「関西のジャズシーンをもっと盛り上げたい」というテナーサックス奏者、内藤大輔さんの思いからスタートしたプロジェクト「YOUNG BLOOD」。内藤さんの呼びかけに集まった関西若手ジャズミュージシャンたちの演奏で、アルバム「PRECIOUS」が完成しました。
「preciousとは、貴重な、尊い、という意味があります。この世に生まれ同じ時代に生き、同じ目標に向かって生きている仲間がいるという事はとても奇跡的な事だと思います」と話す内藤さんの言葉どおり、若手の才気あふれる貴重な15曲が収録されています。今回はプロデューサーである内藤さんに企画立ち上げからアルバム制作、今の関西のジャズシーンについて詳しくおうかがいしました。

——今回のアルバム制作の経緯を教えてください。
「関西のジャズシーンって結構閉塞的じゃないかと思ったのが最初のきっかけです。僕は今回の参加メンバーよりもひとつ上の世代になるんですが、僕らと比べて彼らは上の世代との繋がりが希薄で、若手だけで仲良くする傾向があるんですよ。僕は先輩に可愛がられたり叩かれたりして大きくなってきたので、彼らもそういう経験が必要なんじゃないかと。やっぱり音楽家というのは、音楽だけで食べていかなくてはいけないので、ある種の厳しさが必要だと思うんです。そのためには先人の経験を取り入れていくべきで、それを自分なりに消化してどうやって音楽に還元するか。音楽にはテクニックだけじゃなくて人間性も大事なんですよ、という。ちょうど僕は先輩とも後輩とも仲良くしてもらってるので、それならこの立場を利用して何か面白いことができないかと思ったのが始まりですね」
——今回のアルバムにはさまざまなバンドの演奏が収録されていますが、どうやって決めたのですか?
「最初は45、6人集まりました。最終目的はCDを作ることなのですが、最初に条件を出しました。やっぱり合う合わないがあるので、まずセッションをして組み合わせを決めようと。いつものメンバーだけじゃなくて、初対面の人でも『すごい!』と思える人がいたら、そこから繋がりが生まれますからね。それでお互いがいいなと思える人同士でバンドを組んでもらいました。で、ここからがちょっと厳しいんですが、実際音を録ってみて響かなければCDには入れない、ということを最初に決めました。でないと必死さが生まれないんです。
バンドを作ったものの、レコーディングまでに準備不足だったグループは案の定あまり良くなかったですね。で、ちゃんとリハをしたり練習を重ねてきたバンドはミステイクがあっても充実した音になってた。実際、いっぱい間違ってるんだけどカッコイイ演奏だからと、そのまま採用した曲もあります。逆に演奏は上手くても何も響かないバンドには『ごめん、やっぱり無理』と。後でちゃんとフォローすれば分かってくれるし、今回外れたことで悔しさを感じて、次頑張ろうと思ってくれたらそれはそれでいいことなので」
——普段はプレイヤーの内藤さんですが、実際にプロデュースしてみてどうでしたか?
「やっぱりしんどいですね。最初はパッとできるんじゃないかと思ってたんですけど、やっぱり慣れてないことがたくさんあるので、事務的な部分にはかなり苦労させられました。でもこれもひとつの経験ですし、結局は自分のためにやってるんだなあと思いました。自分がこういう経験をして、後輩がそれを見て、また後輩がこういうことをやって…というのを繰り返して、関西の音楽シーンが潤えばいいなと思います。今回、すごくもめたこともありましたけど、今はそれもお互い良い経験だったと思っています」
——今回のアルバム制作において、重視した部分は何ですか?
「音楽のクオリティはもちろん大切ですが、作る過程での人間性というものですね。たとえば、今回外した曲に対して『皆頑張ってるんだから全部入れてください』って言う子がいたんですよ。でもそれはおかしな話で、じゃあCD買ってくれたお客さんは『この子ら頑張ってるから』っていう気持ちでCDを聴きたいかと。『スタジオで頑張りました』っていうのは最低限の当たり前の話だっていうことにまだ気づいていないんですね。
そういう『僕は頑張ってる』ってだけで演奏してても、音楽は響かないんです。確かに今は僕らの世代よりも上手い子はいっぱいいますよ。でも、それは気持ち的に訴える自信がないからテクニックに逃げてる部分でもあると思います。だから、上手いだけで一音を響かせるっていうのがない。
これからいろんな経験を積んで人間力を高めていってほしいですね。そういうのをアルバム制作を通じて彼らに少しでも分かってもらいたかったんです。このアルバムもひとつのきっかけに過ぎなくて、彼らにとってはまだまだ通過点ですから」
——どんなアルバムに仕上がりましたか?
「荒いですけど勢いのある良いアルバムになりました。今回、高校生のメンバーが3人いるんですけど、彼女らはすごく上手で、しかも物怖じしないタイプなので、それがいい刺激になりましたね。まったく気を使いませんから(笑)。彼女らは『先輩に何か言われるから』っていう演奏は絶対にしないんです。間違えてもいいから思いっきり演る。逆に大学出て、プロとして駆け出しの子の方が周りを気にしながら演奏するんですね。それも大事だけど、やっぱりがむしゃらに自分がいいと思う演奏をする人の方が結果的に面白い音楽になってるんです。良くも悪くも関西若手の『今の心の音』が詰まったアルバムになっていると思います。ここからどんどん成長していく子もいるだろうし、通過点であることは間違いないですが、荒削りだからこその良さもある。これをきっかけにお客さんを含めた皆でいい音楽を共有して、関西の音楽シーンが良くなっていけばと思っています」