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ジャズピープル

音楽家としての信念を貫く

2013年にアメリカから帰国後、関西だけでなく全国各地に演奏活動の幅を拡げているベーシスト、石川翔太さん。若手ベーシストの中でも本格派として注目を集める彼の音楽的ルーツ、また師であるジョージ・ムラーツとのエピソードや日米のジャズ観の違いなど、忌憚なく大いに話してくださいました。

インタビュー・文 小島良太(ジャズライター/ジャズフリーペーパーVOYAGE編集長)

person

石川翔太

神戸生まれ。5歳よりピアノ、12歳よりフルートを始める。16歳よりベースに転向、神田芳郎・鷲見和広に師事。2007年より、奨学金を得てバークリー音楽大学に留学。ベースをBruce Gertz, Barry Smith, 作曲をScott Free, Greg Hopkins等に師事。演奏科とジャズ作/編曲科を2010年に卒業。2007年よりジョージ・ムラーツと出会い、後に弟子として認められる。NY在住のピアニストMatt Savageとの日本ツアーやNY Birdlandへの出演など、NYでプロとして活動後、日本に帰国。LA在住のピアニストJosh Nelsonとの日本ツアー、チェコ共和国を代表するピアニストEmil Viklickyの来日公演への参加、Jeff Hamilton TrioのレギュラーピアニストであるTamir Hendermanとの共演、オランダ出身のピアニストMike Del Ferro, ドラマーのSebastiaan Kapteinとのツアー等、関西に拠点を置きながらも国際派として活動している。自身のバンド、同い年のピアニスト二見勇気とのDuo、来日ミュージシャンのツアーベーシスト、フルーティストとしての活動、ジョージ・ムラーツ研究家としてのベーシストへの個人レッスンなど活動は多岐に渡る。

interview

ジャズに没頭する日々。

── ジャズを聴くキッカケは?

石川「両親がミュージシャンだったこともあり、幼少期から音楽に自然と触れる機会は多かったと思います。サックス奏者だった父がジャズを、弾き語りをしていた母がカーペンターズなどの洋楽を聴いていました。今になって仕事の場で初見の楽曲でも、演奏すると聴き覚えがあって、「あ、子供の時に聴いていた曲だ!」となってビックリする事があります(笑)。あと音楽、というよりゲーマーでしたから。1日10時間以上スーファミしていたぐらい(笑)。そのゲーム音楽が格好良いなぁという事はありましたね。」

── 同世代が聴くようなJ-POPを聴く事はなかったのですか?

石川「友達との会話のネタとしてテレビの音楽番組は見ていましたよ。ほら、「速報!歌の○○(番組名)」とかあったでしょ!?そういうのは見ていました。自分自身で意識してジャズを聴くキッカケとなったのは、中学1年生の時に父に勧められたフィル・ウッズのアルバム、「”Alive and Well in Paris” Phil Woods and his European Rhythm Machine」です。脳天を貫くような演奏に衝撃を受けて当時主流だったMD(笑)に入れて四六時中聴いていました。今の所、人生で一番聴いたアルバムです。いまだにフィル・ウッズのソロはアルバム通して全部同じピッチで歌えます(笑)。その後はお年玉でビル・エヴァンスのアルバムを大人買い、翌年はチック・コリアのアルバムを大人買い…神戸三宮のセンタープラザ(商業施設)のHMVのジャズコーナーが僕にとっての聖地でしたね。今思うと、変な中学生だったと思います(笑)。 」

── ベースを始めたきっかけは?

石川「ベースを演奏し始めたのは高校生からです。神田芳郎さんにアメリカに行くまでずっと教えていただきました。そこでポール・チェンバースやレイ・ブラウンなどのジャズベースの王道スタイルをしっかりと教えていただきました。私にとっては今でも先生です。また、鷲見和広さんにもとってもお世話になりました。鷲見さんは当時ジョージ・ムラーツが好きなだけだった私に惜しみなく彼の演奏の秘密を教えてくれました。もちろんその裏付けされた演奏にも感銘を受けた一人です。鷲見さんに教えてもらったベースを弾く時のコンセプトのお陰でバークリーでは全く演奏時の技術的(テクニカル)な問題はなくて純粋に音楽に集中する事が出来ました。譜読みは下手くそでしたけどね…(笑)。また、度々ボーヤ(付き人)として、様々な仕事現場を経験させてもらいました。そして鷲見さんを通じて、大阪のOver Seasの寺井(尚之)さんを紹介してもらい、後に寺井さんにジョージ・ムラーツを紹介していただく事になるのです。 」

ジョージ・ムラーツへの憧れ、そしてバークリー留学へ

── ジョージ・ムラーツを知るきっかけは?

石川「後に師となるジョージ・ムラーツの演奏を16歳の時に聴いてまず「こんな音程の良いジャズベーシストがいるんや!」とビックリしました。あれはトミー・フラナガンとの共演盤(LPでは“Speak Low”、CDでは“The Magnificent Tommy Flanagan”)でした。父にレコードをかけてもらいびっくりしたのを鮮明に覚えています。そして一番衝撃を受けたのは小曽根真さんの“Spring is here”での演奏でした。このアルバムのベースライン及びベースソロは全て完コピするくらい夢中になりました。でも、完全に弾けるようになったのはその10年後ぐらいでしたけどね…ベースという楽器をフルに活用した彼の歌(ソロ)は難しい(笑)。今でもあのアルバムの彼の音が理想です。 」

── そこまで敬愛されていたのですね。

石川「バークリーへの留学のキッカケも「アメリカに行けばムラーツに会えるだろう」という単純な動機でした。アメリカに着いて英語もろくに喋れない時から彼と繋がる事が出来たのは彼と親交のあったJazz Club OverSeasの寺井尚之さんと珠重さんのおかげです。お二人の紹介があったからこそ彼も親身になって私を側に置いてくれたのだと思います。バークリー留学から帰国までの7年間、彼の内弟子として、ずっと間近で演奏の機会を聴かせてもらい、またプライベートでも多くの時間過ごさせてもらい、夢のような時間でした。 ボーヤ(付き人)として彼の演奏をずーっと間近で聞かせてもらって世界一流の人達が起こす”音楽の奇跡の瞬間”もたくさん見せてもらいました。その期間と体験があるからこそ、今も音楽を続けていけるのだと思います。 」

── バークリーへの留学とその後のニューヨークでの演奏について聞かせてください。

石川「バークリーへの留学は現在ニューヨークで活動しているピアニストの大友孝彰君に協力してもらって奨学金試験を受け、無事当時の最高金額を貰えたのも大きい後押しとなりました。バークリーでは演奏科と作/編曲科を専攻、ベースの演奏はもちろんですがクラシックのフルートアンサンブル、ビッグバンド等色々な形態の作曲やアレンジをする機会をもらって、とにかく寝不足でしたが充実した日々を過ごしました。教授陣との演奏や同窓生との演奏も良い経験ですね。卒業後はアーティストビザを取って、ニューヨークで3年ほどミュージシャンとして活動していました。演奏のギャラは安いし、帰ってくる約束をしていても日本に一時帰国ツアーをしている間にトラに仕事を取られるし…と生活はかなり厳しかったですが、老舗名門ジャズクラブ「バードランド」の出演機会等、“刺激的な”を超えた“刺激しかない”日常はとても貴重な経験でした。当時はあの雰囲気から解放されたいと思いましたが、今となってはあの“刺激”を欲している自分がいます。またゆっくりと遊びに行きたいと思っています。 」

帰国してからの変化

── アメリカにいた時との演奏の変化はありますか?

石川「自分の音に対する責任を考えるようになりました。ベーシストでない人が無視していい所と、ベーシストが無視できない所、みんなで音楽をやるのか、単に伴奏をするのかの違いですね。アメリカは“個”がハッキリしていても、総合的に音楽を作ろうとする。例えばワイングラスで思いきり乾杯して、たとえグラスが割れてもそこから割れたピースを1枚ずつ繋ぎ合わせてなんとか形を作り直そうとする。 逆に日本は「こんなに思い切って乾杯したらグラスが割れてしまうかな…」と失敗を恐れてぶつけない…「あなたがこう思うのなら、私はこう…」という”合わせる・合わせない”とは違ったバンド全体で作り上げる演奏の傾向が少ないように感じました。 どちらかと言うと役割分担、もしくは我慢の文化というか、みんながこうしているから合わせよう、というのを良しとする傾向があるのかなぁと。アメリカのミュージシャンだから演奏能力が特に高い、というわけでは絶対なくて、一緒に音楽を作ろうという意識がニューヨーク(と言うかアメリカ)では多くあるように感じましたね。 」

── 拠点を東京に移すという事を考えた事はありますか?

石川「もしかしたら将来的にはあるかもしれませんが、でも神戸にいながらも日本全国・そして世界各国に飛んでいける存在になれれば一番いいですね。好きな楽器もいっぱいあればやりたい音楽もいっぱいあります。人種・音楽のスタイル関係なくいろんな人と音楽でコミュニケートしていければそれほど幸せな事はないですし、理想です。」

── 神戸で印象に残った経験などは?

石川「縁あって現在小曽根啓さん(サックス奏者)のバンドでベースを弾かせて頂いているのですが、そのご縁で同席させて頂いた先日の小曽根実さんを偲ぶ会がとても印象に残っています。僕自身ももちろん演奏に混ぜて頂いて啓さん・真さんはもちろん実さんにゆかりのあるミュージシャンの皆様と一緒に演奏させてもらいました。その時に感じた会場の暖かい雰囲気がとっても印象に残っています。音楽の力と言いますか、“想い”と言うものを感じた気がしました。実さんとも生前に共演させて頂いた事も忘れない貴重な経験の一つです。小曽根啓さんのバンドでは、7/20に松方ホールに出演するので是非神戸の皆様には聞いて頂きたいなと思います。オススメです! 」

今後の活動について


── ピアニストの二見勇気さんとのデュオアルバムをリリースされましたね。

石川「現在アメリカで活動中の二見さんとは2013年に彼のライブを聴きに行ってから意気投合して現在に到るのですが、一緒に演奏するまで4年ほど空きましたが、昨年の夏にツアーを回って相性の良さを再確認。今年の頭にレコーディングしました。神戸で最近できたスタインウェイのショールーム内のコンサートホールでの一発録り。いつもライブでお世話になっているカントコトロの中村一麻さん(元々プロのPAオペレーター)に立ち会ってもらって、長丁場でしたが充実したレコーディングとなりました。今回流通はあまり考えていないのですが、レコーディング会場のスタインウェイのショールーム、三宮の茶房Voice、私の幼馴染の鍼灸院SORAなど、いくつか置いてもらっています。もちろん、私のホームページでも販売していますのでお気軽にお問い合わせ下さい。 」

── これからチャレンジしたい事は?

石川「自分のリーダートリオで自作曲など、もっと自身の音楽をしたいなというのはあります。ずっと構想もあり曲等書き溜めているのですが、機会を作っていかないとと考えている所です。後はフルートの演奏も、もっと現場に出て行こうかなと思っています。フルートレッスンでプロの方を中心にジャズを教えていくうちに、自身もライブで吹きたいと思う気持ちが大きくなってきて…。同じライブでベースと持ち替えて、フルートを時折吹く、みたいなピエロ的な事はできる限りしたくないですが、人前で吹く機会は今後増やしていきたいですね。 」

[インタビューを終えて]
帰国してから、常にその動向、演奏活動を追ってきた一人でもある石川さん。確固たる音楽、ジャズへの信念は今後も揺らぐ事はないでしょう。既に国内外の実力者と競演を重ね、ますますその技に磨きがかかるベーシストとしての活躍と共に演奏歴はベースよりも長いフルート演奏の方も楽しみです。正確な理論と共に強いジャズへの想いを持った石川さんの幅広い活動に注目していきましょう。

information

[ Live Information ]

石川翔太ライブ情報
7/20 小曽根啓 Plays Ballads 松方ホール

8/6  定岡弘将 Quartet (フルートでの出演)

東京ミニツアー
8/15 大塚 ドンファン めぐたろう+石川翔太 form Kobe
大谷愛(p), 中山健太郎(ds) guest 石川翔太(b)
19:00 Open, 20:00 start MC ¥3000-

8/16 南与野 Jazzmal 二見勇気Trio Tokyo Tour
Open 19:00 Start 19:45 MC ¥2500円
http://saxyuq.com/jazzmal/

8/17 吉祥寺 Sometime 二見勇気Trio Tokyo Tour
Start 19:30- 21:00- MC ¥2500円
http://www.sometime.co.jp/sometime/index.html

8/18 神田 東京TUC 二見勇気Trio Tokyo Tour
Open 17:00 Start 17:30- 19:00-
MC ¥3000円 最前列席 限定8席 ¥4000-
http://tokyotuc.jp/

Matt Savage from USA tour
8/24 舞子 カントコトロ
Matt Savage Solo Piano
Open 18:30- Start19:30- Ticket ¥3000-(予約), ¥3500-(当日)


8/25(昼) 三宮 旧居留地 Bar Request
Mariko Yoshida Meets Matt Savage&Shota Ishikawa
Open 14:00-, Start 14:30- 2set Ticket ¥3000-(予約), ¥3500-(当日)

8/25(夜) 三宮 旧居留地 Bar Request
Matt Savage Trio
Matt Savage(p), Shota Ishikawa(b), Hiromasa Sadaoka(ds)
Open 18:30- Start 1st 19:30- 2nd 21:00- ticket ¥2000



[ Release ]

二見勇気&石川翔太 「Underrated」
​(石川翔太より…)
三十路の男二人、こんなCDを作ってみました…

(小島 アルバム評)
本格派、と呼べるデュオ演奏を心置きなく聴きたい…。そんな要望にピタリと当てはまるアルバムが完成した。彼らの真摯なジャズとの対話を耳をそばだてて聴いてみよう。

TST-003 ¥2500-(+tax) 2018/6/1より発売中。問い合わせはHPより www.shotaishikawa.com

1.It’s Been A Long Time…Spring In Japan
2.Spring Mist
3.Round Midnight
4.Beyond The Bluebird
5.Dolphin Dance
6.446
7.For All We Know
8.Blue Monk
9.Por Do Sol No Rio