Jazz People
JiLL-Decoy association インタビュー
[第3回]『ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~』収録曲解説
3.接吻 / 4.switch / 5.眠り姫

Interview
アーティストインタビュー by 山口哲生
3.接吻
── 次の「接吻」はORIGINAL LOVEのカバーです。
kubota:せっかくなので、ビッグバンドが映えるカバーをやりましょうという話になって、いろんな候補をあげていたんですよ。その中で、90年代に青春を過ごした世代としては、ORIGINAL LOVEの「接吻」ってみんなが知っている曲なんですよね。それだけ有名な曲を、今度は自分たちが新しい解釈をしてみようと。それで、オーセンティックなビッグバンドサウンドにするとおもしろいことになるかもしれないなと思って、この曲を選びました。
towada:この曲も時代の架け橋的なものなんですよね。僕らにとって「接吻」って、女の子とドキドキすることを考えるときのバックにあった曲というか(笑)。そうやって自分たちが心を揺さぶられたもの、自分の生活に入ってくるサウンドみたいなものを、自分たちの世代にはこういうものがあったんだって教えてあげたいと思って。おそらく彼らの世代には彼らの世代でそういうものがあると思うんですけど、なんかこう、そこまで感情が揺さぶられていないんじゃない?って思ってしまうところもあって。
chihiRo:お節介おじさん(笑)。
towada:(笑)。
── 「接吻」って多くのアーティストがカバーしている曲ですけど、こういったパターンにアレンジするのは珍しいなと思いました。
kubota:この曲のイメージって、ちょっとけだるかったり、どっしりしたビート感だったりすると思うんですけど、それを軽快な感じにしてみたら、結構いい感じになるんじゃないかなと思ったんですよね。あとは、たとえばフランク・シナトラが、ドロドロに熱いラブソングを結構派手なビッグバンドでやっていたりして。それを日本語でやってみたかったところもありました。
chihiRo:いままでにない元気な「接吻」ですよね(笑)。
── 若い子たちのビッグバンドとやるためにもこういうアレンジにしたところもあったんですか?
towada:確かに、おっさんたちがこの感じの「接吻」をやっていたらちょっとキモいかも(笑)。
kubota:ゴリゴリのベテランが(笑)。
towada:そう考えると、この年代構成で初めてできる演奏かもしれないですね。
chihiRo:でも、歌っている立場からしてみると、このアレンジに意味はあると思うんですよ。「長く甘い口づけを交わす」という歌詞が2回出てくるけど、間奏の後は「口づけを交そう」になるんですよね。そこでやっぱりミソで。どれだけ熱いものがあったとしても、「やけに色のない夢」を見てしまう。いくら大好きだったとしても、それは永遠じゃないんだなっていう虚しさを感じてしまうんだけど、それでもやっぱり長い口づけを交そうよっていう。そういう今この一瞬を大事にするかっこよさというか。それが大人だなと思うし、そういう結論に田島貴男さんが至っていくところに、私は元気に歌う意味があるかなとは思うんですよね。
4.switch
towada:今回のアルバムの中では「switch」と「日々は煙」を最初に作り出したんですよ。
chihiRo:曲としては、今の自分が悶々とするものとか、世の中の閉塞感とか、そういうものの視点を変えるような曲を作りたいなと思って。それで、眠れない夜に、明日の自分が“視点を変えれば大丈夫だよ”って言ってくれるような曲にできたらいいなと思って書いてました。
kubota:ここ最近のジャズの要素を隠し味的に入れた曲ですね。前作の『ジルデコ8〜Golden Ratio〜』では、こういったいわゆるトラックメイキング的なことに重点に置いていたんですけど、その流れを引き継つつ、たとえばロバート・グラスパーとかあの辺りのチルアウトというか、浮遊感をジャズな音で聴かせるものにしようと。もやもやした、ふわふわした雰囲気から、すっと抜けてクリアになる感じが曲のテーマにうまく合いそうだなと思って、こういう感じにしてみました。
── あと、この曲は俳優の田中健さんがケーナで参加されていて。それこそ浮遊感が高まる印象がありますね。
kubota:去年、僕とtowadaが健さんとお仕事をさせてもらって。ケーナって独特の浮遊感があるし、ちょっとスピリチュアルな響きもあるから、この曲の後ろで鳴っていたらおもしろいなと思って、お声がけさせてもらいました。
towada:ケーナがあるのとないのとで、空間の広さが全然違うんですよね。すごくエネルギーがある楽器だなと思ったのと、あとはこの曲も学生のビッグバンドに参加していただいているので、年齢でいうと上と下で50歳差ぐらいあるんですよ。
kubota:3世代が一緒にやっているという。
towada:曲のイメージもそうだけど、世代としての壮大さみたいなものも感じながら作っていました。


5.眠り姫
towada:この曲は歌詞から作り出しました。
chihiRo:もう亡くなってしまったんですが、私の祖母が痴呆でいろいろわからなくなっちゃっていたんですよね。だけど、昔話はすごく鮮明に覚えているんですよ。私が覚えていないようなことを覚えていたり、孫の誕生日は忘れていなかったり。そういう昔話をしているときのおばあちゃんはすごく綺麗で少女みたいで、そっちのおばあちゃんを覚えておきたいなと思ったんですよね。その気持ちから書いていきました。
kubota:chihiRoさんのおばあちゃんというキーワードがあったので、優しかったり、懐かしかったりする感じをどう出そうかなと思っていて。ちょっと懐かしさを足すためにアコーディオンを入れてみたりはしているんですけど、演奏は極力シンプルにすることを心がけていました。聴いている人が何も邪魔されずに、歌と歌詞に入っていってほしいと思っていたので。
towada:痴呆になってしまったときって、人格が削り取られてしまっているのか、表面的な一部に変化が起こっているのか、どっちなんだろうなって思うんですよね。それに、捉え方によっては、寂しさだけじゃなくて、逆にほんわかするような、安心するような一言みたいなものがあると、ちょっとハッピーな感じになるというか。たとえば、志村けんさんがやっている老人のコントって、本当は切ないことなのかもしれないけど、それをちょっと笑えるものとして描くじゃないですか。そうやって明るいものとして相手に聴かせられることが、彼女(chihiRo)は得意なんだと思うんですよ。そういう意味でも、こういう曲を演奏するのは本当に大好きです。自分たちが音楽をやっている意味があるというか。たとえばブルースがそうですけど、暗い出来事を明るく演奏することにすごく意義を感じるので、何回でも聴いていただきたい曲ですね。
kubota:chihiRoさんのおばあちゃんっておしゃれな人だったの?
chihiRo:おしゃれだったのかなあ。すごく元気な人で、おばあちゃんになってから“大学に行きたい!”って言い出して、大学に勉強しに行ったりして。でも、一番前の席に座って先生と目が合うと当てられちゃうから、下を向いてたみたい(笑)。
towada:どうしたいんだ(笑)。
chihiRo:私が大学に通ってるのと同じ時期におばあちゃんも行ってたんですけど、おばあちゃん、私と同じことしてたんですよ(笑)。あとは、大江戸線ができたときも、“大江戸線に乗りたい!”って。“何段ぐらい階段降りなきゃいけないのかしら”って話してました。そういうおばあちゃんでしたね。
第4回へつづく──
Album
ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~
JiLL-Decoy association
