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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.140
Jazz Bar Buddies

若手ミュージシャンを“仲間”が応援するジャズバー
@大阪・北新地

 高級クラブやラウンジが軒を連ねる、大阪・キタの歓楽街、北新地。新地といえば、大人の社交場。ドレスアップしたキレイなお姉さんたちが行き交い、紳士がスマートにお酒を嗜み、粋に遊ぶ場所である。
いい大人の僕ではあるけれど、紳士というにはほど遠く、縁もなければ、ゆかりもなく、新地と聞いてひたすら怖じ気づいてしまっている。僕にとって新地は堂島アバンザのジュンク堂に行くための通り道に過ぎない。いろいろな意味でドキドキしながらなんとかお店に辿り着く。取材でなければ足を運ぶことはないところなのだが、とにかく、暫定的ではあるけれど、新地デビュー!?である。
さて、今回、お伺いする『Jazz Bar Buddies』は、2017年7月にオープンしたジャズバーだ。JR東西線北新地駅から歩いてすぐ、新地本通沿いのバー・ラウンジが入るビルの5階にある。未知の世界の扉の向こうには、眩いばかりのワインレッドの絨毯と重厚なピアノが目に飛び込んでくる。緊張した面持ちの一行を笑顔で迎えてくださったのが、代表の大竹徹さんとマネジャーの渡邉栞さん。大竹さんは飲食店の経営や、総合プロデュースなど、経営コンサルティングを本業にされている。
どうして北新地に? 開口一番にお聞きすると「新地ありきでしてね〜」と、意味深な言葉が返ってくる。
「いろいろビジネスを手がけているオーナーが、仕事柄もあって新地で会食することが多く、ジャズを聴くようになって、そのご縁でジャズバーを出店することになりました」
オーナーさんの仕事仲間や、友だちとバンドを組んでオープン前に練習をしたり、レッスンを受けたりして自らもドラムを叩いているそう。ドラマーとしてステージにも上がる辻川郷くんが講師をする、彼のもとでドラムを教わったのがきっかけだ。お店を任されている大竹さんは、ミュージシャンのネットワークがなかったので、彼の紹介でミュージシャンが集まり、その輪が広がっていったとか。

 連日、開催されているライブは、20〜30代の若手ミュージシャン中心の編成にヴォーカルが加わり、19時半から30分×4ステージ、3ステージの日もあるのでホームページでチェックしたい。若手といっても個々のバンドで活躍し、アーティストサポートでレコーディングに参加したりして実績は十分あるのだが、演奏する機会がたくさんあるわけではない。そんな彼らの活動の場を提供しているといってもいい。
「お客さまがどんなステージを期待しているかわからないので、特集を組みながら好みを探っています。ミュージシャンは40人ほどいるのですが、同じテーマでもメンバーを変えることで違ったステージになります。今は集客を考えていろいろ試みているという感じですね」と、ブッキング担当の渡邉さん。
ジャズバーと謳っているが、ライブスケジュールを見ると、「ヴォサノバ・ラテン祭」「POPS & FUNK NIGHT PART 2」といった企画をはじめ、ロック、ポップス、シネマなど、オリジナルより、むしろ、スタンダードナンバーのアレンジや、J-POPを含めてジャンルに幅を持たせている。
プレイヤーとの距離が近く、お客さんと会話を楽しみながらいっしょに歌ったり、親しみやすいステージは好評だ。ミュージシャンの知り合いは若い世代が多く、その年代は新地に来ることは難しく、常連客とのギャップもあるが、年配の常連客が若い才能あるミュージシャンを育て、成長を見守りながら応援している感じがいい。
そこである企画が持ち上がり、この1年間に出演したミュージシャンの中から人気投票で選ばれた5人が、11月にニューヨークにレコーディングに行くという。メンバーの中には海外に行くのも初めてという人もいて、この経験が今後の活動の大きなモチベーションになるのはいうまでもない。そして、完成したCDはお客さんにお配りする予定だ。おおっ、これはもしかすると、将来、お宝CDになるかもしれない。『Jazz Bar Buddies』から世界へ羽ばたくアーティスト誕生も夢ではない。そうだ、レコーディング参加メンバーを紹介しよう! 観月彩可(vo)、杉野幹起(sax)、杉浦潤(pf)、熊代崇人(ba)、久家貴志(ds)の5人だ、Oh yeah!

 店名の“Buddies”は“相棒”。仲間が集まる店にしたいと名付けたそうで、ステージに上がれば、ブッキングでメンバーが変わっても5人は、“Socio”(ソシオ)と名乗って演奏する。スペイン語で“仲間”である。う~ん、なかなかよくできているな。心憎いぜ。プレイヤーもスタッフもお客さんもみんな仲間。世代を超えてみんな仲間。毎日、そんな仲間が集う店だ。このカジュアルな雰囲気がいいね。どさくさまぎれに仲間になって新地のハードルも低くなったような気がするぞ。
「ジャズが好きな人ばかりが集まるのではなく、新地でごはんを食べて飲んで、二次会はラウンジではなく、音楽が聴きたいという方に、ぜひ、来ていただきたいですね」と、ウェルカムモード全開の大竹さんだ。
とはいえ、でも、ここは、なんといっても新地である。気になるのはチャージ料金。飲み放題のフリードリンクで最初の1時間6000円、延長1時間4000円だが、LINEの友だち登録をすれば半額になるそうだ。場所柄を考えると、良心的でちょっと安心。なんと、ビールもワインもワンコインで飲めるのである。これなら憧れの新地、本格デビューも近いぞ。
今回はちょっと肩ひじ張った取材になったけれど、店を出てふと思う。好景気に沸いていたころの新地の賑わいはどうだったのだろう。今とくらべものにならないくらい活気に満ちあふれていて、今よりもっと煌びやかな世界だったに違いない。味わってみたかったな、街の空気を、時代の気分を。希望と繁栄を象徴する夜の街というと大げさだが、万博の古き良き時代とバブルの狂っていた時代。昭和の二つの時代を経て、平成の今も希望と繁栄はあるけれど、当時とくらべると、大きなものではない。平成の終わりに新地の一端に触れた心地よさ。せめて、もう一度、生きているうちに戻ってこないかなぁと願いつつ、秋の夜長に儚き夢を少々。