Denso Ten

Jazz People

JiLL-Decoy association インタビュー
[最終回]『ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~』収録曲解説
10.Lost and Found feat.S.N.A aka 山本卓司

Interview

アーティストインタビュー by 山口哲生

10.Lost and Found feat.S.N.A aka 山本卓司

── この曲はボーカリストに元Sky’s The Limitの山本卓司さんを迎えられています。

chihiRo:前作でいろんな方々とコラボレーションをしたことがすごく楽しかったし、刺激的だったので、このシリーズは続けたいなと思ったんですよね。で、たまたま“すごいボーカリストがいるよ”って、友達にインスタを見せてもらったら、“これはすごいな……!”って。いつか一緒にやりたいなと思っていたんですけど、今回のアルバムテーマが「世代」で、彼はひと回り下の男の子だから、ちょっと時間がないけど、今やったほうがいい気がしたんですよね。それで“曲を作れるかわからないけど、もしできたら一緒にやっていただけませんか?”というお話をしたら、ぜひと言っていただけて。

── そこから曲を作り出したと。

chihiRo:「Lost and Found」は「遺失物取扱所」という意味なんですけど、彼はSky’s The Limitとしてものすごく華々しくデビューして、それが解散してまもなくだったから、きっと何か思うところがいっぱいあるだろうなと思ったんですよね。だから、ちょっと余計なお世話ですけど、彼にとって励みになるようなものにしたいなっていうおばさんのお節介心もありつつ(笑)、曲を作りました。

── 歌詞は山本さんと話し合いながら作っていったんですか?

chihiRo:そうです。失うということはどういうことなんだろうという話になって。たとえ失ったとしても、結局それはずっと胸に残っていて、自分の人生の要所要所で、“そういえばあのときは……”って教えてくれることってあるじゃないですか。ということは、失ったものは結局自分の中にあるっていうことなんですよね。だから、自分から手放したものも、きっと手放していないんだろうねって。であれば、もう怖くないし、それすらも自分の力になるんだろうなって。それが「found」の部分なんだろうねという結論に至りました。

towada:「Lost and found」って、意味としては遺失物取扱所だけど、直訳すると、「失うものと見つけ出すもの」という意味で。そうやって相反するものが同時にある感じを、若いながら彼が一生懸命説明してくれたんですけど、その話がすごくおもしろくて。

── どんな話だったんですか。

towada:「響み(どよみ)」という言葉を教えてくれたんですよね。それは響いているとかそういう意味なんですけど、淀みがあるからこそ響みがあるんだと。たとえば、すかっと抜けた空に向かって叫んでも何も響かないけど、自分の気持ちとか街もそうだけど、淀んだ部分があるからこそ響くんですよねっていう。その話に結構グっと来ちゃったんですよね。たとえば、さっきのタバコの話もそうですけど、空気が澄みすぎていると、なんでも通してしまうじゃないですか。でも、空気が淀んでいるからこそ感じられるものがあるし、そこにいろんな気持ちとか、いろんな反射がもっとあってもいいときもあると思うんです。だから、人の心を揺さぶるのはクリーンなものだけじゃないんだということを25歳の子に言われたときに、今回のテーマを選んでよかったし、おもしろかったなって。

kubota:天才肌だったよね。

towada:ただ、時間を全然守らないけど(笑)。

chihiRo:LINEの返事も平気で2、3日返って来ないんですよ。

kubota:ここにいない人の悪口を言うのか(笑)。

towada:持ち上げといて落とすっていう(笑)。

chihiRo:でも、歌わせると、“ああもう本当にすみませんでした……!”っていう。

kubota:そもそも声がすごいですよ。一節歌ったときの“今のなに……!?”っていう、あの聴かずにはいられなくなる感じは、やっぱり誰でも出せるものではないので。chihiRoさんの声との重なり方もすごく綺麗だったし、卓司くんと出会えたのは本当にいいご縁だったなと思います。

── これまで打ち出すことをためらっていたジャズをテーマにした作品を作り終えた感想としては、どんなものがありますか?

kubota:ジャズという音楽の懐の広さや変幻自在さを改めて感じましたし、世代を超えてシェアできる音楽なんだなっていうことを、この作品を作ったことによって思いましたね。自分も好きで聴いてきたけど、世代を問わずジャズを好きな人ってたくさんいるわけじゃないですか。そういう音楽ってすごくいいなと改めて思いました。

towada:自分もジャズの柔軟さを感じましたし、自分としては、やっぱり最もナチュラルに音楽と接することができるツールだなと思いましたね。自分たちはジャズをリスペクトしているからこそ、まだそれはできないと思っていたんですけど、ジルデコの音楽を解きほぐしていくと、やっぱりジャズから成り立っていたんだなっていうことを、今回すごく実感しました。

chihiRo:私はジャズコンプレックスが強かったんですよ。2人みたいに知識もないし、スウィングもなかなか難しいですし、(ジャズカバーアルバムの)『Lining』を出したときなんて「I'm not a jazz singer」って書いてあるTシャツを作って、言い訳しながらツアーを廻っていたぐらいでしたし(笑)。いまも“私はジャズシンガーです”とは言わないですけど、自分の中でコンプレックスみたいなものは消えていったなと思います。先人から受け継いだものを自分の感覚で出すのがジャズのおもしろみということを認識できたというか、やっぱり私は私でいいんだという気持ちになれたかなと思いました。

── 「自分たちはジャズではない」と言い続けて、今回ジャズを作ったジルデコの音楽は、今後どうなっていくと思いますか? それこそジャンルとしては何になると思います?

chihiRo:ジルデコです! ははははは、軽い(笑)。また怒られちゃう。

towada:なんだろうなあ……たぶん、自分が今すごく気になってしまっているのが、リスニング環境がどうなってくるのかというところなんですよね。ジャズには昔ながらの録り方とリスニング環境があって、その上で成り立っていたけれど、それが変わった今、ジャズという音楽が持っているエネルギーや、人の心を揺さぶる力をどうすれば残していけるのかというのが、自分の中にテーマとしてあって。ちょっと話が飛んでしまいますけど、今っていろんな人が嫌な思いをしないで暮らすための決まりごとがいっぱい増えてきているじゃないですか。たとえば、学校であれば昔は体罰が問題になったけど、その流れで先生をどんどん縛ってしまっていて、教えるべきことを教えられなくなっている状況になっていて。なんか、そこは便利になっているんだけど、整理されてはいるんだけれども、肩身が狭くなっているような感じになってきている。音楽って、そういうところに心の揺さぶりを作るキッカケであるべきものだと思うんです。たとえばアメリカの歴史において、ジャズの何がすごかったのかというと、もしあそこにジャズがなかったら、黒人差別ってもっと暴力的になっていたと思うんです。そういうものって音楽のジャンルにいくつかあると思うんですけど、音ひとつ、セッションひとつで自分たちのことを伝えて行ったすごさやそのエネルギーみたいなものを、自分たちは日本語という武器もあるので、それも使いながら伝えていけたらいいなと思ってます。


『ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~』制作の裏話が盛り沢山のロングインタビュー、最終回までご覧いただきありがとうございました。
そして今回インタビューの掲載にあたりご提供いただいたお写真の中には、弊社のオーディオシステム ECLIPSE TD の姿が……。思わぬご縁に感謝をしつつ、KOBEjazz.jpではこれからも音を愛する人々とのつながりを大切にして行きます。JiLL-Decoy associationさん、貴重なお話が盛り沢山のインタビュー記事をありがとうございました。

Album

ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~
JiLL-Decoy association

e-onkyo musicなどでハイレゾデジタル配信 4/15より配信中!

公式HP:http://www.jilldecoy.com/