Jazz People
JiLL-Decoy association インタビュー
[第4回]『ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~』収録曲解説
6.日々は煙 / 7.パスワードロック / 8.Night night / 9.これでいいわ

Interview
アーティストインタビュー by 山口哲生
6.日々は煙
towada:自分もkubotaも喫煙者で、ボーカリストの横でタバコをぱかぱか吸いながら制作していたんですけど。
chihiRo:私はそれを“嫌だなあ……”って(笑)。
towada:最初は自分たちがちょっとお兄さんだったんで言いづらかったみたいですけど、活動していくうちに“てかウザいんだけど”みたいな。
chihiRo:そんな言い方はしてないですよ!?(笑) 鼻をつまむぐらいで。
towada:でも、昔って音楽があるところには常にタバコがあったじゃないですか。クラブのフロアで吸いながら踊ったりとか。だけど今は、レコーディングスタジオなんてもってのほかみたいな雰囲気になっていて。
── それこそ両方の時代を経験しているという。
towada:そうです。さっきの谷間の話じゃないですけど。でも、気づいたら自分も(chihiRoと)一緒にいるときは、電子タバコしか吸わなくなっていたんですよ。そのときに、もちろんいいこともたくさんあるかもしれないけど、それによって失ったものってなんだろうと考えることがあって。今って、電子タバコというものがかっこいいものになるのか、ならないのかの瀬戸際のような気がしたんですよね。ジャズとかロックをくわえタバコしながら演奏しているのは、よくないですけど(笑)、それがかっこよく写っていた時期もあったわけじゃないですか。はたして電子タバコにそういう時代が来るのかと思って。自分個人としては、タバコはお酒と同じく嗜好品なので、人になるべく迷惑をかけないようにはしつつ、芸術や風情に関わるものにはいつも寄り添っているものであってほしいなと思っているんですよね。そういうことをいろいろ考えていたときに、この曲を作り出して。サウンド的にも、自分の好きなエルヴィン・ジョーンズがタバコをくわえながら叩いていただろうなって思うようなものに寄り添って行った感じでしたね。
kubota:今まではこういう曲を書いて持っていくと、だいたいボツだったんですよ。ジャズという看板をあまりわかりやすく出したくなかったし、そこをウチらがわざわざやらなくてもと思っていたところもあったので。だけど、このタイミングでこういうストレートなジャズをやったらどうなるんだろうって。それに、chihiRoさんの声は明るい曲にも合うんだけど、ちょっと陰があって憂いのある感じ、ちょっとスモーキーな雰囲気のジャズも似合うだろうなと思っていたところもあったから、こういうマイナーキーでスピード感のあるジャズにトライしてみました。
── 歌詞はどう膨らませていったんですか?
chihiRo:3人で“「古き良きもの」とか「古き悪しきもの」ってなんだろう”みたいな話をしていて、それをメモしてたんですよね。“カミナリ親父っていなくなったね”とか“外で飼ってる犬っていなくなったよね”とか。その中で、昔から嗜好品としてあるタバコをモチーフにして、今と昔を行ったり来たりしながら書いていったらおもしろいんじゃないかなって。それで、花魁の時代なのかわからないですけど、昔の女性はいくら失恋してもたくましかったというのを想像していたら、いつの間にか自分もそうなっていたっていうものにしたんですけど。
── そこで花魁の時代にまで発想が広がっていくのがおもしろいですね。
chihiRo:ジルデコが出てきた頃に日本でジャズをやっていた同世代の人たちって、昭和歌謡に近かったり、椎名林檎さんやEGO-WRAPPIN'の影響を受けていた人が多かったんですよね。でも、自分たちはそういう感じとは違うという意識がすごくあって。昭和っぽい感じではなく、今っぽい感じを意識してやっていたから、私にとってはこの曲ってすごく新鮮なんですよ。ちょっとレトロな雰囲気ってあまり出してこなかったので。
── そういう曲を歌ってみていかがでした?
chihiRo:我ながらこういう曲って似合うんだなって思いました(笑)。須永辰緒さんのプロジェクトで歌わせていただくときに渋い曲をあてがっていただいていたので、もしかしたらこういうものを求められているのかなっていう意識はあったんですよ。音源を聴いた方々からも良いリアクションが多いので、やっぱりそうなのかなって。


7.パスワードロック
chihiRo:この曲は絶対に私が書きました(笑)。
kubota:純度100%ですね。
chihiRo:モータウンとか、そういうものが好きなんですよ。そこにジルデコ色をどう入れるのかが、なかなか難しいんですけど。私としては、なんかどこかで聴いたことのあるような曲だけど、聴いていると楽しいっていう曲も好きなので、ライブのときにみんなで「分かんない」って歌えるような曲がほしいなと思って書いてましたね。最初はパスワードがわからなくて単純に困ったという曲にしていたんですけど、“ちょっと曲の展開がほしいね”ということになって。
towada:なんか、気楽に作ったものがあんまり好きじゃないんですよ(笑)。いやさ、なんかもうちょっと悩まない?っていう。
chihiRo:(towadaは)苦労したものしか信用しないんですよ。だから、そこからいろいろ考えて。昔ってパスワードなんかなくなって、なんでもいけたよなって。じゃあ、今はパスワードがわからないぐらいで立ち止まっている場合じゃないよねっていう考えに至りました。
kubota:どうしてもジャズというテーマだと力が入ってしまうところもあったので、曲のバランス的にも並び的にもこの曲があってよかったですね。
towada:でも、これでジャズは解禁したとしても、モータウンとかヒップホップとかも、そう簡単にはできないよ?っていうリスペクトがやっぱりあるんですよ。だから、そのグルーヴとかスタイルをそのまま持ってくるのがすごく苦手で。いや、そんな簡単なことじゃないから!っていう。
chihiRo:私はいいじゃん、楽しいんだからって簡単に思っちゃうタイプなんですよね。
towada:いや、簡単なリズムに聞こえるかもしれないけど!っていう。
kubota:自分はその板挟みになってる感じです(笑)。
8.Night night
kubota:『ジルデコDUO〜Zinger〜』を作って、歌とギターだけで成立させることに手応えがあったので、その感じで1曲作れたいいなと思っていたんですけど……「Night night」ってどういう意味だっけ?
chihiRo:“おやちゅみ~”みたいな感じなんですよ。赤ちゃん言葉の“おやすみ”みたいな。
kubota:そういうchihiRoママの子守唄みたいな世界観というか空気感にしたいなと思って作ってました。
chihiRo:この歌詞は書き終わるのが早かったですね。
kubota:我が子の成長シリーズだよね。『ジルデコDUO〜Zinger〜』の「おちちとバラード」は、それこそまだおちちをあげていたけど、「Night night」は、“もう寝ようね?”って、自分でベッドに行くような感じというか。
towada:(chihiRoは)こういうアーティストっぽくない曲がすげえ得意なんですよ(笑)。
chihiRo:アーティストですよ! 自分の人生のすべてを歌ってますから。


9.これでいいわ
kubota:この曲は、50~60年代のいわゆるモダンジャズと言われているもののボキャブラリーを使って、ポップスを作ってみたらどうなるだろうというところから作り出しました。
── すぐに作れました?
kubota:いや、結構悩みました。僕が聴いていたモダンジャズは、メロディーがポップで分かりやすいんだけど、スウィング時代からの躍動感とかリズムのおもしろさみたいなものもあって、いいバランス感になっているんですよね。いろんな人がその手法で楽曲を作っていますけど、そこをどう自分たちのバランスにするかで悩みました。マニアックにはしたくないけど、ジャズのおいしいエッセンスは薄めたくないという。そうやって作った曲に歌詞をつけてもらったんですけど、自分としては結構かわいい曲になったなと思っていたら、かなり骨太な感じになって。
chihiRo:そんな感じになっちゃいましたね(笑)。サビのメロディーがすごくかわいいので、それにぴったりな歌詞を乗せると、なんかちょっと恥ずかしいというか(笑)、ちょっと裏切りたいなという気持ちがありまして。それでいろいろ考えている内に、女の子のかわいさよりも、それこそ骨太なところをちょっと歌いたいなと思って。一輪挿しにさせるようなお花に憧れていたけれど、いろんな経験をしていくことでいろんな選択肢が出てくるじゃないですか。そうやっていっぱい枝分かれしながら生きてきたんだなあと思って。まだそんなに生きてないですけど(笑)、そうやって枝分かれしていく内に、気づいたら自分が大木になっていたっていう。
kubota:最初、仮タイトルが「Big Tree」だったから、それだけはやめてくれ!って(笑)。
第5回(最終回)へつづく──
Album
ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~
JiLL-Decoy association
