Denso Ten

Jazz People

JiLL-Decoy association インタビュー
新たな時代、 「ジャズをやる事が自然に」

Interview

アーティストインタビュー by 小島良太(ジャズライター/ジャズフリーペーパーVOYAGE編集長)

「ジャズ」を意識して取り組んだ最新作、「GENERATE THE TIMES」について

── 今回のアルバムの反響はいかがですか?

kubota:今回、ジルデコ では初めてビッグバンドを入れて、今まで以上にサウンドがゴージャスになって、すごく手応えを感じましたね。

── オープニングからとても華やかですよね。

kubota:オープニングの曲はchihiRoさんの無茶振りから生まれて(笑)。「ビッグバンドならファンファーレみたいなのほしいなぁ、そういうのできない?」って。言うよねぇ?、でもそういうのはレコーディングのバンドメンバーも満更でもなくて。

chihiRo:実際にレコーディングと同じメンバー、編成で3月に東京でライブした時も気持ち良かったです。

kubota:私は音楽学校でも教えているんですが、今回そこの生徒さんがビッグバンドのメンバーで参加してくれています。今回のテーマの一つに「ジェネレーション」というキーワードがあるので、下の世代と音を出す貴重な経験となりました。みんな若々しくて元気(笑)!時代を超えてシェアできる音楽の代表がジャズだと思うので、様々な世代と演奏できるのはとても魅力ですよね、やっぱり。

── 今回のアルバムはオーソドックスなジャズサウンドに今までよりも接近した作品だと感じたのですが、ジャズに対するバンドの意識の変化というものがあったのでしょうか?

kubota:結成して17年になりますが、リーダーのtowada(ドラムス)と私のルーツはガッチガチのジャズ畑なんですけど、ジルデコを組むにあたってはわかりやすいスウィングやボサノヴァを露骨にやるというのは避けてきたんです。ですが活動を重ねてきて、ジャズクラブを中心にツアーを回らせていただく事も段々増えてきて、なおかつ自分達のオリジナリティも出せるようになってきたので、ジャズをやる事が自然になってきました。

chihiRo:昔はジャズバンド、と呼ばれる事を全部NGにしてたんです。

kubota:今思えば面倒臭い奴らですよねぇ(笑)。

chihiRo:自分達のオリジナリティを確立した自信もできたので、改めてジャズに取り組んでみようかなと。歌詞は全部日本語にこだわって、私が書きました。

kubota:ちょっと前はジャズ、というと敷居が高いイメージが強かったと思うし、それで食わず嫌いになられちゃうのも寂しかったので、そうしてきたんですけど、時代が変わって、ジャズって格好良いと思ってもらえるようになってきたかなという実感もありますしね。

── chihiRoさんは今回のアルバムの歌唱、レコーディングで意識した部分はありますか?

chihiRo:今回学ぶ事がとても多くて。昔からお世話になっているレコーディングエンジニアの方に録ってもらったので、一緒に作品を作ってる感覚も強く、遠慮なくボーカルのディレクションまでしてくださって(笑)ビッグバンドでサックスも演奏されていた方なので、ボーカルがビッグバンドで演奏する上での様々なアドバイスをいただきました。楽器を意識した歌い方だとか、ここにアクセントを持ってくる、ブレスをする、といった細かい指摘もいただきました。スウィングする事の難しさも改めて感じました。あと歌っていない時の休符の部分がどれだけ大事かを痛感しましたね。へこまされる事も多々ありました(笑)。


お客様とのアンケートから生まれる“対話型”ライブ

── 今回のツアー、<ジルデコ9 Another Tour~New Agenda~>での各地域のお客さんのリアクションはどのようなものですか?

chihiRo:今回のアルバム(「ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~」)は“時代”や“世代”をテーマに作ったのですが、それにちなんだ、ちょっと変わったツアーになってまして。ホームページでお客様から事前にアンケートを頂いて、世代、時代にまつわる話、例えば古き良き〇〇とか、古き悪しき〇〇、ほかに皆さんの家族のエピソードなどをお聞きして、それを読み上げるんです。そのストーリーやトピックの事を皆さんと話しながら、それに関連する曲を演奏していくという形をとっています。ツアー各地の皆さんの故郷の話をお聞きできるので、いつも以上にその街でしかできないライブができている実感がありますね。

kubota:色々な方の物語を聞けるので面白いです。MCの時に我々の一方通行というより、お客さんと会話している形に近いので、ラジオで話しているイメージに似ていますね。ラジオと違うのは、お便りをご紹介して、曲を実際に演奏するという所です。

── ラジオ番組のMCもされていますが、そういった活動が今回のツアーのアイデアに繋がっている部分はありますか?

chihiRo:ラジオ出演の経験からというよりも元号が令和に変わった、というこのタイミングでリスナーの皆さんがどんな風に次の時代を生きたいと思っているのか、というのを聞いてみたくなったんですよね。ジャズの世界でもそうですけど、私達より上の世代と下の世代がだいたい半々、私達がいわゆる中堅になってきて、下の世代に伝えていく立場になった時に、時代って政治家とかのものでもなく、自分達の物じゃん!ていう当たり前の事を改めて感じるようになって。みんなで時代を作る主人公だという想いをライブでも共有できたらいいなという考えが、メンバー達で話す中で生まれたんですよ。

── アンケートがどんな風にライブに組み込まれるのか、興味津々です。

chihiRo:若干シンポジウムっぽくなるんですけどね(笑)。

kubota:けっこう、ざっくばらんなエピソードが多くて楽しいです(笑)。テーマに基づいたお便りを紹介しながら、あーでもないこーでもないと話しながら曲に入るので、曲の聴こえ方がいつも以上に厚みが出るのかなぁと思います。


kubotaさんの地元、静岡のライブでの印象的なエピソード

── こちらもライブ参加できるような感覚が面白いですよね。選曲は新しいアルバム中心になっているんですか?

chihiRo:新しいアルバムからの曲もしますが、今まで書いた曲で、取り上げたアンケートの流れに合う曲を過去の物からも選んでいます。

── なるほど。これまでのキャリアがあるからこその幅広い選曲でファンの方は一層楽しめますね。地域によってアンケートの内容って違いがありますか?

chihiRo:違いますねぇ。今回は神戸、明日は大阪ですけど、関西の人はアンケートの回答文がタップリ!しっかり書いてくださってて。話したい事いっぱいあるんだなぁって(笑)。

── 関西らしいですね(笑)。今回のツアーの中で印象的なエピソードはありましたか?

chihiRo:kubotaさんの地元が静岡なんですが、kubotaさん自身からも地元のお話が聞けるのは面白かったし、ちょうど今回の静岡のライブがkubotaさんの誕生日の前日ということもあり、kubotaさんのご両親からの手紙もシークレットでいただいて、読ませてもらいました。kubotaさんの妹さんとこっそりやり取りして、手紙を入手しました(笑)。「近所の建具屋さんから木をもらって、鍵盤にして弾いていたあなたが、プロのミュージシャンになって…」というkubotaさんの子供の頃のエピソードを読ませてもらうと私の方がなんだかグッときちゃって(笑)。

kubota:四十も過ぎて、まさか自分の親から手紙をもらうとは(笑)。生まれて初めての経験でした。どっかで聞いたことある話だなぁと思ったら、最後に「父より…」と聞いて、ビックリしました。どんな顔して聞いたらいいのやらでしたよ。とても盛り上がりましたけどね。


神戸は憧れの場所の一つ

── 最後に神戸の印象を教えてください。

chihiRo:横浜出身なので、とても親近感があります。落ち着く場所ですね。憧れみたいなものもあるかもしれない。

kubota:私も憧れますね。僕にとっては非日常の街です。歴史が醸し出すシックな雰囲気、上品な雰囲気が好きです。港の方にはよく行きますね。あとジャズクラブのソネさんに行ったことがあるのですが、素敵な空間でとても好きですね。あの雰囲気はなかなか他にありません。


── 洗練された歌、演奏でいつも魅了してくれるジルデコさん。インタビューも和やかな雰囲気で進み、お二人のチームワークの良さをとても感じました。神戸にまた是非遊びに来てください!