「お客さんとの距離を近くするというのは大切なことで、今回一緒にやるケイコさんはそれを実践できる人ですね。それってなかなか最近の若い人にはできなかったりします。それぞれのアーティストがインストを、自分の中だけで一生懸命演奏している。でも、どれだけ上手でもお客さんと距離があったら意味がないというか、僕には納得できない。それを変えていこうと思って、僕がジャズをボーダレスにやろうとしているのはそういう理由です。真面目に演奏するだけじゃ音楽は解決しない、だからといってお客さんにサービスするだけじゃダメ。そのバランスを考えて、エンターテイメントとしてどうやってやっていこうかというのが命題です。
僕は僕なりにアメリカでいろんなものをずっと見てきたし、僕なりの答えもあって。それがとにかく楽しんでもらうという部分で、それがオンステージなこともあるし、編曲として出したり、作曲、それも映画音楽であったりJ-POPであったりというのはさまざまです。平井堅くんにジャズを歌ってもらうと、彼らにもジャズのインパクトを学習してもらえるし、彼は元々ジャズを歌ってみたかったというし。それと同時にジャズの人たちにもJ-POPの人がこんなふうに歌うことができるんだよということも知ってもらえるし、それはジャズに対する恩返しということにもなります。そういう交流が生まれるのがいいじゃないですか。
だから一つ矛先を変えて、コラボって言うと簡単ですけど、いろんな人と一緒にやるとそこに交流が生まれて、新しいものが生まれるんですよね。考え方を一つにしてやっていくと同じところを掘ってるだけになってしまうので、そこを僕は変えていきたいと思うんですね。
最近は本当にいろんなことをやっていて、プロデューサー的な面が大きくなってますが、やっぱり僕はジャズピアニストなんです。
ヨーロッパ公演をしているときに「あなたのアイデンティティとは」と突きつけられることが多くて、自分のルーツを考えてみようと思ったんです。日本人が日本の音楽を持っていくならいいんだけど、日本人がヨーロッパにアメリカの音楽を持っていったら「あなたはここで何がしたいんだ」となるわけですよ。僕は悪く言うと「何でも屋」ですが、実際のところ何者なのかと考えてみたんですね。
たとえば「宇宙戦艦ヤマト」の宮川泰先生とは親しくさせていただいていたんですが、あの方はどんな仕事をしていてもやっぱりバンドマンだったんです。ピーナッツをやろうがヤマトを書こうがジャズのバンドマン。そのことが僕は宮川先生に対して、素晴らしいな、誇りだなと思うんです。やっぱりそうでなくちゃいかんよな、と。そういうことをヨーロッパツアーのときに、誰というわけでなくヨーロッパ自身に教えてもらいました。
音楽業界には素晴らしいプロデューサーだけど楽器はやらない、編曲はやらない、という人もいます。いろいろいるけど、僕はやっぱりバンドマン出で、最後までバンドマンでいたいと思います。だからどれだけ大きな仕事をしていても、小さなライブハウスで演奏するというのはやめたくないなと。それが僕のすべての源ですよ」 |