NAKAJIMA HITOSHI / Grand Gakki Technical Director
管楽器リペアならこの人グランド楽器・中嶋 仁さん
自分の分身のような、子どものような大切な存在。音楽家にとって楽器とはそれほどにかけがえのないもの。もちろん金管楽器も例外ではなく、いつまでも万全な状態で使っていきたい。楽器修理の職人さんは楽器の主治医、ヤブ医者を選んでしまったら取り返しのつかないことだってあるんです。
そんななかで管楽器奏者から絶大なる支持を受けるのが、神戸・グランド楽器の金管楽器技術部長、中嶋仁さん。「中嶋さんにしか触って欲しくない」という熱烈なファンも多く、軽い凹みや傷ならその場でさっと直してくれるのが嬉しい。チューバを中心にトロンボーンやホルン、トランペットなど、金管楽器のことならなんでも相談したい、グランド楽器さんにお邪魔しました。
person
株式会社グランド楽器 金管楽器技術部長
中嶋仁さん
神戸市出身。金管楽器のリペアを始めて28年というベテラン。なかでも中嶋さんが手掛けるセイヤーバルブのトロンボーンはプレイヤーに人気。学生時代にはサックスやドラムなど、自身で楽器演奏も。音楽や楽器をこよなく愛し、腕前はもちろんほがらかな人柄も魅力的なリペアマンです。
グランド楽器
神戸市東灘区魚崎中町1-7-1 電話/078-412-3100 定休日/水曜日
EVENT SCHEDULEグランド楽器 WebSite
ちゅうば道場2~神戸場所~ 2008年6月14日(土)講座受付12:00 講座12:30~ 開場17:30 開演18:00~
昼夜共通券 社会人¥2,000 学生¥1,500 高校生以下¥1,000 
夜(コンサート)のみ 社会人¥1,800 学生¥1,200 高校生以下¥600
学生のためのクラリネット道場in神戸 2008年6月17日(火)より月1回程度開催 18:30頃~20:30頃まで
初回参加無料(2回目以降\1,000) 対象:小学生~大学生 定員30名(先着順)
interview
買ってもらって長く使ってもらう。‐みんなに愛されるグランド楽器を。
グランド楽器が「管楽器専門、チューバ専門店」にリニューアルしたのは22年前。それまではピアノを中心に販売していたのだそう。しかし、一家に一台ピアノがあった時代ではなくなったと管楽器のなかでも王様と言われるチューバを専門に取扱い始めたのだそうです。ジャズバンドのなかでもチューバは一人いるかいないか、なのでKOBEjazz.jp読者の人にはあまり馴染みのない楽器かもしれませんが、金管楽器のなかではもっとも低い音が出るので吹奏楽やオーケストラには欠かせない存在。しかし金管のなかでももっとも大きな楽器なので、現物を置いている楽器店は少ないのだとか。グランド楽器はチューバを実際に試奏して選べる数少ないお店として重宝されています。
「主に学校のブラスバンド部や市民バンド、市民ジャズバンド、市民オーケストラなんかの楽団とのお取引をメインにビジネスをさせていただいていますが、お店柄、やっぱり調子悪いものは直していかないと、と。最近はインターネットで買いきりのお店も多いですが、昔は街の電器屋さんで電化製品を買って、ちょっと壊れたら見に来てもらってましたよね。私の仕事はそういう街の電器屋さんと同じ、街の楽器屋さんなんです。
修理はトロンボーン、トランペットなんかを主にしてますから、個人のお客様と接することが多くて。特に神戸はジャズをやられている方が結構いらっしゃるので、吹奏楽やクラシックだけでなくいろんな方が来られます。でも音楽は続けられる方が多いので、この辺だと甲南中学の子たちが、高校まで続けて、で、甲南大学のジャズ研入って、社会人でもやって…という感じで、ずっとお付き合いしていけるので嬉しいし楽しいし、ありがたいことですよね。まあそんな感じで、もちろん楽器もお売りするわけですが、私の仕事はアフターサービスということでお客様と接しているわけです」
直せるものはその場ですぐに。‐楽器の主治医、修理の現場。
中嶋さんが修理の道を選んでから28年、今では関西のみならず全国でも金管楽器プレーヤーのなかではカリスマリペアマンと呼ばれるほどの存在に。プロミュージシャンからも厚い信頼を受けているというから、その腕は本物。取材中に訪れたお客さんが持ってきた楽器のヘコミもわずか数分で、へこんだ箇所がもう分からないぐらい美しく元通りに。そんな敏腕リペアマンにも困った修理の経験ってあるのでしょうか。
「困った、というかプレッシャーだなあと思うことはよくありますよ。たとえば、『他のお店で一度修理に出したんだけど、なんか前と違う気がする』とか言われちゃうと、そりゃもう何が何でもどうにかしなくちゃ!と思いますね(笑)。逆に燃えるっていう部分ももちろんありますけど。
来店されて直せるものはすぐに、というのは、お客様の演奏スケジュールなどもありますから、極力すぐに直してお渡ししてあげたいということから。特にチューバは高額ですし、2本も3本もお持ちの方は多くありません。で、来週コンサートが入ってたら練習しなくちゃいけない。だから直せるものはその場で、というのがうちのスタンスです。演奏する側からすると同じ楽器でも代わりがきかないですからね。
お客様は学生さんが多いですよ。やっぱり楽器の扱いがまだちょっと粗雑というか、慣れてないのでその辺に置いてたら当てちゃった、というようなケースが多いです。「また来たんか、きみ!」というぐらいよく持ってくる子も(笑)。プロの方は楽器を大切に扱うのでそういうことはありませんが、逆に壊れたときは取り返しのつかない状態になることがあります。スタジオなどできっちりとセットを組んでるだけに、そういう場所での事故は大変なことになったりするようです。でも、そうやって楽器を抱えて悲壮な表情で飛び込んでくるお客様の手助けができて、ほっとしてる姿を見たときは本当に嬉しいです。信頼して私のところに来てくれるのだから、これからもその信頼にこたえたいと思います」
出会いを点ではなく線にしていきたい。‐グランド楽器主催のイベントを開催。
購入、修理のたびに出会い、信頼関係を深めていくプレーヤーとお店。学生の頃から知っているお客さんがプロになって活躍していくのが中嶋さんのなによりの楽しみなのだとか。楽器店は学生からプロまでが利用する場所、それを利用してもっとお客さん同士が交流を深め、演奏する楽しみをもっと知って欲しいとグランド楽器ではイベントを企画、開催しています。それを担当しているのが、企画開発部長の古屋研一郎さん。
古屋「最初はチューバを扱ったちゅうば道場というイベントを開催しました。今年も6月に第二回を開催しますが、プロのチューバ奏者を迎えて基本的な呼吸法や基礎練習講座を行うほか、中嶋によるメンテナンス講座やショップなども。そして夜からはプロのソロ演奏やアンサンブル、楽器を持参した人全員が参加できる大合奏などを企画してます」
中嶋「通常、バンドやオケに一人しかいないチューバ奏者が昨年は160人も参加してくれて圧巻でしたね。全国でもなかなかないイベントだと思います。しかもチューバ奏者でも、ジャズをやってる人は別にいらっしゃいますしね」
古屋「そう、だからまた別にジャズ専門でライブハウスでやるチューバイベントなども開催しています。ほかにも、チューバだけでなく、ほかの楽器でもそれぞれ何かできないかなと思っていて、たとえばトロンボーンと一括りにしてしまってますけど、そのなかでもジャズの人が主に使ってるのはテナートロンボーン、中学生など学校でよく使ってるのはテナーバストロンボーン、ほかにもバストロンボーンを専門に使っている人もいますし、そういう興味のある分野に分けてやって、最終的にみんなでまた交流できたらと思ってます。こうやって私たちとお客様だけでなく、お客様同士でも交流し合って高めあって、関西の音楽活動が広がっていけばいいなと思っています」
企画開発部長の古屋さん(右)と中嶋さん
特集「神戸ジャズ文化を彩る人々の魅力」 KOBE Jazz People