featuring Kobe Jazz People

自分の生き方を唄うことで表現すること。

過去最多の応募となった今年の神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテスト。「よく続いたなぁという印象があります。とてもすばらしいことだと思います」と話すのは、第1回目から審査員長を務められている服部克久さん。神戸というジャズ発祥の地でやることに意義があり、本物を聴いている感じがするという。ステージの余韻がまだ残る中、コンテストを振り返っていただきました。

person

服部克久さん[作・編曲家]

日本を代表する作編曲家。パリ国立高等音楽院修了。音楽活動の傍ら、様々なジャンルの音楽監督やプロデューサー、音楽祭の理事や審査員、更にはコメンテーターとしてテレビ出演など枠にとらわれない才気あふれる活動が注目を浴びる。日本作曲家協会、及び日本作編曲家協会会長を歴任しながら、日本の音楽シーンの発展に尽力。2009年には音楽家生活50周年を迎え、アルバム2枚をリリースした他、記念コンサートを開催し大きな話題をよんだ。

interview

変わらない、続けることは、すばらしいこと。

——第1回目から審査員長を続けられてきて、回を重ねるごとに変わったことは何でしょうか?

「どんなイベントも10回をひと区切りとして、12回まで続いているということは、変わるのではなく、同じことをやり続けること、変わらないからいいのではないでしょうか。根付いているということはとても大事なことで変える必要はないと思います。最初の頃はシアトルに行けるという憧れがあって、参加者の意識は変わったかもしれませんが、今は外国に行くということは珍しいことではありません。外国で唄いたいなら唄わせてくださいと言えば、ギャラは別として一度くらいは唄わせてくれます。今は日本の中でもプロモーションもしっかりしているので、ジャズの場合は少しスポットライトが当たりにくいところもありますが、唄えるチャンスは増えていると思いますね」

審査ではアドリブを見分けるのが難しい。

——審査のいちばんの難しさは何でしょうか?

「コンテストは絶対1位を決めるのではなく、10人いれば10人の順位をつけるということです。審査においても、自分の中で順番をつけていくことになるので、同じ点をつけないようにしています。133組から本選の10人に選ばれた方は優秀です。133組の応募があったということは、全体のレベルは上がっているということです。審査の難しさは、たとえば、すごくうまい人がいたとしますね。でも、フレーズがジャズシンガーのコピーで真似しているのか、自分が本当にアドリブで唄っているかを見分けるのがいちばん難しいですね。それによって80点と60点くらい違ってきます。見分けるポイントはこなれているかということですね。真似をしているということはどこかで無理をしていることになります。自然にその人のものになっているかということです。それで真似しているならいいのです」

テクニックだけではなく、何かを持っている雰囲気も大切。

——今年のコンテストを振り返って気になったことはありますか?

「準グランプリの奥本さんはいろいろな技を持っていて、その技を使っているのですが、音をきれいに伸ばすという核になる部分が足りなかったように思います。きちんとしたファンダメンタルというものがあって、その周りに小技を散りばめていくようなものがないと、ただ、小技だけだと器用に唄ったことに過ぎません。本格的にジャズをめざしている人は、きちんと声を鍛えて、そういう声を持ちながら、あるときは、その声を殺したり、出さなかったり、フェイクしたり、持っている技の上に乗せること。それを審査員は見極めていきますが、審査員全員が音楽のスペシャリストではないわけです。その人がどんな声を持っているかは関係なくて、“いいじゃない”という視点も大事です。会場のお客さんがどれくらい拍手したかということも加味されていきます。自分は70点つけたけれど、拍手がすごかったから75点にしようかということもあるのです」

——ジャズヴォーカリストにとって必要なことは何でしょうか?

「ジャズに限らず、歌手全般に言えることかもしれませんが、歌がうまいだけではなく、自分の生き方を唄うことによって表現できるか。ジャズシンガーの場合、少しスノッブでもあり、常識を逸脱したような部分があるでしょうし、そういった自由な生き方を背負っている雰囲気が聴く者に伝わっていくと思いますね。それが冒険であったり、世の中に対する自分の意識であったり、すべてを経験しろとは言わないけれど、そういった気持ちを持つことも必要だと思います。ロックシンガーのような精神を持っていると、その人の唄は本物だということにもなります。型にはまらない自分なりの考えを持って唄うことでしょうか。テクニックを身につけた上で、その人の生き方が加わることで味が出るのです」

——具体的にはどんなテクニックが求められるでしょうか?

「唄うときに自分で工夫していろいろなことをやることですね。転調するにしても、リズムを変えること。同じキーで唄うのではなくて、工夫してほしいですね。なぜ、半音上げたのか? 半音上げたのならそこから盛り上げていくから味があるわけで、同じだけ上げたのでは意味がない。きちんとした意図が感じられること。そんな工夫を見ています。そして、ただ唄うだけではなくて、この洋服を着たらこういう唄い方をしようとか、唄のアレンジだけではなく、洋服のセンス、演出も含めて、すべてを完成させてパフォーマンスを見せて、審査員を騙すのもOKです。私たちは簡単には騙されませんけど(笑)」

変わらない中にも、冒険はしてほしい。

——来年以降、神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテストに期待することはありますか?

「もう少しロックテイストの人も出てきてほしいと思います。また、出て来ることが自然な流れのような気もします。あまりにもコンサバティブで、いかにもジャズはこういうものというのではなく、冒険してもらいたいですね。今日の様子はインターネットの動画で中継されていましたが、回を重ねたイベントは上質なものなので、メディアなどに広く露出することでいろいろな人が参加すると、これからもっと楽しいイベントになると思うので、来年以降が楽しみです」

「第12回 神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテスト」の
コンサートレポートはこちらからご覧ください

http://kobejazz.jp/concert_report/vol76.html