオケクィーンからジャズヴォーカルの道へ。

——ジャズとの出会いを教えてください。

「幼い頃から歌は大好きでしたが、カラオケで唱う程度でした。OL時代にヒップホップダンスを始め、ブラックミュージックを聴くようになり、レッスンを受けるようになりました。そのとき出会った、サラボーン、カーメン・マクレエ、サッチモを聴き、本格的にジャズの門を叩き、ジャズシンガーをめざすようになりました。それまではソウルシンガーの先生のレッスンに3年くらい通っていましたが、ジャズの世界では思っていた以上に音楽の基礎がないことに気付いて苦労しました。英語や譜面の読み方がわからず、先生には『あなたは人からうまいと言われているけど、このままではカラオケクィーンのまま』と言われ、悔しい思いをしましたが、今、考えるとわかります。当時はプロになることは考えていなくて、目の前のことをやるという感じでした」

——プロとしてデビューするきっかけは何だったのでしょうか?

「OLを辞めてフリーターや京都のライブハウスでアルバイトをしながらステージに立たせてもらったり、ミュージシャンの演奏を聴いて勉強しました。お店のマスターには店側から見たミュージシャンの姿勢など教えてもらいました。そのうち、ライブやホテルのパーティーなどの仕事が少しずつ入るようになり、気がついたらプロになっていたという感じです」

ステージで表現したものが自分の評価。

——神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテストに応募した動機は何でしょうか?

「ヴォーカリストにとってひとつの目標でもありました。ヴォーカルクィーンの人は輝いていて、憧れの存在だったので、ステージを拝見していくうちにいつか出たいと思うようになりましたが、すぐに応募することはできませんでした。そして、3回目で初めて本選に残ることができました」

——コンテストはどんな気持ちでステージに臨みましたか?

「賞を取りにいく気持ちはなかったですね。緊張したら自分の力が出ないタイプなので、いつものライブと同じようにリラックスした状態で、今の自分の力を出して判断してほしいという気持ちでした。自然な状態でふだん通り唱えるかを考えていました。そこで出たものが今の自分の評価だと思っていました」

——次のステップとして、来年も出場を期待していますが。

「コンテスト受賞者のメモリアルアワードでみなさんと共演させていただいて、お話していると、来年も出たらと言っていただけるので、がんばろうという気持ちになります。でも、今のことが精一杯なので、その時期になって出たいという気持ちになれば、出るかもしれません」

受賞がアルバム制作の後押しになった。

——受賞後、いちばん変わったことは何でしょうか?

「アルバム制作の機会を与えてくださったことです。これまでもアルバム制作のお話をいただいたことがあったのですが、今よりも1年後はもっとうまくなっているかもしれないという、自分の中で欲のようなものがあって、今はまだ出す時期ではないという気持ちがありました。でも、受賞がきっかけで後押ししてくれました。プロモーションでもうれしかったのに、販売用のアルバムをつくってはどうですかというお話をいただいたとき、改めて受賞を実感しましたね」

——レコーディングへの思いとアルバムのテーマを教えてください。

「聴いて楽しくなるアルバムにしたいという思いがあったので、悲しい曲は入れていません。東日本大震災もありましたし、アルバムを聴いて楽しくなるようなコンセプトにしようということで10曲を選びました。コンテストで唱った『Everything must change』も収録しています」

——初めてのレコーディングの感想はいかがでしたか?

「スタジオ録音は経験があるので、レコーディングの感覚はわかっていたのですが、スタジオの規模が大きいですね。エンジニアの方が『よかったよ』という顔をしてくれるのでテンションも上がり、すばらしい環境とスタッフのみなさんがよくしてくれたので、気分よくレコーディングができました」

好きで続けることでいつか自分の形になる。

——中川さんが考えるジャズヴォーカリストに必要なことは何でしょうか?

「自分もまだまだなので偉そうなことは言えないですけど、好きで続けていることがまずひとつ。好きで続けていれば、いつか自分の中で形になると思っています。細かいところでジャズのこだわりはありますが、根本的にジャズが好きでずっと続けていく気持ちがあるかということです。単純なことですが、深いことだと思います」

——最後に今後の活動と将来の夢を聞かせてください。

「ここ数年、神戸の仕事が増えていますね。これからもご縁をいただいていろいろなところで唱いたいと思います。まずは関西でジャズヴォーカリストといえば、名前が挙がるようになりたいですね。そして、行く行くは全国の方に認めてもらうことが目標です。『この歌は楽器』と思われるようなサウンドを出せるヴォーカリストが、私の中の本物のヴォーカリストなので、楽器に負けず、怯まず、わたり合えるヴォーカリストになりたい。私の中では旬のヴォーカリストは40歳というのがあって、自分が40歳になったとき、どれだけ輝いているか、今から楽しみにしてがんばっていきたいと思います」

中川さつきさんが富士通テン賞を受賞した、
「神戸ジャズヴォーカルクイーンコンテスト」のレポートはこちら