寿: |
こんな言葉を知っておるかニャ?
下農は草を見て草をとらず、中農は草を見て草をとり、上農は草を見ずして草をとる。 |
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水: |
ゲノウ、チュウノウ、ジョウノウ? なんですか、それは? |
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寿: |
下農とは勤勉でないお百姓さんのことじゃ。草が生えていても、なまけてそれをとろうとしない。 |
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水: |
はあ。 |
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寿: |
中農はふつうのお百姓さんじゃ。畑に生えた草を見ると、草むしりをする。ま、あたりまえのことじゃがニャ。 |
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水: |
となると、上農は立派な百姓さんですね。 |
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寿: |
うむ。すぐれた農夫は、草が生える少し前に、土をかいて草が生えないようにするのじゃ。 |
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水: |
なるほど。草を「問題」に置き換えれば、一般のビジネスにも言えそうですね。能力の低いビジネスマンは問題が起きてからも解決しようとしない。ふつうのビジネスマンは問題が起きてから対処する。しかし優秀なビジネスマンは、問題が起きないようにくふうするとか。 |
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寿: |
その通りじゃ。同じことが音楽の練習についても言えるじゃろうニャ。 |
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水: |
問題を解決しない人、問題が起きてから解決する人、問題が起きないようにくふうする人ですね。 |
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寿: |
こんな表現もあるぞよ。
下農は雑草をつくり、中農は作物をつくり、上農は土をつくる。 |
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水: |
ははあ、これは「なにに着目するか」という意識の問題を言っているんですね。 |
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寿: |
お、たまにはまともなことを言うじゃニャいか。 |
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水: |
えへへ、えへへ…。 |
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寿: |
意識の低い者は雑草、つまり問題ばかり引き起こしておる。平凡な能力の音楽家は作物をつくる、これは楽器の練習だと解釈できるニャ。 |
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水: |
では、すぐれた音楽家がつくる「土」ってなんですか? |
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寿: |
ニャんじゃと思う? |
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水: |
う~ん、身体ですか? |
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寿: |
まずは33点獲得じゃニャ。 |
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水: |
えらく半端な点数ですね…。あ、わかった!意識だ!
すぐれた意識を作るのが「土」なんだ。 |
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寿: |
それで33点が加算されて、66点にニャる。 |
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水: |
え~? 残りの点数はなんですか? |
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寿: |
前回の対談を思い出してみるのじゃ。 |
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水: |
えーと、えーと…。そうか「気」ですね!
心と身体をつなぐものとしての「気」でしょ? |
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寿: |
正解じゃ。身体、意識、そして両者をつなぐ境界領域の「気」。ここに注目するのが上農としての土づくりに相当すると吾輩は考えるニャ。 |
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水: |
具体的にはなにをすればいいんですか? |
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寿: |
前回、重力の話をしたのを覚えておるかニャ? |
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水: |
我々は強烈な「上から下への力」に常時さらされている。それは「重力の滝」に打たれているとさえ言えるほどの重圧だ、ということですよね。 |
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寿: |
その「滝」に逆らって直立しているのが人類じゃ。吾輩のような猫は四つ足動物じゃから、重力の影響が格段に少ない。しかし、人類はまっすぐ立つために膨大なエネルギーを必要としておるのじゃ。 |
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水: |
でもみんな普通に立っていますよ。 |
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寿: |
そこが認識の甘さじゃ。 |
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水: |
え? だって人間なら誰でも当たり前に立ってるじゃないですか。 |
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寿: |
立ち方に「うまい/へた」があると考えたことはないかニャ? |
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水: |
え~!? 立ち方に「うまい/へた」があるんですか~? |
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寿: |
たとえば足の裏の外くるぶし側と内くるぶし側のどちらに体重をかけるのが正しいと思う? |
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水: |
どっちでも同じだと思いますが…。 |
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寿: |
ヒザから下に2本の骨があるのを知っておるか? |
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水: |
いえ、知りませんが…。 |
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寿: |
内くるぶしは太い頸骨(けいこつ)という骨の下の端ニャんじゃ。外くるぶしは細い腓骨(ひこつ)という骨の下端じゃ。
http://health.goo.ne.jp/medical/mame/karada/jin004.html |
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水: |
へえ~。 |
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寿: |
で、太い頸骨と細い腓骨、どちらに体重をあずけるのがいいと思う? |
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水: |
そりゃやっぱり太いほうでしょう。重さを支えるんですから。なるほど、つまり内くるぶし側に体重をのせるほうが、力学的に無駄がないということになるわけですね。 |
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寿: |
では前後ではどうかニャ? |
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水: |
つま先かカカトかってことですか? よく足の親指の付け根に体重をのせろって聞きますが。 |
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寿: |
これも足の骨格図を見るとよくわかる。足の甲の中には細い中足骨という5本の骨がある。それに対して、先ほどの頸骨の真下には距骨(きょこつ)という大きな骨、その後ろのカカト部分には踵骨(しょうこつ)というさらに大きな骨がある。 |
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水: |
とすると、足の前のほうは骨が細いから体重をのせるには適さない。むしろカカト寄りの大きな骨で立ったほうがいいことになりますね。 |
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寿: |
その通りじゃ。だから、ねこ気功では立ち方の基本として「うちくるぶしの真下に体重を落とす」ことから練習するのじゃ。 |
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水: |
あ、あれはそういう意味だったんですね。もし外くるぶし側で立ったらどうなります? |
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寿: |
ふくらはぎまわりの筋肉が体重を支えるために動員され、ヒザから下がカチカチの「ヨロイを着たような」状態になるじゃろう。 |
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水: |
O脚にはなりませんか? |
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寿: |
そのリスクも高まるじゃろうニャ。 |
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水: |
では足の指側というか前側に体重をのせた場合はどうです? |
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寿: |
これも体重を支えるために、太ももの前側にある大腿四頭筋が固くなる。ただ、これにはいろんな留保条件があるので、もっとくわしい話をいずれしよう。 |
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水: |
老師がおっしゃりたいのは、骨で体重を支えれば、無駄な筋力を使わないで立てるということですね。 |
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寿: |
その通りじゃ! 今日はサエとるのう。 |
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水: |
てへ。 |
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寿: |
このような骨と筋肉の役割分担いかんによって、巨大な「重力の滝」への対処法は、大きく優劣の差がつくのじゃ。 |
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水: |
すると「よい姿勢」とは、見た目がかっこいいということではなくて、重力との関係がよいという意味でとらえる必要がありますね。 |
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寿: |
うむ。重力との関係が悪い姿勢と良い姿勢、それが人間の呼吸にどのような影響を与えるかについて、次回は話そう。 |
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水: |
姿勢と呼吸の関係ですね。楽しみです! |
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(つづく) |
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