ジャズ探訪記 バックナンバー
BAR es(バー・エス)
まるで夜桜のような…静かな華やぎ。
JR元町と神戸駅のちょうど真ん中へん。いささかマイナーながら、地下鉄海岸線ならみなと元町駅からすぐ近く…とはいうものの中途半端といえばまさに中途半端。近場のわりには、意外に足の向かないところかもしれない。それゆえの隠れ家的存在でもあるのだけど。BAR es(バー・エス)はそんな港町にある。
以前は、いわゆる倉庫街だったこの辺り、巨大な倉庫を改造したギャラリーやイベントスペースが多く生まれ、ずいぶん新しい印象になってきた。BAR esも、そんな中に生まれたお店のひとつだ。
階段を上っていくと、ここが倉庫だったとは思えない雰囲気、見上げれば洗練されたデザインの照明が柔らかい明かりを落としている。足下にシャンパンのボトルが並ぶ白いドアが見つかれば、それが入り口だ。
黒を基調にした店内はなんともシック。真っ先に目にはいるのは、カウンターと奥のテーブルを繋ぐモダンな照明。ドアのデザインとも共通のモダンデザイン…このパターンは店名の“s”を表しているのかな?そして天井から下がる豪華なシャンデリア、ふたつの光が好対照をなして美しい。
さっそくカウンター席に腰を落ち着けると、これがまた、なんともゆったりとくつろげるシート。ほら、カウンターの席ってスツールだったりするでしょ、でもこのシートはひとりがけのソファといったほうがいい感じ。そしてカウンター越しに見える窓からは港の夜景が…。
取材当日はあいにくの小雨模様。出かける元気もちょっと削がれるところだけど、このお店にはそんな天気もよく似合う。雨の日特有の蒼く暮れてゆく黄昏時。息つく暇もない忙しい一日を終え(いや、それほど忙しくなくたって)、疲れた心と体にほっと一息つかせるには絶好の空間だ。




ずっとこうしてくつろいでいたいところだけど、なかなかそうもいかないのが辛いところだ。オーナーの末松さんにお話をうかがった。
末松さんがこのお店を開いたのが2006年の3月というから、まだ2年と少しという若いお店。そして末松さんご自身もとてもお若いんですよ。バーテンダー歴9年目、フランス料理の経験もあるというキャリアながら、なんとまだ29歳の若さ!三ノ宮のバーで5年ほど店長を務めた後、「もっとゆったりできる空間をつくりたい」と独立を決意。うーん、その思いはかなり成功していると思います。
BGMには、これまたゆったりとジャズが流れている。自然でいい音だなあ…と思ってお聞きすると、スピーカーは富士通テンのイクリプスTDスピーカー。「音楽がちゃんと聴こえて、なおかつ会話の邪魔にならない」、そしてその音質のおかげで「奥の席からのオーダーもはっきり聞こえる」というのが、このシステムに惚れ込んだ理由なのだとか。そして、店内に4台あるスピーカーはそれぞれ別のアンプを繋げ、スピーカーごとにコントロールできるようにセッティングしてあるらしい。なるほど、カウンター席だけでなく奥にはソファ席もあり、お客さんのバランスによって細かくコントロールできるメリットは大きいのだろう。
スピーカーでさえこれだから、さぞ音楽のチョイスにも凝られてるのでは…?
「いえ、音楽にはあまり詳しくないので(笑)。ジャズももちろん好きでかけますが、時々クラブ系・ラウンジ系とかもかけるんですよ」
ハハハ、そのこだわりのなさがいいですねえ。
「音楽もインテリアみたいなものというか…、くつろいで、美味しくお酒を飲んでいただくためのBGMと思っています。その意味では、グラスのチョイスとかに似ているかもしれませんね」
そうなのだ。
たしかにお酒って、グラスの形や重さ、口当たりの具合でずいぶん味わいが変わる。音楽もスピーカーによって大きく味わいが変わる。大切なことは「ゆったりお酒と時間を楽しんでもらうこと」で、音楽がその邪魔をしてはいけない。このあたりも末松さんの「ゆったりできる店作りをつきつめてやってみたい」という気持ちから来ていることなのだろう。グラス選びもインテリアも、そんな末松さんのセンスで統一されているのだろう。
 
あらためて、流れてくるジャズに耳をすませる。
カウンターに頬杖をついてグラスを傾けると、ダイヤモンドカットの氷がグラスを鳴らす。さらに蒼さを深くしていく窓の外で、ポートタワーやハーバーランドの観覧車にも灯りが点り始めた。
「オーセンティック」なんて言葉がチラリと脳裏をかすめるけれど、いや、そんなお約束の言葉はしまっておこう。
もしBAR esに足らないものがあるとすれば、それは僕の隣の席にいる(はずの)美女くらいなものだろう。とりあえず今夜は、一人で。
静かに深まる夜を楽しむことにしよう。
BAR es
●神戸市中央区波止場町6-5 国産2号2階(上屋SO-KO)
●TEL:078-341-1518
取材日:2008.05.13
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