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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.139
喫茶 茶会記

2つのスペースでジャズ愛を共有する
@東京・四谷

東京って奥が深い。四谷界隈に来るたびにそう思う。新宿通りの“表の顔”は企業や老舗飲食店が立ち並ぶ都会のまっただ中、といったビル街だが、ひとつ路地を入ると生活を感じさせる集合住宅や古い戸建てが健在。老木や植栽もこの辺りが昔からの住宅地だったことを物語る。
本日うかがう『喫茶 茶会記』は、四谷三丁目駅から4〜5分とは思えないような、この静かな住宅地の一角にある。小さなビルの白い壁面にいきいきと繁るツタ、円と正方形とにくり抜かれた飾り窓のある入り口の黒いドア。ただならない気配は入る前からわくわくさせるなぁ。
出迎えてくださったのはオーナーの福地史人さん。高校生の時にたまたま手にしたCDをきっかけにジャズ好きに。上京後はプログラマーやSEとしてIT業界で約16年間働く。その間、時間をつくっては明大前『マイルス』、渋谷『メアリージェーン』、中野『コーヒージャズジニアス』、四谷『いーぐる』といった、さまざまなジャズ喫茶に足を運んだ。

「当時は、取引先からいつ連絡がくるかわからないほど忙しかった。意外にもジャズ喫茶の大音量がプログラミングのアイデアや頭のなかでロジックを構築することに合っていて、集中することができました。その頃ジャズ喫茶に費やしたお金は、いまだに回収できていないかもしれません(笑)。でもそのおかげでジャズ人脈ができて今に至るとも言えるのですが」と福地さん。
その後、知り合いのオーディオ会社と同居する形で『喫茶 茶会記』を始めたのが2007年。この会社の撤退にともない、空いたスペースも借り受けてイベントスペースをオープンさせる。手前の喫茶スペース、控え室を伴う奥のイベントスペース2室ともにアールヌーヴォーを基調とした趣のある調度で統一され、シックで美しい。細やかな意匠のランプの灯り、窓の陽射しに揺れるツタのシルエット。デリケートな光がアンティーク家具の魅力と居心地のよさをいっそう引き出している。
サイトには『綜合藝術茶房 喫茶 茶会記』と書かれ、朗読会、講演会、モダンダンス、完全即興の現代音楽、演劇、能、などなど、連日何かしらのアートイベントが開催されている。が、はて、この場所のいったいどこがジャズ喫茶?、と突っ込みたくなるほど“ジャズ色”が伏されているんですけど……。
「ですよね。サイトを見た方からは何のお店か分からないと言われ、老舗の同業者からは白い目で見られ(笑)。でも昔ながらの“ジャズ喫茶”では経営が成り立たない厳しい時代。ほかのジャンルで間口を広げつつ、ジャズに特化したイベントを定期的に画策しながら、コアなジャズファンを地道に増やしてこうと思っているんです」と福地さん。

『喫茶 茶会記』では大きな柱として、それぞれ特徴を持つジャズの定例会が催されている。50〜60年代のビバップを中心に、参加者がレコードやCDを持ち寄って聴く『九谷ジャズファンクラブ』、専門家のナビゲーターが選ぶテーマに沿って聴く『グルービーズ・ジャズ・ストーリー』、NY最新ジャズシーンの作品を専門家のチョイスによって聴く『四谷音盤茶会』の3つだ。
喫茶スペースに来られる“一般”のお客さまにも、イベントスペースで行う定例会を通じてジャズの魅力を知ってもらおうと指南・案内する。それが店主の重要な仕事になっている、ってことかな。ナルホド、おもしろそう!
で、そうした次世代の新しいファンを惹きつけるには、何が必要なんでしょう。
「スタイリッシュであること。ファッションも生き方も。ジャスという音楽には常に最先端という自負がある。ジャズを演奏する人も聴く人も、それにふさわしくカッコよくなくては。」と即答。後ろかぶりのハンチングに黒シャツ&ジーンズという、“黒子”に徹した福地さんのおしゃれもまたスタイリッシュだ。そしてこう続けた。
「極端かもしれませんが、MJQ、C・ブラウン、T・モンクの専門店があったっていい。自分の大好きな音楽を心を込めてかけ、しっかり聴く。ジャズ喫茶とは“ジャズは多様化してます”みたいな模範的な答えとは正反対の、ジャズ愛を共有するワン&オンリーの場所でありたいというのが僕の本音、かな」。
イベントスペースの正面に置かれたスピーカーはアルテック4168C+アルテック811B+JBL075.。
これは2002年に閉店した渋谷のジャズ喫茶の名店、『音楽館』から引き継いだもの。店主自らの手でマッキントッシュに繋いだ。
時間も空間も超え、今ここ『喫茶 茶会記』で、みんなのジャズ愛が大音量で鳴り響いている。