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JiLL-Decoy association インタビュー
[第1回]『ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~』制作裏話

Interview

アーティストインタビュー by 山口哲生

── 今日は『ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~』についてお聞きしていこうと思っていまして。

towada:こうやって話すことによって、今回の作品はこういうものだったんだなって自分たちでわかってくることも結構あるんですよね。特に今回は制作がバタバタしていたので(苦笑)。

chihiRo:今日でだいぶ見えてくるかもね(笑)。

── かなり急ピッチで制作されたんですか? 前作『ジルデコ8〜Golden Ratio〜』から7ヶ月と、そこまで期間もあいていないですけれども。

towada:この1年で3作出したんですが、実はこの連作をシリーズ物にしていたんですよね。結成から16年経ちましたけど、まだまだ幅を広げていきたい、自分たちの世界観をまた違う段階に持っていきたいという意図がありまして。それで、去年の3月に出した『ジルデコDUO〜Zinger〜』は、ギターとボーカルのデュオのアルバムにして、8月の『ジルデコ8〜Golden Ratio〜』はコラボレーションアルバムとして、男性ボーカルをフィーチャーのものにしようと。あとは、世の中の音楽の聴き方が変わってきているじゃないですか。じっくり時間をかけて手の込んだものを作ることも大切なんですけども、音楽を疲弊させるわけではなく、テンポよく作っていくところに取り組んでみようと思っていたところもありました。

── そういった挑戦をしつつ、今作は“ジャズ”というテーマを掲げられていますね。

chihiRo:連作にしようと決めたときに、その中のひとつをジャズにすることを決めたんですけど、私たちはジャズをベースにしておきながら、ジャズと言われることにすごく抵抗感があったんですよね。“いや、ジャズじゃないです……”とずっと言っていましたし、スタッフも“なんて言えばいいんですかね……”って困り果てている姿を見てきていたんですけど。それはジャズに対するリスペクトがあることもそうですし、やっぱりイメージが限定されてしまうことへの恐怖心があって。そういう時期はすごく孤独だったし、自分たちはどこに行ったらいいんだろうと考える時期が長かったんですよね。

kubota:でも、そこをおもしろがってやる覚悟を持つというか。“スウィングやってます”とか“ボサノバやってます”と言ってしまう手法もあるにはあるんですけど、特に僕とかtowadaが青春時代に聴いて憧れてきていたジャズなんかは、そういうところがフレキシブルになり出して、“これもジャズと言っていいんだ”というものであって。僕らも間口を広げてやりたいところがあったので、そこはちょっと腹を決めてやろう……とは思ってはいたんですけど(笑)、浸透して伝わっていくまでには、いろいろとアウェーな場所に立つこともありましたね。

chihiRo:たとえば、イベントに出演すると、あるときは“なんだ、J-POPか”と言われることもあれば、別のイベントでは“なんかすげえ難しい音楽やってるな……”っていう顔をされるときもあって(笑)。でも、今思うとその時期は大事だったと思うんですよね。これだけの期間をかけて、ジルデコにしかできないものを見つけることができたので。だから今こそ、自分たちで敢えてジャズとはっきりと言ってやってみようと。それも、ジャズのアルバムといえばだいたいスタンダードをやりますけど、全曲日本語で、自分たちが築き上げてきたものをちゃんと出そうと思って、今回の作品を作りました。

kubota:あとは、ジャズという響きも、時代によって捉え方が変わってきているのかなと思って。僕らがバンドをやり出した頃は、ジャズと言ってしまうことでイメージが固まってしまって、難しいとか敷居が高いとか、それだけで敬遠されたりすることもちょっとあったんですよね。でも、僕らや周りのミュージシャンみたいな、ジャジーでポップな音楽をやっている人たちが出てきて、そういうシーンの盛り上がりもあったことで、今のリスナーの方々は“ジャズといってもいろんなものがあるし、その中のどんな感じなのかな?”ってワクワクしてもらえるんじゃないかなと思ったところもありました。だから、ようやくですけど、もう言ってもいいかな?みたいな(笑)。

── 晴れてジャズ解禁ですね。

towada:あと、このタイミングでジャズというテーマをやろうと思った理由がもうひとつありまして。今回、(尚美ミュージックカレッジの)学生のビッグバンドに入ってもらっているんですけど、自分がバンドを始める前から、ちょうど一周したというか。参加していただいた学生の子たちは、自分がジャズに憧れて、音楽の道に入るか入らないか迷っていた時期、そういう仕事に就けないか考えていた年の子たちなんですよね。そういう意味でも、自分たちが目指していた、憧れていたジャズを、その世代の子たちと今一緒にやったときにどういう効果が生まれるのか。そういうことを知りたかったところもありました。

── それは、今作の副題になっている『GENERATE THE TIMES』に通じるものでもありますよね。

towada:そうですね。自分たちが憧れていた方々は60〜70代になっているんですが、自分たちは音楽のあり方に対して「谷間の世代」だと思っていまして。

── 「谷間の世代」というと?

towada:僕らの幼少期って、アナログレコードが家にはあったけど、だんだんテープに増えてきたかなという頃なんですよね。それがCDになり、なけなしのおこずかいとかバイト代で大量に買っていて。で、自分たちの上の世代の人たちは、アナログの音がいいとか、誰かと音楽を共有しながら聴いたり、人間同士でセッションして音楽を奏でましょうというものだったけど、今はスマホになり、もっとスマートな音楽の聴き方だったり、誰かと一緒に汗水流さなくても作れる音楽が出てきた。その両方を自分たちは見ているんだなという、その存在意義を確認したかったというか。そういうところもあって、『GENERATE THE TIME=時代を作り出す』というタイトルにしました。

── 曲を作り出す前にコンセプトを決めていたんですね。

towada:そうですね。音楽起点で曲を作ることも可能だと思うんですけど、もうかなりの数を書いてきていますし、日常生活の中で感じたことや、近くにあるものから影響されて作り出して、そこにジャンルをはめていく形が一番心地よいので。

chihiRo:私は自分ごとじゃないと曲を書けないんですよ。馬鹿正直というか(苦笑)。たとえば、自分がしんどいなと思っていることとか、身近な人の人生に何か歌を添えたいと思う、その衝動みたいなものが大事だと思っていて。私は、デビュー前は歌詞が聴こえることにあまり執着していなかったし、かっこいいほうがいいじゃんと思っている時期が長かったんですよね。でも、やっぱり人と会っていくと、伝えたいことがどんどん出てきて。そうなると歌詞が聴こえることはマストですし、コンセプトは絶対にあるべきだなと、ここ数年は思っています。遅いけど(笑)。

── コンセプトがあったほうが、曲が生まれやすかったりします?

chihiRo:生まれやすいですね。あと、長く演奏できます。コンセプトがあまりしっかりしていなかったり、歌詞に自分ごとを入れられなかったりしたものって、なんとなくライブのセットリストから外れていってしまうんですよ。なので、そこは大事にしてます。


全5回にわたってお届けするJiLL-Decoy associationインタビュー。
今回はニューアルバム『ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~』制作についてお話いただきました。
次回からはいよいよ収録曲について解説いただきます。

Album

ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~
JiLL-Decoy association

e-onkyo musicなどでハイレゾデジタル配信 4/15より配信中!

公式HP:http://www.jilldecoy.com/