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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.147
NEIGHBOR(ネイバー)

仲間とともに発信する地元唯一の音楽基地
@東京・桜新町

渋谷から田園都市線でわずか10分。そんな都心にもかかわらず、緑の多い閑静な住宅地として知られる桜新町。近隣に大きな公園や大学があり、洗練されたカフェやお店が点在する。桜並木と石畳が続く駅前の商店街は、どこか庶民的な空気が漂い、漫画家・長谷川町子さんが住んでいたことから『サザエさん通り』とも呼ばれている。
今回ご紹介するライブハウス『NEIGHBOR(ネイバー)』はまさにこの桜新町のメインストリート沿いに位置する。集合住宅の一角、美しい外壁に映える植栽。風に揺れる緑に誘われて、誰もが足を止めて入ってみたくなる。
一見するとおしゃれカフェそのものだが、大きく広がるガラス窓からぴかぴかのドラムセットとウッドベースが別の存在感を放っている。白いドアを開けて中に入ると、ステージ背面のダークな天然木の美しさが印象的。本格的な厨房はスッキリしたカウンターで仕切られ、ステージと客席との距離もちょうどいい。いかにもくつろいで音楽を楽しめる居心地いい雰囲気だ。
「桜新町で唯一のライブハウスなんですよ」と人懐こい笑顔で出迎えてくださったのは、河原 真さん。河原さんは2007年にロックバンド『ROCK'A'TRENCH』でデビュー、現在は自己名義のバンド『Lotus Coast』を中心に活動する現役ベーシストだ。お忙しいなか、なぜライブハウスを?
「昔からお世話になっている方に、3年前、新しくできるレストランでライブ制作をやらないかと声をかけられたのがきっかけです」。

河原さんに白羽の矢が立ったのは、もともと友人が多く、ジャンルを超えた音楽活動でさらに広がったその人脈を見込まれてのこと。また河原さんご自身もイベントを企画したり、そこから派生するさまざまな仕事をすることが得意で、まったく苦にならないのだそう。
ああ〜、なんかわかるなァ。河原さんのやさしいオーラに、みんなが自然に引き寄せられちゃう感じ…。
当初は厨房には専門のシェフやパティシエがいて、ランチとディナーを提供する普通のレストランだった。河原さんは週末のみ、ライブを企画・ブッキングし、音響と機材のセッティングを担当。しかし2年後、シェフたちは独立し、店をすべて任されることに。
「さすがに一人で切り盛りするには無理があり、オーナーともうやめようか、という話にもなった。でも期待して出演してくれた音楽仲間に申し訳ないし、自分も納得がいかない。ここでやめたらこの街に根付きつつあった音楽文化もまたなくなってしまう。それで仕切り直して続けることにしたんです」。
ランチをやめ、ライブに一本化した今の体制になったのは昨年秋から。現在は月に20〜25日とブッキングを増やし、出演者の顔ぶれはまさにか“本格派ライブハウス”だ。夜の飲食も料理上手な音楽仲間がサポートしてくれることになった。

「僕のこだわりは、ひとつはジャンルレスであること。とにかくカッコよければいい。大好きな人に出てほしい。もうひとつはミュージシャン同士、同業者はみな親しく協力し合うこと。一昨年の暮れ、僕の師匠である納浩一さんと飲もうという話になって、せっかくなら他にもベーシストを誘ってみようと思ったところ、結果的に50人のベーシストがこの場所に集結し、大忘年会になりました。これもやはり「同業者同士が仲良くなり連携していきたい」という僕の想いが生んだ結果だと思います」。
そして河原さんはこう続ける。
「商売がたきだの、仕事を取った取られただの、僕はそういうのが大嫌い。同業者は仲間だし、仕事を“取られる”じゃなくて“シェアする”。仕事がなければつくればいい。本来会うはずのなかった人たちが僕と店を通じて出会い、新しくつながっていくことによって音楽の可能性はずっと広がるはず。そしてなによりこの場所が自分自身にとって、かけがえのない学びの場・アピールの場になってきたことは間違いないでしょう」。
さて今宵は『W Vocal LIVE』。紗理(vo)+市原ひかり(vo&tp)+鈴木直人(gt)という日本のジャズ界きっての若手実力派のライブ。高い技術とスリリングなアドリブはどこまでも豊かで楽しい。そしてなんと近所を通りがかり、「ガラス越しに歌ってるのが見えたから」と入ってきたまさにNEIGHBOR(隣人、仲間)な大野えりさん(vo)、お店に聴きに来ていた市川美鈴さん(vo)が加わり、思いもよらない豪華なエンディングを迎えた。
河原さんの音楽への想いと誇りが呼び寄せた奇跡だったのかもしれない。This is the NEIGHBOR's magic!