CHIE KOBASHI / The 9ht Kobe Jazz Vocal Queen
神戸に舞い降りたジャズの歌姫。
今年で第9回を迎えた、神戸ジャズヴォーカルクイーンコンテスト。 これまでにもジャネットさん、溝口恵美子さんなど、このサイトでもおなじみの女性ヴォーカリストを生み出したこのコンテストですが、その審査の厳しさも定評のあるところ。
プロ・アマを問わない録音物による予選、さらにその中から選ばれた実力派16名の参加者のライブによる審査。そうそうたる審査員からの講評も、「お約束」のものはひとつもありません。
その審査を勝ち抜き、グランプリに選ばれるのは非情にもたった一人。そして今年、栄光あるクイーンのティアラを勝ち取ったのは、黒髪と凛とした瞳が印象的な小柄な女性でした。
person
第9回神戸ジャズヴォーカルクイーンコンテスト
グランプリ受賞者 小橋知枝さん
兵庫県出身。神戸は、ボストンに音楽留学するまでの間ずっと過ごした大好きな町だそうです。昨年10月に帰国、このコンテストには「They can't take that away from me」と「So many stars」の2曲でエントリー、そしてグランプリに輝きました。梅雨の中休みのある日、旧居留地の神戸十五番館で小橋さんにお話をうかがいました。
interview
突然訪れたジャズとの出会い。
神戸と小橋さんのつながりは?音楽との出会いは?
「兵庫県の尼崎市で生まれ、8歳頃に西宮市に移りました。小学校から神戸市にあるミッション系スクールに14年間通いました。海と山に囲まれながら、のびのびとした時間の流れる場所で過ごした子供時代は、私にとっての宝物です。小さな頃に住んでいた家の隣に教会があったのですが、そこから流れてくる賛美歌をいつも屋根の上に座って聴いていたのを、今でもはっきり覚えています。幼稚園の頃には『この白黒の美味しそうなものから聞こえてくる音はなんだろう?』と、ピアノが大好きになり、後にピアノを習ったりバイオリンでジュニアオーケストラに参加するようになりました。ただ練習は大嫌いでしたけど(笑)、かってに鍵盤をたたいて音を探したり、楽譜を読むのが楽しくてしかたなかったですね」
では、それ以来ずっと、小橋さんは音楽とともにあるわけですね?
「そうですね。ただジャズとの出会いはけっこう遅いんです。まだ10年くらいでしょうか。テレビで観る映画音楽などで、なんとなくジャズを知ってはいたんですが、まだのめりこむほどではなくて」
なにか大きなきっかけがあったのですか?。
「知人のベーシストがプレゼントしてくれたビル・エヴァンスのCDがひとつ。もうひとつは、ジャズクラブのスクリーンで見た、ナタリー・コールの映像です。ナット・キング・コールとデュエットしている映像でした。それを見たとき、歌詞やメロディー・コードなどのすべてが自分にピッタリきて、もうまるで夢のようだったんです。『自分をいちばんうまく表現できるのはジャズなのかも?』そのときそう思ったんです」
周囲の人々に背中を押されて・・・
そこから、今回のグランプリ受賞に繋がってきたわけですね。神戸ジャズヴォーカルクイーンコンテストへのエントリーどんなきっかけで?
「去年まで5年半ほど、勉強と仕事でボストンにいたんです。たくさんのミュージシャンや先生と出会って、刺激もあり、とても居心地がよかったんですね。冬の寒さ以外は(笑)。そこで出会った先生のひとりがタイガー大越さんなんですが、タイガーさんに『いつまでもここに留まっていないで、もっとどんどん外に出て行かなくちゃ!』と、背中を押されたというかプレッシャーをかけられたというか(笑)。もともと、あまり自分を前に出していく性格ではないので、そうやって激励されたのが大きなきっかけでした。コンテストにエントリーして、いろんなミュージシャンと知り合えたらもっといろんなところで音楽活動ができるようになるかなあ・・・、そんなことを考えながらの参加でした」
コンテストの感想はどうでしたか?
「皆さん個性のあるとても素晴らしいシンガーばかり。自分がグランプリを受賞するなんて夢にも思いませんでした。ただ、最終予選にまで選んで頂いたことに感謝して、結果はともかくとしてまず、自分のできる精一杯の歌を歌おうと思いました。実際にステージに出てみると、このコンテストを楽しみにして来られた会場の人々の暖かさを感じることができましたし、心から楽しんで、おもいっきり歌うことができました。」
でも、最後になって小橋さんのお名前がコールされたわけですよね。
「もうそのときは頭の中が真っ白になってしまいました。もちろん、何か賞がもらえるといいなあとは思っていたんですけど(笑)。ティアラや賞状をいただいたりしたのは覚えているんですが、何がなんだかわからないうちに表彰式が終わってしまいました。あ、そうそう、ティアラをつけた自分の姿も、私自身は見ていないんです(爆笑)。でも、大好きな神戸のでコンテストでグランプリをいただいたことがとても嬉しいです!『がんばれよ!』と声をかけていただいたようで」
広がる夢と大きな目標。
今後たくさんのライブへの参加も決まっていますが、中でも、シアトルの”ジャズ・アレイ”でのステージが楽しみなところですね。
「はい、ジャズ・アレイは本当に大御所のミュージシャンが集まるところ。プレッシャーはもちろんあって、内心ハラハラですが(笑)、とても楽しみにしています」
では最後に、ヴォーカリストとして、あるいはミュージシャンとして、今後の夢を聞かせていただけますか?
「ジャズの魅力をたくさんの人に知っていただけるように、活動の場を広げていきたいです。日本、アメリカのジャズのみならず、ヨーロッパを始め、世界中には本当に素晴らしい音楽があると思うんですね。これから、色んな国の方と一緒に演奏させていただいたり、勉強して今後の演奏に繋げていきたいです。今、音楽を通して私なりに学んでいること。それは、生きることの希望や大切さ、家族の大切さ、そして自分の気持ち。これからもっと色んな事を感じたり、表現できるように。そしてみなさんともっと近くなれるような歌い手になりたいです。音楽と聴き手との間をつなぐことが、私の仕事かもしれないと思っています。その意味でも、自分の音楽と可能性をずっと追究していきたいですね」
ソロのヴォーカリストとしてだけでなく、ビッグバンドにも参加して活動中の小橋さん。作詞・作曲もこなすという才色兼備のジャズヴォーカルクイーン。その穏やかな佇まいの中に、ひらがなの優しさとアルファベットの強さが共存しているような気がしました。今後のご活躍を期待しています。ありがとうございました。
特集「神戸ジャズ文化を彩る人々の魅力」 KOBE Jazz People