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ジャズピープル

ゴスペルとサックスと神戸

 サックス奏者前田サラさん。日本の名だたるミュージシャンとの共演を果たすなど、幅広い活動を展開しており、サラさん自身はファンクを追求しています。そんなサラさんは教会が身近にある環境で育ったことからゴスペルや教会音楽をルーツとしています。そしてこれまで、オープンにはしてこなかったそうですが、実は神戸出身。毎年、夏に神戸文化ホールで開催されるJAPAN STUDENT JAZZ FESTIVALにも出場経験があり、サックスのルーツは神戸にあるとか。これまでの音楽生活やこれからのことなどお話を伺いました。

person

前田サラ

プロテスタント教会の牧師で音楽家の父、音楽好きな母の元6人兄弟の長女として育つ。小学4年生のときに神戸に移りドラムの演奏を始め父の教会で演奏を始める。中学校の吹奏楽部ではクラリネットを担当するが、サックスに憧れサックスを手に入れて翌週の日曜日には教会で演奏を始める。16歳で東京に移り、高校に進学せずアルバイトで家計を助けながらサックスの演奏に専念し、家族とともに教会やストリートでも演奏するようになる。17歳の頃、本格的に演奏活動を始める。19歳、高円寺環状7号線の歩道での練習中にドラマー、中村達也(ex-BLANKEY JETCITY)に声を掛けられ、後にthe day:中村達也(ds)/KenKen (b)/蔦谷好位置(key)/仲井戸麗市(g)のサポート・メンバーとして参加する。同じく19歳の頃、教会のイベントで渡米した際に世界的なサックス・プレイヤー、ロン・ブラウンと知り合いサックスのレッスンを受け、帰国後もSkypeを通じてのレッスンを2年間受ける。2015年、ビクターより1stアルバム”From My Soul”をリリース。ゴスペルをルーツに持つ、熱いファンク・ソウル感、溢れるそのプレイスタイルは、ジャンルを超えて様々な音楽界隈で注目を浴びている。

interview

音楽のルーツはゴスペル。サックスのルーツは神戸。



── 前田さんはルーツがゴスペルとお聞きしましたが。

前田「お父さんが牧師で、毎週のように教会は小さいころから通っていました。みんなで歌を唄ったりというのも日常の中にありましたね。小学校4年生の頃にドラムを始めて、始めた週から教会でドラムを叩き始めて、そこで楽器の面白さを知りました。ドラムは無性に叩きたくなって、お父さんに叩きたいと言ったら、お父さんも昔、バンドをやっていて、一通り楽器を触ったことがあったので、お父さんに教えてもらいながら、叩くようになりました。」

── サックスはいつ頃始められたのですか。

前田「サックスを始めたのは(神戸市立)葺合中学に入ってからです。ブラスバンドではサックスの希望人数が多くて、クラリネットになってしまいました。それでもサックスはかっこいいなと思って、あきらめきれずにいて、安いサックスを買って、家で練習をし始めて、買った翌週には、教会で演奏していました。もちろん学校ではクラリネットの練習をしていました。私が葺合中学に入ったころからブラスバンド部でジャズの演奏が始まって、たまにサックスも吹かせてもらいました。でも基本的にクラリネットでした。」

── ジャズを始めたのは中学生ですか?

前田「そうですね。中学でブラスバンド部に入って、ビッグンバンドジャズをやり始めました。クラリネットが中心でしたが、たまにジャズのイベントでサックスを吹かせてもらったりもしていました。」

── 教会ではどんな曲を演奏していたのですか。

前田「やっぱりゴスペルですね。私が通っていた教会はみんなが想像する様な、ブラックミュージックではなく、ポップスっぽい曲が多かったですが、歌詞の内容などはゴスペルで、ジャンルは違えど、精神的には同じところを志向している音楽です。それが私のルーツだったりするのですが、ある時、教会でドラムを叩いていた時に、情熱的な感情が湧き上がって、心が満たされて涙が出てくるような、いつも叩いたことのないようなフィルイン叩いちゃうみたいなそういう経験もルーツにあり、サックスもそういうところとつながっています。よく"熱い演奏だね”って言われますけど(笑)。ゴスペルから来ていると思います。」

── 神戸の印象ってどうですか。

前田「神戸の街大好きです。おしゃれだし、ハーバーランドも好きだし、元町も好きだし、長田の方に住んでいた時期もあって、須磨の水族園には自転車で行った記憶があります。すごい好きな場所でした。海も山もあって、わりと都会なところもあって、好きな街です。神戸でライブもしたいですね。近いうちにやりたいです。実現するか分かりませんが、最近、知り合いが北野坂にライブバーを開いたみたいで、演奏のお誘いを頂いたりしました。」

楽器を弾くのが楽しいから、ミュージシャンになりたいと願うのは必然


── 小学生の頃には自分はプロになると決意されたとお聞きしましたが。

前田「そうですね。ドラムを初めて、ミュージシャンというのがどういう仕事かわからない年齢だったんですけど、ただ、ミュージシャンという仕事があるのはなんとなく分かっていましたし、楽器で仕事できるのが自分にとって一番楽しいことじゃないかなと。これで仕事をしていこうと。楽器を弾くのが楽しいから、ミュージシャンになるというはわりと当然のように思っていました。小学5年の頃に将来の夢を紙に書いてくださいと言われたとき、"ドラマー"と書いたら、周りから"すごいねー"と言われましたが、私の中では普通のことだと思っていました。」

── プロを意識したのは。

前田「中学3年生の頃には、卒業したら高校行かずにプロのサックス奏者になろうと決めて、学校の先生にはもちろん猛反対されましたが、以前、親もミュージシャンを目指していた事があったのもあって、親は反対せずに、"やりたいことをやればいいんじゃない"と後押ししてくれました。それで中卒で、そのままプロを目指すことになりました。そのタイミングでお父さんが東京に転勤になるかもという話があって、タイミング良く、中学校卒業後、家族全員で東京に行くことになりました。」

── 中学卒業してプロを目指すというのは意志が強いですね。

前田「やっぱり好きだったんですよね。中学の時から決してうまかったというわけではないんですけど、誰よりもマニアックではありましたね。楽器のマウスピースのことだったり、楽器本体のことだったり、いろいろマニアックで、中学生でそんなこと知ってる?っていうくらいでした。中学生のころから好きなサックス奏者は、デビッド・サンボーン、キャンディー・ダルファー、メイシオ・パーカーがすごい好きで、彼らの使用楽器は何だろうと調べてみたり、同じセッティングを使ってみたりしていました。」

── そもそも中学生で今、挙げられたサックス奏者の作品を聴いている方は少ないのでは。

前田「ほとんどいなかったと思います。音楽の話が合う友達なんていなかったですね。当時J-POPも聴かなかったですし。音楽にはまったのもサックスを始めてからで、サックス始めて、どんなサックス奏者がいるんだろうと探していったところで、ジャズとかファンクとかスムースジャズとかフュージョンとか色々聴いたところで、その中で、"ぐっ"ときたのが、サンボーンやメイシオ、キャンディ達のファンキーでブルージーでソウルフルな音楽だったんです。」

ゴスペルの持つ熱いフィーリングをもっといろんな人に、知ってもらいたい



── プロになろうと決意してから、どんなところで演奏をされていたのですか。

前田「教会やストリートでも吹いていましたね。家族でも音楽をやっていましたから。お父さんはギターとヴォーカルですね。東京に行った当初は妹達も小さかったのですが、大きくなるにつれ、みんなで楽器を持って、公園やストリートで演奏していましたね。17歳のころジャムセッションに足を運んで、その時に色々な人に声かけていただいて、色々なつながりができて、プロの人と演奏する機会が増えていきました。」

── 前田さんはどんな音楽を表現しようとしていたのですか。

前田「ルーツでもあるゴスペルが自分の中で一番しっくりくる音楽で、一番伝えたいと思っている音楽です。ゴスペルを通してでしか感じられない、パッションあふれる熱いものを音楽を通して伝えていきたいです。大人数で唄うわけではなく、サックス一本ではありますが、そのパッションやフィーリングは伝えられるんじゃないかと思っています。」

── 今も音楽性は変わらず、ゴスペルを伝えようとしているということですか。

「私の音楽性はというと、ブラックミュージック色が強いですが、ゴスペルというのはジャンルではないと思っています。オーソドックスな賛美歌と言われるクラッシック調なものから、一般的にジャンルとしてゴスペルと言われる、ファンキーなブラックミュージック調のスタイルもあるし、U2のようなポップなスタイルもあります。共通して言えることは、聖書にも書いてあるように、ジーザスに向かって歌う音楽ということ。だからその心に感じるソウルに触れる部分は、どの音楽でもジャンルが違っても同じですね。ふと流れてくる音楽で、ジャンルで言う、ゴスペル色はゼロなのに、"グッ"とくる熱くなる部分があって、これ多分、ゴスペルだなと思うとそうだったりして、そこの部分を大事にやっていきたいと思っています。」

── 前田さんと言えばファンクなイメージですが、ゴスペルとファンクとのつながりは。

前田「ジャンルで言うと、ゴスペルにしても、全体的な音楽のジャンルにしても、自分の好みとしては、Funk, Soulが大好きで、やっている音楽も、そういう音楽ばかりです。最初にファンクにハマったのは、お父さんが最初に買ってくれたCDがキャンディー・ダルファーの"サックス ア ゴー ゴー"で、それ聞いて純粋にかっこいいなと思って。それを耳コピしてみたり。ゴスペルとブラックミュージックもつながりが深いので、お父さんがゴスペルサックスのアルバムなんかも買ってくれたやつ聴くと、スムースジャズやフュージョンに近かったけど、ブラックミュージックの香りもする、そういうのも耳コピしていました。ちなみに一番好きなサウンドは、もっと遡った、60年代から70年代辺りのゴスペルやファンクで、人間臭いサウンドがたまらなく大好きです!笑」

── 目指すところはずっと同じなんですね。

前田「そうですね。より良い音楽を作っていきたいというのはもちろんですが、結局はゴスペルを通して、魂に触れる音楽を届けていくっていうのが、一番のモットーです。」

若い人達との触れ合い、自分の経験を伝えたい。



── 今回、名古屋、大阪とライブで回られましたが、それぞれに違いはありますか。

前田「名古屋は一見クールに見えつつも、いつも行く度に暖かく迎え入れてくれるイメージで、最初に自分のバンドで名古屋に演奏しに行った時は、鳴り止まない暖かい拍手に感動しました。大阪の方がコアな音楽ファンが多い印象で、ブルースとかファンクとか好きな方が多く、いつも大盛り上がりな印象です。それから神戸は、他のバンドで演奏したことはありますが、ソロではまだ行けていないので、近いうちに神戸でもやりたいと思っています。」

── ちなみに今でも教会で演奏はされているのですか。

前田「はい、毎週家族で演奏しています。他の教会に呼ばれて演奏しにいく事もあります。教会では基本、家族バンドでの演奏が多いですね。自分のソロでも大きな教会で演奏させてもらったりもあります。普段の演奏とあまり大きな違いはないですが、よりゴスペル色は強いので、より心を開いて、さらけ出して演奏出来る気がします。」

── これからやっていきたいことは何ですか。

前田「若い人達との触れ合いの場っていうか、そういうのは求めていますね。何か貢献できることがあればいいなって思っています。それと、ゴスペルの良さだったり、自分の伝えていきたい音楽をもっと幅を拡げて、たくさんの人に聴いてもらえるようにしていきたいですね。これはとても嬉しい事でもあるのですが、少し凝り固まっていて、コアな音楽好きの方や、ブラックミュージック好きの方がほとんどなので、もう少し幅広い人に聴いてもらえる機会を作っていきたいです。サックスという枠をもう少し超えていければいいなとも思っています。簡単なことではないかもしれませんが。あと、近いところでは、リリース予定はないんですけど、新曲が貯まってきているので、そろそろ作品作らないとなとは思っています。」

── 青春時代を過ごした神戸で、後輩との関わりというのはどうですか。

前田「そうですね。中学が今どうなっているかなとか、後輩と一緒に何かできないかなって今の年齢になって思うことはあります。ただ、つながりがないので。私なんかでよければ是非協力したいです。」

── 今、プロで活躍する方が何らかの形で関わってくださると、学生は大変うれしいでしょうね。

前田「是非、学生とのコラボも機会があれば、どんどんやっていきたいです。実はついこないだ、福福井県鯖江にある高校で、ジェームス・ブラウンをやったりしちゃう様な、ファンキーな吹奏楽部があり、そこの高校にゲストで呼んで頂き、学生の子たちと共演させてもらいました。ここ数年よく一緒にやらせて頂いている元SUPER BUTTER DOGのギタリスト、竹内朋康さんの出身校でもあって、そのつながりで演奏に行ったのですが、とてもやりがいを感じる演奏会でした。そして実は私、音楽の学校とかは一切行っていなくて、専門的な勉強はしてきていないのですが。17歳で音楽の世界に飛び込んで、そこからタタキ上げで、まだそこまで知識も技術も無い中、一流の方と演奏の機会が多くあり、やらざるを得ない状況の連続で必死にやってきました。なので、現場で培って来たものや、経験を伝えていけければいいなと思います。」

── でもそういう苦労があったから、今があるのでしょうね。

前田「10代の世間知らずで、音楽の世界に飛び込んだので、苦労はたくさんありましたけど。それもあったから今があると思います。」

── ぜひとも、神戸でも前田サラさんの活躍を拝見したいですね。今後の活躍を期待しています。

interview

2018年5月2日 ミスター・ケリーズ(大阪)
2018年5月2日、大阪Mister Kelly’sにて前田サラBANDによるライブが開催されました。会場には、前田サラさんのライブに初めて来た人や、東京から駆けつけたファンが集まっていました。
1stセットは「The Old Rugged Cross」からスタート。続いて「Amen」「Shout!」と三曲続いて演奏され、勢いのあるパワフルな音色に圧倒されました。「Amen」は前田さんの1stアルバム『From My Soul』に収録されている曲で、聴いていると思わず楽しくなって体が動き出してしまうようなノリの良い演奏でした。三曲終わったところでマイクをとった前田さん。演奏中のクールな表情とMCの時の明るい笑顔を併せ持つ、そのキャラクターも彼女の魅力です。その次に、ゴスペルナンバーの「Amazing Grace」を、前田さんの師事するサックス奏者Ron Brownのアレンジで。ゴスペルといえば合唱のイメージが強いですが、サックスで奏でられるとまた違った魅力が感じられます。ゴスペルに馴染みのない人でもそこに秘められた熱さが伝わってくるような演奏でした。続いて、RCサクセションの忌野清志郎さんの曲で「いい事ばかりはありゃしない」。そして最後に、1stアルバムに収録されており、前田さんのお父さんが作ったという「Be Brave Be Strong」。会場全体がバンドのグルーヴ感に包まれ、1stセットが終了しました。
休憩を挟んでスタートした2ndセットの最初の曲は「Sing A Simple Song」。曲が盛り上がっていくにつれてサックスの高い音が響いて高揚感が増していくのがとても印象的でした。続いて、前田さんのフリースタイルでのイントロから始まった「W.W.J.D」。そして、ファンの間でも特に人気があるというファンキーな新曲「Tomato」が演奏されました。この曲について前田さんは「次のリリースに『Tomatoは絶対入れてね』とファンに言われ、弁当みたいな会話になっていた」と話し、お客さんの笑いを誘いました。その後に演奏されたのは、大阪では初披露となる新曲「#1」と、1stアルバムに収録されているスローテンポの曲「I Give My Heart」。2ndセット前半の激しいファンクとはまた違った心地よさを感じました。最後には明るいゴスペルナンバー「Worship Jam」、そしてアンコールではお客さんも立ち上がって踊りながら「#3」が演奏されました。 時間が経つのがあっという間に感じてしまうほど、前田さんの熱くソウルフルな演奏に浸ってパワーをもらえるような素敵なライブでした。

information

[ RECCOMEND MOVIE ]

前田サラBAND - "Shake Everything You've Got"


前田サラBAND - "Amazing Grace"


[ライブ情報]
SPEAK NO EVIL×前田サラBAND

■日時:2018/06/13(水)
■会場:元住吉POWERS2
■開場:OPEN 18:00/START 20:00
■料金:ADV¥2500/DOOR¥3000
■出演:
Speak No Evil
巽 朗(A.Sax)
元晴(T.Sax&S.Sax)
TANCO(Bass)
ハタヤテツヤ(Pf)
秋廣真一郎(Gt)
Yukky(Dr)
内田直之(Mix)

前田サラBAND
前田サラ(Sax)
竹内朋康(Gt)
寺田正彦(Key)
土本浩司(Bass)
下久保昌紀(Dr)
■TICKET&INFO
元住吉POWERS2
TEL 044-455-0007
MAIL powers_two@ybb.ne.jp
WEB http://www.powersbar.com/powers2/
〒211-0021川崎市中原区木月住吉町21-5


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