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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.84
JAZZ OLYMPUS!

文化の薫り漂う街で新たに息づくジャズの隠れ家
@東京・神田

ジャズ喫茶といえば、音楽だけでなく「店が暗い・居る人も暗い・換気がわるい・コーヒーがマズい・店主に怒られる・リクエストが却下される」など、残念な記憶がつぎつぎ脳裏をよぎる方も少なくないのでは。
そのイメージを一新するのが今回ご紹介するジャズ オリンパス!といえる。
神田・神保町駅から数分。老舗出版社が立ち並ぶ、靖国通りから道一本入ったホテルの一階。入り口は懐石やフレンチのレストランといった雰囲気だ。しかしドアを開けると一変。大音量のジャズが中からあふれ出てくる。
明るくスッキリした店内に、大きなガラス戸から外光がたっぷりとそそぎ、テラススペースも居心地よさそう。見た目だけなら洗練された都会のカフェそのもの。
「外が見えないお店では嫌だなと。音楽を聴きながら、季節や時間の移ろいを感じることのできる場所にしたいと思いました。店名のオリンパスとはスピーカーの名前です」とオーナーの小松 誠さん。そのJBLオリンパスをはじめ、コントロール・アンプ:JBL-SG520、パワー・アンプ:JBL-SE400S、レコード・プレーヤー:Garrard301……という音響機器。これらは全てご自身が30年以上使い続けてきたもの。オープンにあたり新たに購入したのはスピーカーケーブルだけ、という生粋のオーディオマニアだ。ツイーターを見て「目玉みたい」という超オーディオ音痴のワタシを「ほんとうにご存じないのねえ」とあきれながら笑った。

小松さんは2009年に開店するまで出版社に勤務。中学生のとき以来ずっとジャズに惹かれ、各地のジャズ喫茶を探訪。収集したレコードは50〜60年代のメインストリーム中心に約4000枚。その中にはビッグバンドの名盤も相当含まれている。今鳴っているのは『Basie Is Back』。お客様からジャズ喫茶でビッグバンドを聴けるってめずらしいねといわれるのだそう。
「なぜレコードだけなのか、という質問には、『レコードのほうが生々しい音が出ると感じられるから』とお答えしています。スピーカーの左右には別々の音が入っていて空中でハモらせている。だからイヤホンで聴いても、本当はハモらないんですよ」と小松さん。

「写真家・ユージン・スミスの『写真の価値は、50%はプリントで決まる』という言葉を知ったとき、僕の中では音楽のこととして置き換わりました。つまり被写体は演奏、撮影は録音、現像はマスタリング、フィルムはレコード、プリントは再生なんだと。いい音で再生することがレコード音楽の価値の50%を決めるのなら、もっとハードを大事にしないと。空気を震わせて聴く音をぜひここで体験してほしいですね」。
うーん、説得力ありますねえ。
こんな硬派なジャズ オリンパス!が、昔のジャズ喫茶とさらに一線を画すのは、時間帯ごとに変わる飲食メニュー。お昼に来てくださるお客様のために一品だけきちんと用意したというカレー。ヒンディー語の本を訳しながら「音響パーツを替えると音が変わるように」スパイスを理想的に調整したという。カレーは専門誌に掲載され、表紙を飾るほど評価が高い。そして14時から大音量のティータイムを挟んで19時からはバータイム。お酒や肴はもちろん、事前に5名以上で予約すれば、なんとフリードリンク付きのコース料理が楽しめるというから驚きだ。
お話をうかがっているあいだ、背後でずっと音が鳴っている。中央に置かれたオリンパスの姿は北欧家具を彷彿させる。モダンで無駄がなく、暖かみのある美しさだ。「重厚」という言葉は似合わない。こころなしか、その大音量にもダイナミズムだけでなく、包み込むようなやさしさを感じる。
そうか。さっきの例えのように、小松さんはこのスピーカーの魅力を、お店の全てに置き換えていたのか。瀟洒なインテリア、機能美を併せ持った食器にも。そしてシンプルかつ芳醇なカレーにも。
最後にひとつ、うかがってみた。ジャズの未来って明るいんでしょうか? 小松さんはこう答えた。
「その未来をつくりたいから、きっと毎日この仕事を続けているのでしょうね」。
ううむ。参りました。