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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.138
zing music lab./gallery zing

セッションスタイルの実践型レッスン&ライブ
@神戸・甲南山手

 「zing music lab.」は、JR神戸線甲南山手駅から歩いて数分。2号線をわたってすぐにある。ジャズレッスン、ディレクション、レコーディングの3つのカテゴリーからなる音楽制作事務所だ。2011年に2階で音楽教室としてスタートし、2015年にライブスペースとしてギャラリージングがオープン。
1階のドアを開けると、カウンター&カフェがあり、オーナーの谷田真也さんが笑顔で迎えてくれる。“ようできたバッタもんより、できそこないでもホンマもん”をモットーに、見た目やアレンジでうまく聴こえる技やテクニックではなく、下手でもいいから本質をついたもの。地道に続けることで本当の力が身につく。そんなレッスンを行っている。もともと、ピアノ教室だったが、音楽をコミュニケーションツールとして、アンサンブルができる、すばらしいミュージシャンを呼んで、いい音楽が提供できるスペースにしたかったと熱く語る。いやー、のっけから音楽を通して、ラボを通して、何か新しいものをつくりあげたいという思いがビンビンと伝わってくる。
「ギャラリーができたことで気軽にアンサンブルができる環境ができました。アンサンブルで人といっしょに音を交えるというのが、ジャズの醍醐味なので、それをできるだけ味わってほしいですね」

 アンサンブル主体の実践的なレッスンに加え、カフェの奥にあるギャラリーでライブの合間にレギュラーイベントとして行われているのが『プレセッション』である。毎週火曜日の19時半から22時半までアンサンブル演奏ができるとあって人気だ。生徒さんを中心に少しずつ集まるようになり、逆に生徒さんよりも多かったりする。趣味で楽器演奏される方がほとんどだが、自分のステージを持って活躍しているプロも参加する。ピアノの谷田さんがホストとなり、教えるというより、気づいたことをアドバイスしながら進めていくような雰囲気である。
「セッションして終わりではなく、参加者同士が、こうした方がいいね、こんなアレンジでやってみようかと、みんなが意見を出し合っています。今でこそ、プロのライブも増えてきましたが、最初はどうやってギャラリーを活用しようかといろいろ考えていましたが、セッションをしたいなと思ってやっているうちに今のスタイルになりました」
顔見知りのメンバーに交じり、楽器を持って飛び込みの当日参加もありというのが、いかにもジャズというより、これぞジャズという感じ。取材中もギターを抱えた男性が入って来て「はじめましてですねー」と、谷田さんが気軽に声をかけている。ギャラリーを通してセッションの輪はどんどん広がっていく。
教室はピアノコースがメインだが、特設コースとして、ベース、ドラム、バイオリン、ハモンドオルガン、トランペット、ボイストレーニング&ジャズボーカル、ジャズ理論まであり、3歳児からのジャズピアノコースもある。子どものピアノといえばクラシックが一般的だが、ジャズピアノにも触れてほしいという谷田さんの願いも込められている。ほかにも、1歳児からジャズリトミックも行っていて、ジャズを聴きながら飛んだり跳ねたり。赤ちゃんからジャズに触れることができるのはジャズ教室だからこそ。1歳児からジャズデビューとは画期的なことではないか。奥様がクラシックピアノのレッスンを担当していることもあり、ジャズだけではなく、クラシックをしている人にも使ってほしいと谷田さん。もちろん、クラシックピアノの基本にもこだわりをもっている。

 谷田さんは10歳からハモンドオルガン、18歳からジャズピアノを始め、小曽根実さん、小曽根啓さんに師事し、1985年にバークリー音楽学校に留学。作曲と編曲を学び、卒業後、オゾネミュージックスクールの講師を務める。震災後、神戸の自宅兼教室でジャズピアノを教えていたが、少しずつ生徒さんが増えてきたこともあり、甲南山手を拠点にラボをオープン。現在は講師の傍らテレビやラジオのCMや、イベント音楽制作、ジャズミュージシャンのアルバム参加、コンポーザー、アレンジャーなどマルチに活躍。プレイヤーというよりも制作に軸足を置いている感じである。触れていいのかいけないのか。もう時効なのかよくわからないけど、あの陣内智則さんにピアノ指導も行ったとか。
講師という立場からジャズミュージシャンに求められる要素として必要なことは何でしょうかねーと尋ねると、しばらく考えて「継続することかな」という答えが返ってきた。
「コツコツと続けないと上達しないですが、続けていてもずっと右肩上がりにうまくなることはなかなかない。ある日、突然、ポンと階段を上がるようになりますが、続けないとポンと上がることはない。やめてしまうと上がることはないので継続することだと思いますね」
上達の手応えを自分でジャッジできるまで繰り返し続けること。これは音楽だけに限らない。指導者が変わったり、環境が変わったり、いろいろな事情で続けられなくなってやめてしまうことも少なくないけれど、このラボのような続けられるすばらしい環境があり、サポートする情熱あふれる講師がいて、継続するために欠かせないものになっているのはいうまでもない。
「音楽教室をやっていたときから人とのつながりが増えて、ギャラリーをオープンして音楽以外のつながりもできました。得意な分野はそれぞれありますが、その人たちがいっしょになったときにおもしろいものが生まれます。神戸の西区で穫れた野菜を食べてジャズを聴いたり、落語とジャズのコラボをしたり、これからも実験的なことをいろいろやっていきたいですね」と、静かな口調の中に熱いものが感じられる。
小曽根ファミリーのコンサートのチケットをオゾネミュージックスクールに受け取りに行ったのが、谷田さんのジャズとの出会い、小曽根ファミリーとの出会いである。この出会いがなければ今の自分はないという。ジャズが人々から愛され続けてきた街、神戸・甲南山手からジャズを通して、セッションを通して、谷田さんはたくさんのメッセージを発信し続けている。