Jazz People
挾間美帆 インタビュー
「新しい挑戦に取り組む日々」

8月30日、注目のピアニスト、シャイ・マエストロを迎えての東京芸術劇場で開催された「NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇」も大きな話題となったジャズ作曲家、挾間美帆さん。10月に自身の率いる「m_unit」の初の関西公演を迎える挾間さんに今回の関西公演の意気込みや聴き所、さらには先日の芸術劇場での公演についての感想やkobejazz.jp読者にも多い学生ジャズプレイヤーに向けてのアドバイス、ご自身の今後の展望などをお聞きしました。
Person

挾間美帆
国立音楽大学(クラシック作曲専攻)在学中より作編曲活動を行ない、これまでに山下洋輔、モルゴーア・クァルテット、東京フィルハーモニー交響楽団、ヤマハ吹奏楽団、大西順子、須川展也、坂本龍一、鷺巣詩郎などに作編曲作品を提供。
2012年、マンハッタン音楽院大学院(ジャズ作曲専攻)への留学を経て、『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』によりジャズ作曲家として世界デビュー。2015年にセカンドアルバム『タイム・リヴァー』リリース。ニューヨークを拠点に意欲的な音楽活動を展開し、2016年には米ダウンビート誌「未来を担う25人のジャズアーティスト」にアジア人でただ一人選出されるなど高い評価を得ている。
2017年5月、シエナ・ウインド・オーケストラを指揮して組曲「The DANCE」を日本初演。同オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンスに就任する。9月、東京JAZZ「JAZZ100年プロジェクト」の演出・編曲・指揮を担当し大成功に導く。10月にはセロニアス・モンク生誕100年プログラムでオランダの名門メトロポールオーケストラのビッグバンドとオランダ4都市ツアー(2018年2月にライブアルバムをリリース)。
2018年11月、サードアルバム『ダンサー・イン・ノーホエア』リリース。
2011年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。2014年、第24回出光音楽賞受賞。
2015年、BMIチャーリー・パーカー・ジャズ作曲賞受賞。
Interview
アーティストインタビュー by 小島良太(ジャズライター、ジャズフリーペーパーVOYAGE編集長)
東京芸術劇場「NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇」を終えて


── 8月30日の東京芸術劇場「NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇」が先日行われましたね。その公演を終わられての感想を教えてください。
「すごく正直な事を言うとまだよくわからないです。 というのも、今回はコンサート全体を私がプロデュースしていたので、プログラムの最初から最後まですべて自分に責任があり、まったく客観的に見ることができなかった。そういった経験は今までにありませんでした。 コンサート中、自分では気付かなかったのですが、ずっと固まって腕組みして聴いていたらしく、肘にその痕が残って、終わってから肩もすごく凝っていました。 お客様がどこでクシャミしている、寝ているかとかそんな事ばかり気になってしまって(笑)。 自分でも初めての感覚でしたね。だからコンサートの記憶はあまりないです。 大規模なコンサートで、しかも自分の曲だけではないので、その音楽の評価を下げてはいけないし、とても緊張しました。後から好意的な反響が多かったので、ちょっとホッとしている所です。」
── 早速、コンサートの反応のまとめ情報が出ていましたよね。それを拝見すると、たしかに今までにない感覚、という声が多かったですよね。
「本当に実感がまだ湧かないですが、後に続く良いキッカケのコンサートとなれば良いなと思っています。」
関西で初の「m_unit」公演
── ついに「m_unit」初の関西公演ですね。
「『m_unit』での関西公演は初めてなので、関西の方々から、どういう反応があるかとても楽しみです!名古屋より西に行った事がないので是非多くの方に聴いていただきたいです。 これだけ大人数(14人)のツアーするのは、なかなか難しく貴重な機会ですし、2012年に初めてのアルバム(『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』)のリリースから7年経ってついに実現するのは感慨深いです。関西のお客様の空気感と音楽がどう交わるのかも楽しみです。 もう一つの注目してほしいトピックとしてはニューヨークでいつも一緒に演奏しているメンバーも今回ツアーに2人(トランペッターのジョナサン・パウエル、ドラムスのジェアード・ショニグ)参加してくれる事です。その2人の演奏を日本で聴ける機会も貴重だと思いますし、ビッグバンドと一味違う表現、バランスの取り方など新鮮な音が聴けると思います。またヴァイオリニストの金子飛鳥さんはじめ、日本を代表するメンバーの方にも集まっていただき、当たり前のサウンドではないものをお届けできると思います。」
── ジョナサン・パウエルは挾間さんの作品だけでなく、李祥太さんや加藤真亜沙さんのアルバムなど、ラージアンサンブルには欠かせないトランペッターですよね。
「ジョナサンはもちろん、今神戸を拠点に活躍されているトランペッターの広瀬未来さんがニューヨークにいらっしゃった頃は広瀬さんとジョナサンの2人がラージアンサンブルで引っ張りだこでした。広瀬さんとジョナサンはラージアンサンブルの空気、バランスを上手く掴む事のできる素晴らしい方々です。 広瀬さんのような素晴らしいミュージシャンが帰国して活躍されている事は日本のジャズシーンにとてもプラスな事だと思います。」
学生プレイヤーに向けてのアドバイス、伝えたい事


── Kobejazz.jpは高校や大学でジャズを演奏している学生の方にもよく見ていただいているサイトです。そういった学生の方達へ学生時代の音楽活動のアドバイスをいただけないでしょうか。
「若い時は感受性がすごく豊かで、セオリーやスケールがどうこうという事ではなく、なるべく沢山の種類の音楽を聴いて感受性を磨いてほしいなというのが私の願いかもしれないです。自分はジャズやそれ以外の音楽を色々聴いて育ってきて、国立音楽大学ではジャズのサークルには入っていたけど、マンハッタン音楽院の大学院に入るまではジャズの『勉強』はほとんどしてこなかったのです。でもそれがやっぱりジャズの『普通の入り口』であるべきだと正直思っています。先に理論から入って、頭でっかちになる事ほど面白くない事はないですし。 ジャズのアドリブって、自分の思った事を楽器へ通して語る事ですから、素直に心から音楽を聴いて楽しんだ物が表出してくるものであってほしい。 そのボキャブラリーを増やすには、理論の勉強よりも、沢山色々な音楽を聴いて様々な感情表現を吸収してほしいですね。私も中高生の時によく聴いていた音楽は今でもよく聴いていますし、影響を受け続けています。そういった自分のお気に入りの音楽に出会ってほしいですね。 大学のサークルでジャズの演奏を始めた頃は、私も見様見真似でした。でも聴いて育ってはいたので、それでもなんとか形になりました。“なんとか”程度でしたけど、最初はそれでいいのですよ。後から自分がやってきた事にセオリーがあったのだとわかる事は良い事だと思いますけど、勉強したからこのスケールを使って、はい、アドリブをしましょうというのは、私は違うと思います。色々な音楽を聴いてセンスを磨いていってほしいと思います。」
── 音を楽しむ、という根本的な事を忘れてはいけませんね。
「もちろん勉強をする時期があっていいと思います。それをどういう風に活かすかだと思います。またプロのアーティストになった場合は聴衆の人を置いてけぼりにしてはいけないし、聴き手の方へのリスペクトを忘れてはいけないと思います。自己中心的な音楽をして、全く理解されないのはとても悲しい事ですし、意味がありませんから。 ま、若い時はそういう事は考えずにもっと音楽を楽しんでほしいですね(笑)。」
新しい挑戦が続く
── 最後に今後の展望、活動を教えてください。
「今、新しく挑戦しがいのある事が続いている時期の中にあると思っています。 10月からデンマークのDanish Radio Big Bandの首席指揮者に就任しますし、先ほどお話しした8月30日の東京芸術劇場での公演と今はまだ実感が湧かないですけど、この2つの出来事は特に後で振り返ってみると自分にとっての大きな転機点になっているのではないかと思います。この活動が次のステップのキッカケになってほしいですし、新しいインスピレーションに繋がってほしいです。新しい事に次々と挑戦させていただいている事はとてもありがたい事だと思っていますが、とにかくやってみないとわからない!今は今やる事に専念するのが一番大事なことだと思います。」
常に動向が世界的に注目される挾間さんの精力的な活動から今後も益々目が離せません。 そして初の関西公演も様々な趣向が凝らされ、それぞれ違った魅力溢れる公演となる事でしょう。 今回の関西公演も後々まで語られるエポックメーキングな物になる予感…! 関西のジャズファンの皆様、この機会お聴き逃しなく!