featuring Kobe Jazz People
Gordon Goodwin / Composer, Arranger, Player (GORDON GOODWIN’S BIG PHAT BAND Leader)

ビッグバンドという音楽が
自分たちの世界を広げてくれたのです

4度目の来日を果たしたゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド。この5月にはニューアルバム『ライフ・イン・ザ・バブル』をリリースしたばかり。若い世代を中心に絶大な人気を誇るバンドのリーダーに、ビッグバンドの魅力や音楽・教育などについて語っていただきました。

person

ゴードン・グッドウィンさん[コンポーザー&アレンジャー&プレイヤー]

1955年カンザス州ウィタチ生まれ。カリフォルニア州立大学ノースリッジ校で音楽教育を受ける。卒業後Louie Bellson’s Bigband 、Les Hooper 、Grant Geissmanのもとでプレイ。2000年に”Big Phat Bandを結成。これまでにエミー賞3回受賞、グラミー賞は9回ノミネート&2度の受賞、作編曲、ピアニスト、サックス奏者、コンダクターと全米屈指のマルチ・アーティストとして活躍中。

interview


——今回のニューアルバム「ライフ・イン・ザ・バブル」はジャズだけに留まらない、実にさまざまな音楽を感じます。

「だからこそこのタイトルを選びました。泡の中に留まって無難に過ごすのでなく、泡をうち破り前へ踏み出そうと。僕らもこのアルバムで今までにやらなかったことにチャレンジしました。でもビッグファットらしい音に仕上がったんじゃないかな」

——ビッグ・ファット・バンドのレコーディングは一発録りワンテイクだというウワサがあるのですが、それは本当ですか?

「確かに自然のままに出ている音ってすごく魅力的だと思う。狙ってはいるんだけど、実際にはなかなか難しい。メンバーはみんな自分の音にはうるさいからね」

——ゴードンさんのバンドは、日本では若い世代を中心にとても人気があります。『Hit The Ground Running』『Everlasting』『Sing Sang Sung』などの楽曲は、学生バンドでたびたび演奏されていますが、これぞビッグ・ファット・バンド、という楽曲を自薦していただけますか。

「それはちょっと答えにくいなあ。『Hit The Ground Running』や『Everlasting』は全く違う価値を持つ曲だから。その中間くらいのタイプの曲、というものもあるので作曲家としては全部聴いて欲しいと思います。でも若い人たちがファンキーでコンテンポラリーな『Hit The Ground Running』などに魅了される気持ちはよくわかります。まあ演奏するとなると山登りと一緒で、最初から山頂を見るのではなく一歩一歩進んで気づいたら山頂にいた、ということが理想的。ポップな曲を導入に、徐々に難しい楽曲に入っていくのがいいのでは。若い世代へ向けて僕がいつも強調するのは「長期的な目標をもつこと」です。賞賛されるようになるまでには時間がかかる。日本人の若い人たちとアメリカの若者ではちょっと違うのかもしれないけど、アメリカ人の場合、ボタンを押せば答えが出てくる、というような感覚が強いので積み重ねることの大切さを説く必要はありますね」

——教育のお話が出ましたが、アメリカでは小学校から様々なジャンルの音楽に触れる機会があるときいています。日本の学校音楽教育はクラシック中心ですが、この点はどうお考えですか。

「疑いなく、クラシックは他のどの音楽よりすべての基礎を成していると思います。クラシックができていれば他のジャンルもできる。それを飛び越してやりたいことだけやっているミュージシャンが増えているので、彼らの音楽を聴いていると音楽的語彙が隙間だらけだなと感じます。今のポップスが似通って聞こえるのはそのためだと思う。もっとも僕自身も若い頃はバッハやモーツァルトでは刺激が足りない、と無視してジャズをやることばかり考えていた。でもピアノもサックスもある程度のところまでいくと、技術的な基礎固めをしなければならないことに気づいて立ち戻る。若い人たちがクラシックから学ぶのはいいことだと思います。ただ先生たちは子どもが楽しいと思えるような、ちょっとした工夫は必要かもしれませんね」

——ご自身はどのような音楽を聴いて、音楽家になろうと決心されたのでしょうか。

「母が言うには、子どもの頃、テレビのミッキーマウスクラブの音楽に合わせて指揮を取るようなまねをしていたらしい。僕が覚えているのはジャングルブックの音楽が好きだったことかな。今思えばあれはジャズでしたね。ごく小さな時分から、ぴょんぴょんしたくなるような、元気がよくて気分の高揚する音楽に惹かれていたようです。小学校高学年頃になると、ポップスにはさほど魅力を感じなかったけど、ハーブ・アルパートの音楽には影響をうけたと思う。中学生になると自分のバンドディレクターが僕にカウント・ベイシーを紹介してくれたことがきっかけとなり『こういう音楽を書きたい!』と思うようになりました。それが今日まで続いている、ということでしょうか」

——以前お会いした際、ビッグバンドの運営は、経済的にはいつも厳しい状況にあるとおっしゃっていました。そんな中であえてビッグ・バンドを続けていらっしゃる大きな理由とはなんでしょうか。

「ビッグバンドでの活動はお金以外に報われる部分がたくさんあります。自分たちの音楽が他の人たちの人生に影響を及ぼし、若い世代へと受け継がれていく。僕自身は自分というものを見極めながら好きなことをずっと続けることができた。恵まれていると思うのです。またミュージシャンにとってのビッグバンドの魅力とは、幅広い手段やテクスチャーがあるということ。テーマを掘り下げることで、人間そのものや自分について知るきっかけとなりました。そしてジャズやスウィングだけでなく、ロックやファンク、クラシックなどいろいろな音楽を網羅することで、自分たちの世界を広げていくことができたと思います」

——音楽活動のほかに、普段大切にしている時間や習慣などはありますか。

「どこにいても必ず読書しているし、野球やバスケのスポーツ観戦もする。でもいちばん好きな音楽を仕事にしているので、オンとかオフとかいう感覚はないですね。家族との時間ももちろん大切だし、仕事場は自宅の向かいにあるので、学校行事に参加したり、子どもたちとはいつでも会うことができる。でも奥さんや家族を愛することと音楽を愛することは別次元のこと。だから学校に招かれ、高校生を指導するときには『結婚は間違っちゃいけない。君の音楽を理解してくれる人とじゃないと』という話をよくするんだ。聞いている親たちは『なんでそんな話をするんだろう?』と怪訝そうだけど(笑)。実際、早すぎる結婚や間違った判断のために不幸な結婚生活を送る仲間をたくさんみているからね。僕の場合は妻も音楽家なので、仕事に没頭しすぎて食事に遅れたとしても小言をいわれたことはないよ。ラッキーだね」

音楽同様、ユーモアがありながらその言葉はとても真摯なゴードン氏。秋には再来日し、2015年には日本の若い世代へ向けてサマーキャンプクリニックの予定があるとのこと。今後の活躍にはますます目が離せません。

music

ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド
■CD「ライフ・イン・ザ・バブル」
[ ユニバーサル ミュージック 2014年5月14日発売 ]

report

GORDON GOODWIN'S BIG PHAT BAND
ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド
[コンサートレポート] 2014年4月11日(金) ブルーノート東京

社会人・学生を問わず、今もっとも幅広い年齢層に支持されているビッグバンド「ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド」が今年もその変わらぬ存在感を示してくれた。ゴードンの巧みなMCをはさみながら、怒濤のごとく演奏される渾身の演奏は満員の観客を一瞬でノックアウトしてしまう迫力に満ちている。われわれアマチュアビッグバンドでもたびたび演奏されるおなじみの曲も、今ここで聴いているものとはまったくの別もの。もちろん超一流のメンバーが揃っているのだから当然なのだが、それだけでは片付けられない音の力をこのバンドは持っている。強いリーダーシップのもと、淀みないステージ進行と緩急をつけたプログラム。そしてなによりCDの音からは感じることがむずかしい18人(19人)の鬼気迫るパフォーマンスは、まさにエンターテイメントそのもの。テクニックや過去の実績だけで音楽するのではなく、今その時の最高の表現こそが本物の芸術を生み出すということを証明してくれているようだ。

Member

  • Gordon Goodwin (band leader, p, sax)
  • James Morrison (tp, guest)
  • Eric Marienthal (sax)
  • Sal Lozano (sax)
  • Brian Scanlon (sax)
  • Kevin Garren (sax)
  • Jay Mason (sax)
  • Wayne Bergeron (tp)
  • Chad Willis (tp)
  • Dan Fornero (tp)
  • Dan Savant (tp)
  • Andy Martin (tb)
  • Charlie Morillas (tb)
  • Erik Hughes (tb)
  • Craig Gosnell (tb)
  • Andrew Synowiec (g)
  • Kevin Axt (b)
  • Bryan Brock (per)
  • Bernie Dresel (ds)

Set List

  • 1. WHY WE CAN'T HAVE NICE THINGS
  • 2. LIFE IN THE BUBBLE
  • 3. DOES THIS CHART MAKE ME LOOK PHAT?
  • 4. RHAPSODY IN BLUE
  • 5. BLUES AND DUES
  • 6. BODY & SOUL
  • 7. BACKROW POLITICS
  • 8. CHEROKEE
  • EC. THE JAZZ POLICE

取材日:2014年4月14日 取材協力:BIGBAND! 編集部ブルーノート東京
通訳:佐藤空子 Photo:Yuka Yamaji/Akira Tsuchiya