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ジャズピープル

「ゼロからのスタートに挑戦する」ベーシスト権上康志さん

関西を中心にリーダーバンドである「ジンジャーブレッドボーイズ」での活動などで多忙を極めていたベーシストの権上康志さん。3年前に一念発起し、30歳を前に単身ニューヨークへ行き、現在も活動されています。権上さんのジャズのルーツから、現在のニューヨークでの活動、さらにライブ集客や今後の活動に至るまで来日ツアー中のお忙しい中、貴重なお時間を割いてくださり、率直にお話してくださいました。

インタビュー・文
小島良太(ジャズライター/ジャズフリーペーパーVOYAGE編集長)

person

権上康志

1985年 山口県出身。16歳でコントラバスを手にし当時参加した近藤大地氏、バリーハリス氏らのワークショップをきっかけにジャズを志す。ジャズベースを木村知之氏 クラシック奏法を坂倉健氏に師事。大阪音楽大学ジャズコース在学中より演奏活動を開始しオテロ・モリノー(スチールドラム) エディ・ヘンダーソン(tp) ルイス・ナッシュ(dr)らトップミュージシャンと共演。リーダーバンド「ジンジャーブレッドボーイズ」の4枚をはじめ現在までに6枚のリーダーアルバムを発表。ジンジャー~はJAZZpage12年読者人気投票バンド部門一位を獲得。'14年より拠点をNYに移し更なる飛躍が期待される若手ジャズベーシスト。

interview

ジャズとの出会いから関西を経由してNYへ

── そもそもジャズを始めたキッカケは?

権上「コントラバスは高校のブラスバンド部で始めました。地元の山口県秋吉台国際芸術村でジャズのワークショップがあり、まだジャズのことはよく知りませんでしたが、とにかくすごい人が来るらしいから、とりあえず行ってみようとなって。その時来日したのはバリー・ハリス、リチャード・ディヴィス、ルイス・ナッシュという面々でした。その時にとても感動して、とにかくジャズをやりたい!という気持ちが湧き起こり、ジャズが学べるという事で大阪音大のジャズ科へと進みました。そして演奏活動を開始して。関西に住んではいましたが、頻繁にツアーに出ていたので各地のライブハウスやファンの方との繋がりができ、そのご縁があるから現在でも一時帰国する度にツアーを組み日本各地で演奏できるようになりました。」

── 「ジンジャーブレッドボーイズ」の活動含め、関西を中心に活躍されていた中、なぜニューヨークへ行く事を決意されたのですか?

権上「30歳を前に視野を拡げたい、新たな環境で挑戦したいという気持ちが芽生えました。となると東京かニューヨークどちらかかなぁと考え、どうせゼロからのスタートで東京でもニューヨークでも大変な思いをするのは一緒だから、いっそのことニューヨークで大変な思いをしようと考え決めました。あとロイ・ヘインズやロン・カーター、ソニー・ロリンズなどまだ健在のジャズジャイアンツの音を生で聴いて、もしかしたら一緒に音を出せるかもしれないという0.01%の可能性もありますし。でも渡米前は英語全く喋れませんでした。笑」

演奏に明け暮れるニューヨークの日々
毎夜繰り広げられるセッション

── 現在のNYでの生活を教えてください。

権上「現在は音楽のみでなんとか生計を立てています。演奏活動以外のアルバイトをしてしまうと練習時間も確保できず音楽活動が疎かになりますし、バイトをするために渡米したわけではないので、自分を追い込む意味でも生活が苦しくてもそこだけは譲らないようにしています。だからこそ声がかかればジャズクラブはもちろん、バーやレストラン、時間があればストリートでもどこでも演奏しています。とにかくじっとしていられません、NYでは皆1ドルでも多く稼ぐために必死です。家賃も高いですし(笑)。ストリート演奏はストリートパフォーマンスの聖地とも呼ばれるワシントンスクエアパークでやっています。ニューヨークにはチップ文化があると同時に、皆ストリートパフォーマンスには慣れているため演奏に関しては厳しい目で見ています。下手な演奏をしていても見向きもされませんから気が抜けませんし、ストリートといえど垂れ流しではなくちゃんとショーとして成り立っていないといい結果は得られません。また日本のジャズクラブだけで演奏していた頃には子供達やお年寄りの方の前で演奏することはほぼなかったのですが、こっちの路上ではそう言った人たちにも自分たちの音楽を聴いてもらえてコミュニケーションが取れるという事は大きな経験になっています。また彼らに合わせた選曲や構成を工夫するなど学ぶ事は多いです。」

── ニューヨークは世界中からミュージシャンが集まる場所だと思います。とても刺激が多いのではないでしょうか?

権上「ニューヨークには有名でなくともレベルの高いミュージシャンがたくさんいます。まさに世界中から集まってきます。またジャズクラブでのジャムセッションで順番を待っていたら、ふらっとロイ・ハーグローヴ(tp)が店に入って来て一曲吹いて行ったり、えらいベースのうまい若い女性だなぁ、と思って聴いていたらそれがエスペランサ・スポルディング(b,vo)だったり!そういう毎日のハプニングがニューヨークのジャズのレベルの高さを維持しているのかもしれませんね。」

プロだからこそ現実を直視

── 権上さんのリーダーライブはいつも多くのお客様が来られている印象がありますが、集客で意識している事はどういった点でしょうか?

権上「まず立脚点として、「つらい現実」を直視するという事です。悲しいけれど世の中の大半の人はジャズに興味はない、ましてや有名でもなんでもない私達になんか更に興味がないということを認識する。でもその現実を認めないと先に進めません。だからこそ必死に頑張るエネルギーになるというか。その興味の無い人たちに振り向いてもらうためには何が必要なのか。もちろん私もジャズという音楽を愛しているしその力を信じていますが、それと同時に現実は厳しいという事を認識しないと。ライブ当日にFacebookにちょこちょこっとおしらせを書いただけでお客さんが来てくれるわけがありません。例えば大作映画は公開の半年以上前からどんどん予告を公開していきますよね?僕らのライブのライバルはその日ある他のジャズクラブでのライブだけではなく、世の中の全てのエンターテイメントですから。映画を1800円で見れるのに僕らのライブは3000円です、となると生半可な努力では勝てるわけがありません。そこと勝負する事を考えないと。よく集客のうまい方法があるんでしょ?とよく聞かれますが、そんな方法はあるわけないです。とにかく考え得る全ての事を必死でやるしかないんです。厳しい言い方ですけどただ演奏して楽しむだけだったら、スタジオででもいいわけですから。でもライブをするということはメンバーのギャラも支払わなければなりませんし、お店にも儲けてもらってWin-Winの関係でないとお互い続きませんしね。ツアーになればそこにさらにレンタカー代、高速料金、ガソリン代、駐車場代、ホテル代、フライヤーの印刷代や送料もかかるし外国人プレイヤーにビザを取って連れて来た日には・・・そりゃ胃も痛くなりますよね。でも自分の信じる音楽を人に聴いてもらう為にはそれをやらなければならない。必死になるしかありませんよね。」

── 具体的に集客で取り組んでいる事や工夫はありますか?

権上「まずブログやSNS等web上での告知やフライヤーを作るなんかは当たり前のこととして、関西で活動していた頃から継続してやっているのはライブに来て頂いたお客様にアンケートを書いてもらうことです。書いてもらった方にはまず必ずお礼のメールをして、次回のライブが決まった時には必ずお知らせのメールを送ります。1、2ヶ月前はもちろん、直前にも改めてお送りしてご案内します。フライヤーに関しても、ライブの情報が老若男女に伝わるような配慮をしています。いつ、どこで、誰が、という基本をしっかり伝えないと。かっこよさばかりを追求して詳細がわからないフライヤーなんて本末転倒なので(笑)。それに加えて住所がわかる方にはハガキを送りますし、またラジオ局や新聞社にもダメ元で、取り上げてくれたら儲けもんという気持ちで情報を送ります。また今SNSが発達していてとても便利ですが、それでも画面に向かって、ではなく画面の向こうのお客様一人一人に向けてという意識を持って接しています。そうしていくうちにお客様との距離も縮まって、ライブをしに行くというより、各地各地でファミリーに会いに行くという感覚になりましたね。あそこに演奏しに行ったら人が来る、お店が人を呼んでくれる、なんて考えていてもお客様は絶対に来てくれるわけがありません。デジタル全盛のこの時代だからこそアナログなものの温かみが伝わるのではないでしょうか?いま私が言っていることなんて、誰でも考えつくような当たり前のことばかりなのですが、実はその当たり前のことが皆なかなかできないんです。でもそれはやれないからできないのではなくて、やらないからできないだけなんですよね。人間本当に追い込まれたらやりますからね。私はこれまでずっと追い込まれて来たので(笑)。」

音楽観の変化とこれからの活動


── ニューヨークへ行って音楽観に変化はありましたか?

向こうにいると色んな世代のミュージシャンと会いますが、若い人も古い曲をよく知っているし、ポップスなど他のジャンルの曲もよく知っていてナチュラルにフラットに音楽に接しています。私も若い時はウェイン・ショーターやジョー・ヘンダーソンなどの格好良くて好きな曲ばかりを演奏したがっていましたが、アメリカで改めてミュージカルの曲など昔から愛されているスタンダード曲の魅力に気づきましたね。お客さんにお年寄りが多かったら、“スターダスト”や“虹の彼方に”をしてみようかとか、子供がいたらディズニーの曲や楽しい感じの曲を演奏しようかと選曲をその場で変えていくこともよくあります。例えば食事だってメイン料理ばっかりだと飽きちゃいますよね。サラダがあってスープがあるからこそメインの良さも際立つ訳で。そういった意味で聴き手に押し付けがましくなくなったかなぁと思います。 常にそういうわけではないですが、以前より臨機応変になったと思います。

── 今後の活動について教えてください。

NY生活も4年目を迎え、今後はより一層音楽に集中していきたいです。あまり大きな事はまだ言えませんが(笑)、真面目にできる事をコツコツやる事。今後も自分を磨いて、40代、50代などの節目の時にまた色々考えると思うんですけどその節目節目にニューヨークで有意義に活動できているという手応えがあればいいなぁと。また尊敬しているミュージシャンたちと共演することが目標です。

── 競演したいミュージシャンは例えば誰ですか?

ベーシストにとっては素晴らしいドラマーと一緒に演奏する事がこの上ない喜びです。その中で特に競演したいのはブライアン・ブレイド、ロイ・ヘインズ、そしてアル・フォスターですね。本物のビートを刻むレジェンドといつか共演し何かを吸収できるように頑張りたいと思います。

── 日本のファンの方に向けて最後にメッセージをお願いします。

まだ次回の一時帰国は決まっていませんが、その際は日本のどこかでお会いできることを楽しみにしています!それと、これからニューヨークへ来る、また活動していきたいというミュージシャンの方がいたら連絡ください!是非一緒に飲みに行きましょう!(笑)

インタビューを終えて…。異国の地で単身ジャズと向き合い、日々精進する権上さんの言葉一つ一つはとても力強く、また頼もしく感じました。ご自身は謙遜されていましたが、確実に一歩づつジャズレジェンドとの競演に向けて前進されていると思います。今後のアメリカでの活躍に益々期待が高まります。次回の来日時のライブはご予約をオススメします!

information

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Jazz Project "GROOVE MERCHANT"



[ リリース ]

グルーヴ・マーチャント(GROOVE MERCHANT)
「ジンジャーブレッドボーイズ」「浜崎航 meets 松本茜trio BIG CATCH」での活動を経て現ニューヨーク在住のジャズベーシスト権上康志の新プロジェクト “GROOVE MERCHANT"の1stアルバムは、バンド名の由来となったサド・ジョーンズ & メル・ルイスオーケストラの名曲をはじめニューオリンズトラディショナルや映画音楽、エリントン、マイルス、ロリンズらジャズの巨人たちの残した名曲に正面から取り組んだスタンダード集。 バンド名通りのグルーヴィで熱いジャズサウンドを楽しめること間違いなし。

【収録曲】
1. Second Line (Traditional)
2.All Blues (Miles Davis)
3.Over the Rainbow (Harold Arlen)
4.Oleo (Sonny Rollins)
5.On Green Dolphin Street (Bronislaw Kaper)
6.Caravan (Duke Ellington)
7.The Shadow of Your Smile (Johnny Mandel)
8.Groove Merchant (Jerome Richardson)

【参加メンバー / 楽器】
権上康志 Yasushi Gonjo / Bass
アーロン・バル Aaron Bahr / Trumpet
三富悠斗 Yuto Mitomi / Tenor Sax
末永尚史 Takafumi Suenaga / Piano
小田桐和寛 Kazuhiro Odagiri / Drums

【Credits】
Produced by Yasushi Gonjo
Recorded at Nori Naraoka Recording Studio (New York, USA)
Recording and Mix engineer:Nori Naraoka
Recording Date:November 9, 2015
Mastered:Nori Naraoka

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