KENRO SAITO / Chief Director of Japan School Jazz Education Society East Japan Headquarters
ビッグバンドがつくる成長へのステージ
毎年1月、東京・日本青年館で開催されるスチューデントジャズフェスティバル。この大会を主催する日本学校ジャズ教育協会 東日本本部 理事長の齋藤研郎さん。彼が顧問を務める長野県蓼科高校ジャズクラブは、映画「スウィングガールズ」のモデルのひとつとしてよく知られている存在です。そんな齋藤さんにスチューデントジャズフェスティバルを通した「ジャズと教育」について、お話をうかがいました。
person
日本学校ジャズ教育協会東日本本部理事長
齋藤研郎さん
長野県蓼科高校社会科教諭として歴史の授業で教鞭を振るうかたわら、同校ジャズクラブJAZZ☆CANDY顧問として創部から現在までの指導に当たる。2006年 NHKでジャズクラブの活動を追ったドキュメンタリ「山あいの町がスウィングする〜長野・蓼科高校ジャズクラブ青春記〜」が全国放送される。2008年、同校ジャズクラブの米国公演を実現。
interview
ジャズを演奏することは成長へのきっかけ。
「私の勤務する長野県蓼科高校は生徒数250-260名ほどの、こじんまりとした学校です。
どちらかといえばここの生徒たちは、普段人前に出ていって自己主張するようなタイプではありません。だからこそ、そんな子どもたちに大きなエネルギーを与える「ジャズを演奏する」という行為は、とても大切だと感じています。
バンドで練習していくうちに、ソロを取りたくなる。そして人前で堂々と演奏できた時の自信。これこそが、人として社会人として、一人前に育っていくためのひとつの重要な契機にほかなりません。
今年で20回目を迎えるスチューデントジャズフェスティバルは、優劣をつけるのではなく、それぞれがより良くなっていくための発表の場。講師の先生方のアドバイス、生徒どうしが他校の演奏のいいところを伝え合うメッセージカードなど、教育的側面がまず第一にあります。回を重ねるごとに、出演する生徒たちのレベルは上がってきていますね。
11年前、私が最初に出演した際などは「スウィング」ということがよく分からず、当時の講師を務めていらした高橋達也先生に、それはそれは厳しい批評をいただきました。
「あなたたちがやっているのは吹奏楽。ジャズがなんたるかを顧問の先生から勉強し直して、そこからスタートしないと」と。大勢の生徒とその保護者の前でガツンとやられ、コメントされている間は本当に「針のむしろ」のようでした(笑)。
でも、かえって「よし。じゃあやってやる!」という思いで皆が熱くなり、そこから音楽活動の基礎を生徒とともにつくってきた。実際、着実に実を結んで今日に至っていますが、当時のことをよく知っている妻には「昔のことを振り返ると、今の子どもたちの活躍は嘘みたい」と言われます。」
「音楽への情熱」がサウンドをつくる
「私自身、とにかく音楽が大好きなのです。高校生のころからジャズやクラシックに興味をもち、マニアと呼ばれるようなレコード・CDのコレクターになっていきました。たくさん聴く中で「これはいいな」というものがあれば、すぐに子どもたちに聴かせたい、演奏させたいと思いますね。
「好きで好きでたまらない」という指導者のエネルギーが子どもたちを引っ張っていくのではないでしょうか。音楽に対する「熱い思い」をどれだけ生徒に伝えられるか。ここにかかっています。技術的なことを云々言う以前に、いかに生徒たちをやる気にさせるかが指導者の大事な役割かな、と思います。
東京にお住まいの方は、200円も出せばここ千駄ヶ谷の会場までいらっしゃることができるでしょう。でもこのイベントに参加する多くの生徒は、地方の小さな町から新幹線代・宿泊代など何万円もかけて1年に1度のこのフェスティバルのために、ものすごい情熱を持ってやってくる。昨日まで熱を出していた子が今日のステージには上がっている。「なにがあっても出たい!」、その意気込みが、素晴らしい演奏につながっているのではないでしょうか。
こうした彼らのモチベーションの高い演奏を聴いたお客さまも盛り上がり、その雰囲気で演奏者はますますノってくる。双方の感動が一体となって、予想を超えたすばらしいサウンドが目の前で生まれます。聴く人もいっしょにサウンドをつくるということ。これもジャズを演奏する魅力のひとつだと感じます。」
スチューデントジャズフェスティバルと私たちの願い
「これだけ意欲的に取り組む子どもたちが大勢いるのに、大人の都合でその演奏の機会を奪うようなことがあってはいけません。スチューデントジャズフェスティバルはなんとしても発展的に継続したい。常に安定した場所の提供ができること、そのための組織づくりなど、まだまだ課題はたくさんあります。
また教育現場の意識として「王道のクラシック」に対し、「亜流のジャズ」というイメージが相変わらず根強く残っています。先生方にも、もっとジャズの持つ文化の魅力や教育的な効果に目を向けて欲しい。スチューデントジャズフェスティバルはそれをアピールできる大切な場といえるでしょう。
たった2日間で千人近い生徒がステージにあがるということ。互いに刺激し合いながら、演奏し、聴き合い、情報交換をし、そして次につながる何かを得て、帰っていく。凄いことではありませんか。
音楽の素晴らしさは万国共通。その良さを教育の場で実現し、さらには文化にまで高めていくことが、私たちみんなの願いといえるのではないでしょうか。」
このあと、出番が近づいたので齋藤さんは席を立たれました。本当にぎりぎりまでインタビューにおつきあいくださり、ありがとうございました。
ステージで指揮をする齋藤さんと、演奏する蓼科高校ジャズクラブのみなさんは、活き活きと輝いています。客席に向けられた彼の背中は、生徒とともに歩む喜びと、積み重ねてきた日々への自信に溢れているようにも感じられました。
取材協力:BIGBAND!編集部
特集「神戸ジャズ文化を彩る人々の魅力」 KOBE Jazz People