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コンサートレポート

Bianca Gismonti Trio apresenta Gismonti70
■2018/6/10(日) 100BAN HALL(神戸市中央区)

レポート

どのジャンルにも縛ることのできない唯一無二の世界観

 ブラジルが生んだ偉大なアーティスト、エグベルト・ジスモンチ。その生誕70年を記念して、エグベルトの実の娘であるビアンカ・ジスモンチ(ピアノ、ボーカル)が父親のレパートリーを中心に演奏するプログラムを組んで自身のトリオ(ベースはアントニオ・ポルト、ドラムスはジュリオ・ファラビーニャ)を率いて先日来日公演を各地で行いました。初の神戸公演は100BAN HALLでの開催に。この日は夜のライブだけでなく、昼に同会場でビアンカトリオによるワークショップ、さらに夕方にはシンガーの松田美緒さんによるブラジル移民の歌についてのイベントも同ホールのある高砂ビル内の「Bar Request」で開催され、終日ブラジル音楽について直に学べる貴重な一日となりました。

 昼のワークショップでは神戸出身で現在ブラジルに在住しているシンガー、パーカッショニストのMAKOさんによる通訳を交えて、トリオの音作り、音楽に対する取り組み方について予定時間を超えるボリュームで聴講者に伝えてくれました。さらに楽器持参の方と実際にセッションも行い、参加した方にとっては本場のサウンドを体感できるまたとない機会となったことでしょう。

 そして夜のライブ。会場には昼のワークショップに引き続き参加された方も含めて、たくさんのお客様が詰め掛けていました。このライブの注目度がとても高い事の証明だと思います。ビアンカの美しいピアノサウンドは穏やかな空気感を携えながら、ベース、ドラムと繊細で緻密な音空間を構築していきます。3人の作り出す音はブラジル音楽をベースとしながら、コンテンポラリージャズの要素、ブラジル以外の民族音楽の要素を取り入れながらも、どのジャンルにも縛ることのできない唯一無二の世界観を創出。ビアンカは確かなテクニックを兼ね備え、それをナチュラルな形で音に活かしていました。またピアノだけでなく、時折歌も交えて幅広い表現にさらに彩りを加えていました。ベースのアントニオも柔軟なリズムアプローチと共にボイスも効果的に使いながら、深遠な世界観をより明確に。ドラムスのジュリオはしなやかなブラシワーク、的確なスティックさばきを用いて瞬間瞬間で移り変わるバンドサウンドに的確なリズムを刻み込んでいました。そして終盤は昼のワークショップで通訳を務めたMAKOさんも加わって、よりサウンドが華やかに。

 ビアンカ達とMAKOさんの仲睦まじいセッションは笑顔が溢れ、互いがとても楽しんでおり、そのフィーリングが会場を幸福感に包んでくれました。アンコールではビアンカが影響を受けている現代ジャズシーンの気鋭のピアニスト、ティグラン・ハマシアンからインスパイアされた曲、「Piano Station」を披露。さらなる進化を続けるビアンカの真骨頂を存分に感じさせる壮大な拡がりを感じる力強い曲でした。

 初の神戸公演はワークショップも含めてその場に居合わせた方達に日頃なかなか体験できない貴重な機会であったと思います。日本とブラジル相互の音楽への理解、そしてビアンカの純粋で尊さも感じる美しい音楽がさらに日本で広がる大きな一歩となった記念すべき1日となりました。

取材・文
小島良太(ジャズライター、ジャズフリーペーパーVOYAGE 編集長
写真撮影 古川貴浩