- SHOJIRO YOKOO & HIS BIG BAND
- 横尾昌二郎ビッグバンド
横尾昌二郎さんに楽器に関する内容などをお伺いしました。
- ●お持ちの楽器のメーカー等を教えて下さい。
- トランペットはCONN58Bを使っています。1931年製造のヴィンテージです。マウスピースは、長らく楽器付属のCONN225という現行品には類を見ない変わったマウスピースを愛用していましたが、昨年末ごろからBob Reevesの43Mを使っています。
- ●入手に至るまでの経緯と、その楽器に対する思い入れを教えて下さい
- 楽器との出会いはネットショップでの一目惚れでした。その物珍しい見た目と、奇跡的な状態の良さに、一気に魅了されてしまいました。そのショップの所在地が近場だったので、出品者さんにメールを送り、試奏させていただくことになりました。いつもレッスンで使わせていただいているスタジオで待ち合わせて試奏させていただいたのですが、そのスタジオの主と出品者さんは学校の先輩後輩の関係でした。さらに僕のトランペットの師匠であるアロージャズオーケストラの佐藤修さんのひとつ下の後輩ということで、なかなかに縁を感じた瞬間でした。楽器の状態もWEBで確認した通りかなり良く、試奏させていただいた感触も良好で、その場で即決でした。
- ●好きなところはどんなところでしょうか?
- 古い楽器で、人気モデルでもないので、他に使っている人が誰もいないところが好きです(笑)。通常のトランペットはマウスパイプからチューニングスライドを経て主管が右側からバルブ機構に入っていきますが、このCONN58Bはチューニングスライドの部分から斜めにクロスして左側から侵入していくことが最高にカッコいいです。その都合で、3番管トリガーが右側に付いており、これまたクールなのですが、それがこの楽器最大の弱点でもあります。操作性が良くありません。しかしこれは楽器への愛で十分に克服できる弱点です。 あと、管の巻き方が通常のトランペットより縦に短いので、都合横に少し長くなっています。これもかなりカッコいい。持った時のバランスが悪いのと、対応できる楽器ケースが本当に少ないのが弱点です。しかしこの弱点も楽器への愛で克服するしかありません。
- ●メンテナンス法、日頃の練習法などどのようにされていますでしょうか?
- メンテナンスといえるのは1~2か月に一回の丸洗いくらいです。トランペットのバルブにはオイルを注しますが、その種類にはこだわっています。古い楽器なので摩耗が進んでいること、現代の楽器ほど精密ではないことなどから、気密性が最新の楽器に比べて良くありません。オイルは、できる限り摩耗を防ぎつつ、流れにくい粘度の高いものを使います。berp社のオイルを使っています。チューニングスライドには世界で一番粘度の高いウルトラスライドグリス(略してUSG。ヘットマン社製)を使います。スライドグリスは気密性と音の伝達性に関係しているので、音と吹奏感に大きな影響があります。 日々の練習法は、基礎練習を中心にやります。ロングトーン、ペダルトーンに始まり、リップスラーは杉山正氏の『フレックス・タング・ビルド』を愛用しています。フィンガリングの練習はクラークのテクニカルスタディだけで十分です。テンポはゆっくりから、一音一音のフィンガリングを確実に、そして一音一音ハッキリと発音できるように丁寧にやります。あと、これはアーバンの1巻を一通り理解しておかなければ始めるのが難しいのですが、アーバンの『14の性格的練習曲』も、普段から使っています。おススメです。アーティキュレーションの技術向上に役に立ちます。また、長い練習曲を一人で吹き切らなければならないので、スタミナの向上にもつながります。シャルリエの『超絶技巧練習曲集』も、少しずつですが進めています。 ジャズの練習は、マイナスワンを流してコードの流れを掴めるようにのんびりと練習します。8分音符の羅列にならないよう、いろいろな種類の音符を使って『歌えるメロディー』を意識します。
- ●今後手に入れたい楽器、理想の楽器はどんなものですか?
- 今使っている楽器をいつまでも使いたいですが、そうもいかなので、ちょいちょい情報は集めていますが、あまり最新の楽器事情には詳しくありません…。一昨年くらいに試奏させていただいた『ヴァン・ラー』というドイツ製のトランペットは抜群に良かったです。しかしそれ相応にかなりの値段でした。それと同じくらい良くて心に残っているのは、CONNの総銀製ベルのトランペットです。すこし音が綺麗すぎる気もしましたが、スッと息が入り、反応も良い楽器でした。理想としては、やはり周りで誰も同じ楽器を使っていないというのがあります。量産モデルで素晴らしい楽器はたくさんありますが、それよりは楽器に対する愛を注げるような個性的なものを選びたいです。マウスピースについては、今までは同じものを使い続けてきましたし、いろいろなものを試すことには懐疑的でしたが、年末に購入したBob Reeves 43Mが予想以上に良かったので、今年はいろいろ試して自分に合うものを探していきたいと思っています。
- ●ご自身の楽器や演奏において お客様に届けたい音 聴いてほしいポイントはどんなものでしょうか?
- シチュエーションによってもさまざまだと思います。眠ってしまうほどに心を落ち着ける音楽、踊りたくなるようなノリのいい演奏、懐かしい音楽、聴いたことのない新しい音楽、いろいろな状況に対応できるように日々勉強です。
- ●その他今お使いになっている楽器にまつわるエピソードなどありましたらお教え下さい。
- 古い楽器なので、純正パーツが市場には存在しません。一度バルブキャップ裏のコルクが経年劣化で粉々に砕けたことがあり、そのときは楽器屋さんで作ってもらいました。パーツ代やメンテ費用はサックスなどに比べるとかかりませんが、トランペットにしては世話が焼ける方ですね。トランペット以外にもフリューゲルホルンを持っていますが、基本的に使っていません。理由は、荷物が増えるのが嫌だから。トランぺッターは身軽さが取り柄なので…。他にもKINGのシルバーソニック・コルネットも持っています。これは、とある方からお父様の遺品を「吹いてくれる人に貰ってほしい」と譲り受けたものです。ジャムセッションに行くときなどに、たまに出動します。
レコーディングの感想
- ●今回のアルバム制作のきっかけは何でしょうか?
-
今回レコーディングした私のビッグバンドは2013年から活動していますが、そろそろ作品を世に送り出してたくさんの人に聴いてもらいたいと思っていました。ビッグバンドは人数が多く、地方へのツアーなどは予算的にもメンバーのスケジュール的にも厳しいものがありますので、多くの人に聴いてもらうにはCDなど録音媒体にすることが最適な方法だと思ったのがきっかけです。
- ●このアルバムの制作に対する想い、意気込み、狙いの音、などを教えて下さい。
-
先にも触れましたように、たくさんの人に聴いてもらいたい、楽しんでもらいたい、という気持ちは、CD制作の時だけでなく、ライブのときにも常にあるので、マニアックなものではない、というのは意識しています。が、大衆に媚びるという狙いではないので、自分の中にあるサウンドのイメージをシンプルに伝わりやすい形で表現した…という感じでしょうか。要は、やりたいようにやっているだけなんですけど。オーディオ的には、ビッグバンドという大編成・多チャンネルをどう聴かせるかという悩みは常にあると思います。同じ空間で出した音がブレンドする様を生々しく収録するか、スタジオ盤であると割り切って各々のチャンネルが分離して聴こえるようにするか、という選択です。今回は各楽器の分離をメインに音作りをしましたが、左右のパンの振り方が絶妙で、非常に臨場感がある仕上がりになっていると思います。このあたりはケンシロウさんが最高な仕事をしてくれました!
- ●このアルバムのコンセプト的なものはありますか?あれば教えてください。
-
今回のアルバムには新曲は一切収録しておらず、過去にスモールグループで録音されたことのある曲を、ビッグバンド編成にアレンジして収録しています。私の曲だけではなく、権上康志、大友孝彰、杉山悟史といった、関西でお馴染みのミュージシャンたちの楽曲も収められています。表のテーマとしては私の編曲を素晴らしいメンバーで、という感じですが、『メイド・イン・関西』という裏のテーマも密かにあったりします。
- ●アルバムはバンドとしては何枚目でしょうか?
-
バンドとしては一枚目になります。メンバーの中には数えきれないほどの録音を切り抜けてきた猛者から、今回が初のレコーディングだという新人まで、さまざまでした。お互いがフォローし合って、一枚目のアルバムとは思えないほどに丁寧に録音を進められました。
- ●バンドは結成何年になりますか?
-
バンド自体は2012年に出来ていたのですが、パブリックな活動を始めたのは2013年の秋ごろからなので、現在は実質4年目になります。メンバーそれぞれ売れっ子ミュージシャンばかりなので、予定を合わせるのが難しく、毎月ライブをすることもあれば、半年近く期間が開いてしまうこともあります。
- ●メンバーの方々の特徴や役割みたいなものはありますか?
-
え~と、メンバーが多いので、それぞれ一言ずつ紹介していきたいと思います!
トランペット
高田将利 お父さん
山中詩織 妹
長山動丸 チャラい枠
岩本敦 永遠の後輩キャラ(いじられ役)
トロンボーン
礒野展輝 SUMO WRESTLER
吉岡明美 お姉さん
今西佑介 ヒゲと帽子そしてメガネ
佐竹寛美 理性
サックス
柏谷淳 宴会部長
武藤浩司 マスコットキャラクター
高橋知道 警察(ピッチやリズムが悪いと即座に取り締まる)
古山晶子 癒し
萬淳樹 弟
リズムセクション
藪下ガク(ギター) 助っ人外国人
石田ヒロキ(ピアノ) 堅実
杉山悟史(ピアノ:ゲスト参加) 熱血
光岡尚紀(ベース) 兄
齋藤洋平(ドラム) マジで!?
あと、リーダーとトランペットの僕、横尾昌二郎は、みんなのまとめ役で、料理上手です。
実はJ-POPも好きです(特にPerfumeが好きです)。 - ●レコーディングに向けてリハーサルはどの程度されましたか?
- レコーディング前の4月~8月は、毎月ライブとリハーサルを一回ずつやってきました。いざレコーディング当日になってから、ライブでは気が付かなかった細かい部分を修正しながら進めるシーンもありましたし、いくらリハーサルを重ねても、ライブとレコーディングは全く別物だと感じました。
- ●レコーディングはどんな風に進みましたか?感想やエピソードなどを教えて下さい。
-
先ほども少し触れましたが、本当に丁寧に進めていきました。メンバー全員の協力あってのことだったと思います。あと、雰囲気は終始和やかでした。僕のバンドはムードメーカーだらけで、常にどこかで誰か笑ってるので、たまに笑い疲れてしまうこともあります。一番焦った瞬間は、最終日の最後の曲のマスターテイクを録り終え、部分修正をしているときにスコアのコードネームに記入ミスが見つかったときのことです。元々自分が書きたかった音のイメージはあったはずなのですが、その時は軽くパニクってしまって、落ち着きを失ってしまいました。レコーディングならではの面白かったシーンといえば、リードトランペットの高田さんが、ハイノートを後でオーバーダビングする光景は、傍から見ているとなかなかシュールでした。もちろん仕上がりはカンペキです!あと、ギターとエレキベースはラインで録音し、後日リアンプ(録音したデータをアンプから出力してマイク録りし直す作業)をしたのですが、そちらもまたかなりのシュールさでした。藪下くんがアンプの横に立っているだけなのに、アンプからは藪下くんの音がする、的な。
- ●ミックス/マスタリングはいかがでしたか?難航したりは無かったでしょうか?
-
ミックス作業では、ケンシロウさんの敏腕エンジニアっぷりを存分に味わえました!それでも、編成が大きいためチャンネル数が多く、そのぶん作業量も多くなるため、8曲を二日間かけてミックスしました。今まで何枚ものCDにサイドメンとして参加してきましたが、マスタリングはリーダーにお任せで、立ち合いをしたことはありませんでした。今回はリーダー作ということで、もちろんマスタリング作業に初めて立ち会ったわけですが、思った以上にガラッと音が変わってしまうことに驚き、戸惑いました。マスタリングした音源を持ち帰り、何種類かのヘッドホン・イヤホン、家のミニコンポ、出入りしているライブハウスのオーディオなどで聴き比べてみましたが、低音の特定のある音域が膨らんでしまうのが気になり、やり直してもらいました。2回目のマスタリングは、特定の音域に絞ってリミッターをかけるコンプレッサーを使用し、納得の仕上がりになりました。マスタリングの奥の深さを学びました。
- 長島直乗さん(レコーディングエンジニア)
- ビッグバンドの録音は色々と難しい所が有り、僕も実際録音が始まるまではドキドキしていました(笑)まず、ブースの数。録音の場合は、楽器ごとの音量差は非常に問題となるので、まず音量の大きいドラムをブースの1つに入ってもらい、後はアレンジなどの事も踏まえ、もう1つのブースにはピアノに入ってもらいました。後の、ベース、ギター、管楽器はスタジオの大部屋でみんな一緒に演奏してもらう事になりました。録音ではウッドベースは生音で録音しますので、管楽器の音の被りをどのくらい軽減出来るかがポイントでしたが、パーテーションなどを使い、何とかその問題もクリア。ギターはラインで録音しておいて、ミックス時にリアンプ(録音しておいたラインの音をアンプに入れて、アンプの音をまたマイクで集音する)しました。ミックス時は管楽器の人数が多いので、その、人数感をどれだけ上手く表現しつつ、楽曲の良さ、アレンジのカッコ良さをいかに引き出せるかというのがポイントでした。ゴッチャリしてしまうと、曲やアレンジの良さが出ませんし、スッキリし過ぎると人数が多いはずなのに迫力が無くなってしまいますので。管楽器のアンビエンスのマイクとオンマイクのバランスにはかなり気を使いました。
1stアルバム「YOKOO BB」
いよいよ横尾さん CD化! 横尾昌二郎さんといえばstudio fではすでにお馴染みとなっていますがいよいよ横尾さんご本人の銘を冠したアルバムがリリースとなります。 まさにそうそうたるメンバーによるビッグバンドの3日間に渡るレコーディングは、まるでどこかのジャズイベントのような雰囲気を呈していました。初日の朝、メンバーの方々が揃い始めるにつれテンションがあがってくるスタジオ内の雰囲気は、コンボの録音のときとはかなり違った趣がありました。 スタジオ内は、管楽器の皆さんがそれぞれの顔が見れるように「コの字」形に並ばれての配置となりました。初日はお昼休憩を挟みながらじっくりとリハーサル~サウンドチェックを終え、13:30をまわったところで、いよいよ本番の開始となりました。初日は2曲のベーシックトラックを完了し、2日目から残りの楽曲とソロ部分の録音となりました。 ミックス~マスタリングではバンドの一体感や空気感をじっくりと調整され、YokooBBさんの魅力がぎゅっと詰まったファーストアルバムとして完成しました。みなさんも是非お聴き下さい。