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Jazz People

Focus on Challengers vol.2 石若駿 インタビュー
~“常に「無い物ねだり」” だからこそ動き続ける、シーンのキーパーソン~

20代のジャズミューシャンにスポットを当てるインタビュー企画「Focus on Challengers」。2回目はドラマーの石若駿さんの登場です。ジャズシーンだけでなく、あらゆる音楽ジャンルを越えて活躍する石若さん。近年では自身のリーダープロジェクトでのリリースも続いていますが、今回はご自身のジャズ、ドラムスのルーツを改めて振り返っていただくと共に、各方面で話題の最新アルバム「Answer to Remember」についてもお聞きしました。

Person

石若駿

1992年8月16日生まれ、北海道清里町出身のジャズ・ドラマー。東京藝術大学卒。幼少からクラシックに親しみ、13歳よりパーカッションを始める。ジャズスクールで本格的にドラムを演奏し始め、ハービー・ハンコックや日野皓正、タイガー大越らに出会い影響を受ける。2009年にバークリー音楽院へ留学。
帰国後、精力的にライブ活動を展開。これまでに日野皓正のほか、渡辺香津美、山下洋輔、ジェイソン・モラン、テイラー・マクファーリンらと共演。クラシックや現代音楽の演奏も多く、CRCK/LCKSのメンバーとしても活躍。『くるり』のサポートなど様々なジャンルで活躍。2015年に初リーダー作『Clean up』を発表。2016年から『SONGBOOK』シリーズをリリース。2019年12月4日に最新リーダープロジェクト『Answer to Remember』のアルバムをソニーミュージックよりリリース。

オフィシャルサイトTwitter

Interview

取材・文:小島良太(ジャズライター/ジャズフリーペーパー VOYAGE編集長)

森山威男さんの衝撃

── そもそも音楽、ジャズとの出会いは?

父親が高校の教師でブラスバンド部の顧問をしていたんです。そういう環境もあって、物心つくかつかない時期から、高校のブラスバンドの演奏をよく聴きに連れて行ってもらいました。その時に打楽器、ドラムセットに興味を持ったみたいで。それに両親が気付いてドラムセットのカタログを楽器屋さんで沢山もらってきてくれたのをよく見ていましたね〜。ドラムセットの中でも特に銅羅が好きになって、段ボールで銅鑼を作って遊んでいました(笑)。その後、4歳で初めて聴いたジャズライブが室蘭のNHKホールで開催されたドラマーの森山威男さんとサックスの松風鉱一さんのデュオでした。2時間ずっとフリージャズ!森山さんの音圧、スティックが折れたり、跳ねたり、すごい迫力で。その時に、「格好良い!あれをやりたい!」と強く思いました。この体験がジャズの出会いですかね。

── ドラムを実際始めたのはいつ頃ですか?

小学校4年生の時に札幌市の芸術文化財団が運営している「札幌ジュニア ジャズスクール」の小学生対象のビックバンドのオーディションに合格、そこから本格的にジャズドラムを始めました。その前に祖父母が小学校に入った時くらいに電子ドラムを買ってくれて、自分で練習するようにはなりましたけど、「誰かと一緒に演奏したい」と思って、そういう場を探していた所、ジャズスクールの存在を知って。ジャズスクールでの日々はすごく楽しかったですよ〜。私は三期生だったんですが、先輩には現在、渡辺貞夫さんや峰厚介さんのバンドで活躍中の竹村一哲さん(ドラムス)がいて。当時から竹村さんは凄かったですねぇ。同期には現在アメリカで活躍しているサックスプレイヤーの寺久保エレナさんや馬場智章さん、板橋文夫さんのバンドなどで活躍しているトランペッターの山田丈造君もいました。そうそう、丈造君の弟の山田みどりは私と同い年で、ハードコアバンドの「The Hatch」でボーカル兼トロンボーンとして活躍していて、フジロックなどにも出演しているんですよ。なんだか面白い人の繋がりですよね。

── 今のジャズシーンで重要な方ばかり!
そういえば、ジャズを聴く前は「X JAPAN」をよく聴いていたという話を以前のインタビュー記事で目にしたのですが。少し意外でした。

そうなんです!ジャズを聴く前は「X JAPAN」が大好きで。「X JAPAN」が解散した97年にたくさんテレビでそのニュースとかを見て衝撃を受けて。YOSHIKIさんのドラムを叩く姿はインパクトあったし、それこそバンドってこんなに格好良いんだ!と思いました。「X JAPAN」って、メンバーそれぞれがキャラ立ちしているじゃないですか。何か戦隊モノのヒーローみたいに見ていたんだと思いますね(笑)。もちろん演奏の速さっていうのにもびっくりしましたし、母がピアノ教師だったこともあって、ドラムを始める前に私も少しピアノも弾いていて。だから「X JAPAN」のクラシックの要素を持った曲調に自然と惹かれたのかもしれませんね。カセットにアルバムを録音して「Blue Blood」とかよく聴きましたよ~。


東京へ セッションに明け暮れる日々

── 北海道から東京へ行くことになった経緯を教えてください。

中学校の時にジャズスクールのバンドクリニックで日野皓正さんが教えに来てくれた時に、「お前、中学卒業したら、俺のバンドに来いよ!」って言ってくれて、それがすごく嬉しくて。日野さんの演奏も格好良くて憧れました。
そこから東京に出たいという気持ちがすごく強くなって。東京に出たら、日野さん達と共演できるんだ!と思って。色々考えて、運良く東京芸大付属高校の打楽器科に進学できました。学校では主にクラシックを学び、学校から帰った後は学生服のままで高田馬場「イントロ」を中心にジャズのジャムセッションに明け暮れました。

── その時から親交のあるミュージシャンはどんな方々がいらっしゃいましたか?

若井優也さん(ピアノ)、楠井五月さん(ベース)、菊池太光さん(ピアノ)、福森康さん(ドラムス)、石田衛さん(ピアノ)、安田幸司さん(ベース)、あと須川崇志さん(ベース)がアメリカから帰ってきた頃でしたね。この方々とは頻繁にセッションしました。セッションの刺激は凄かったです。北海道時代はビックバンドの曲をずっと演奏していたし、個人的にはブライアン・ブレイドなどのコンテンポラリージャズをよく聴いていたので、東京に出てきた当時はジャズスタンダードの曲をあまり知らなかったのですが、セッションでみんなスタンダード曲を沢山知っていてビックリしました。自分はまだまだ何も知らないなぁと痛感しましたけど、そのおかげで鍛えられましたね。あと、みんな厳しかったです、いい意味で。セッションが一曲終わるごとにその時の演奏の反省など議論していましたね。

── 芸大進学前後から既にプロとして活躍されていましたよね。

現在も続いている「Boys(ベーシスト金澤英明さん、ピアニスト石井彰さんとのピアノトリオ)」の活動が特に多かったですね。学校の夏休みや春休みで私のスケジュールが空くので、それを狙ってツアーもしました。他にはTOKUさん(ボーカル、フリューゲルホルン)にもとてもお世話になりました。ピアニストの柳隼一さん、福井アミさんとの共演や、トランぺッターの中村恵介さんのクインテット、高3の時はOma Sound(ベーシスト鈴木勲さんのリーダーバンド)にも参加しました。

── 学生時代から既に濃すぎます!


ドラマーとして、アーティストとして

── 現在、リーダープロジェクトはもちろん、様々なアーティストのサポート活動をされていますが、演奏時に、気持ちの切り替え、演奏スタイルの棲み分けみたいな事をされているのでしょうか?

いろんな音楽やっているんですけど、自分が大事にしているスタンスはそんなに変えてなくて。もちろんそれぞれに一番相応しいサウンドを出すように心がけているんですけど、どういう所で演奏しても、「あ、石若だ!」とわかってもらえたら嬉しいです。例えばエルビン・ジョーンズやトニー・ウィリアムス の色々な演奏を聴いても、すぐ彼らだとわかるし。そういうドラマーになりたいですね。

── 石若さんのリーダー作品のリリースが続いていますね。まずは「Songbook」シリーズについて。 石若さんのソングライターの一面を強く感じる作品群ですね。

アメリカのジャズシーンで2000年代くらいから、ジャズのミュージシャンがシンガーソングライターとコラボする事が増えてきて。しかもミュージシャン同士の関係もすごくナチュラルで雰囲気が良くて。ブライアン・ブレイドはジョニ・ミッチェルやシールと演奏しているんだ!とyoutubeで見て憧れましたし、そういったものをネットで色々調べるのもジャズの研究の一つでしたね(笑)。その中でブラッド・メルドーがエリオット・スミスと共演したのを聴いて、エリオット・スミスのようなシンガーソングライターのように自分で曲を作って歌って発表する形をしてみたいなぁと思って。そういった表現を「Songbook」で取り組んでいます。

── 「Answer to Remember」に関しては「ドラマー」としての石若さんが大きくフォーカスされた作品ですよね。石若さんのリーダープロジェクトとしてはそういった活動は久々に感じます。

そうだと思います(笑)。ドラマーとして、バッコーンと叩くアルバムって、格好良いなぁと思っていたけど、でも今まではちょっと恥ずかしいというか、抵抗があったのですが、今回(発売元の)ソニーミュージックさんといいタイミングで話があって、自分でも今やってみようかなと思いました。

── ドラムがフィーチャーされていますが、多彩なコラボレーションによって、それが自然に溶け込んでいますよね。

今回のレコーディングは自分で冒険しながら作った面白いサウンドになったなぁと。自然の摂理のような。レコーディングしながら作り上げた感じです。 KID FRESINO君が参加してくれた曲(「RUN」)は最初2管クインテットのインスト曲だったんですけど、「ラップ入ったら良いかも!」と思って、ホーンの佐瀬悠輔君(トランペット)、安藤康平君(アルトサックス)の音を外したトラックを聴いてみて、「あ、これはFRESINO君にお願いしてみよう」と。もちろんホーンのトラックはちゃんと残しておきましたが(※インストバージョンもアルバムに収録)。
「Answer to Remember」はすごくライブ感のあるプロジェクトだと思うんですよ。
ジャズっぽいけど、フィーチャリングアーティストのジャンルも多彩で。それをリスナーが聴いて、「ライブに行きたい!」と思ってもらえたら嬉しいです。「どうやってドラムを叩いているんだろう?どうやって演奏しているんだろう?」というような感じで普段ジャズを聴かない方、ライブにあまり行かない方も行ってみたくなるような。だからこそあえて決め事は少なくしてレコーディングに臨みました。
今思えば、生々しくて、勢いのあるサウンドにしたいという気持ちでしたね。それが普段の自分のスタンスだと思うし、その通り作る事ができました。 それと!出来上がってメンバークレジットを見たら、今まで一緒にやってきた仲間達と作ったんだ!という形が残せたのも嬉しいですね。例えば、ハービー(ハンコック) のヘッドハンターズやロイ・ハーグローヴのRHファクター、SFジャズコレクティブの参加メンバーを見て、おおぉ!となる感じ。「2019年はこんなメンバーでアルバム作ってたんだなぁ!」と後々言ってもらえるような作品ができたと思います。

── 先行配信でリリースされた「GNR」のジャケットイラストはジャズを題材にイラストを描かれているYazuka Rumaさんの作品ですね。
私もインスタグラムでYazukaさんをフォローしていたので驚きました。

私もインスタでYazukaさんのイラストを見つけて!で、早速連絡して、ぜひ書いてください!と直接頼みました。打ち合わせも、たまたま連絡した3日後にYazukaさんが住んでいらっしゃる地域で私もライブ出演があって、早速そこで会うことになって。縁を感じました。そういう事も含めて「Answer to Remember」は面白いプロジェクトですよね。


常に「無い物ねだり」

── 最後に今後の展望などを教えてください。

今やっているプロジェクトはこれからもずっと続けたいですね。あと、また「ジャズ」に真っ向から取り組みたいなぁと思っています。
最近、ギターのペドロ・マルチンス(カート・ローゼンウィンケルの「CAIPI」にも参加)の動画を見てすごく刺激を受けて。今こういう事が起きているんだ!という驚きもあって、コンテンポラリーのジャズ作品に取り組んでみたくなりました。それとインプロヴィゼーションも好きなのでドラムソロのアルバムも作ってみたいですね。他には日本のジャズレジェンドの方々とまた共演していきたいなぁという気持ちもあります。考えてみると、自分は常に「無い物ねだり」なんですよね(笑)。色々なことで満たされている日々だけど、あれもやってみたい、これもいいなぁと常に思っています。でもそうやって思っていた事が自然と実現する事があるので、その縁を大事にしていきたいですね。

── 日本の音楽シーンを縦横無尽に活躍する石若さんの今後の展開がますます見逃せない、聴き逃せない。改めてそう強く思いました。そして彼と同時代に生き、その動向をリアルタイムで追いかけることができる事、「ライブ」で実際に体感できる喜びを皆さんと共有できたらと思います。

Live Information

石若駿 Live Informationはこちら
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