Denso Ten

Concert Report

米澤美玖 ライブレポート
~世界観に惹き込まれるメロディと確かな技術に胸躍る一夜~

2019年11月15日 神戸・STUDIO KIKI

Written by AKIMOTO RIHO

今最も注目される若手サックスプレイヤーの一人、米澤美玖。2019年発売のアルバム「Dawning Blue」がAmazon日本のジャズ部門で93日間のトップセラー1位を獲得するなど、その小柄な体躯からは想像もつかない力強い演奏と技術力が注目を集めています。
今秋行われた全国ツアーではセッションを中心に行ってきた中、神戸での公演はライブのみで魅せるとの事。実はこの日、取材に訪れた我々はリハーサルから観ることが叶い、その場で譜面を直したり急遽曲を追加して譜面を配布する様子まで目の当たりにしたばかり。正に即興で正確に音を合わせる演奏に、プロの技を見せられ呆然としていました。一体本番ではどこまで完成度の高いものを魅せてくれるのか…期待が高まります。

やがて会場の照明が落とされ、鮮やかな南国色の衣装でステージに上がる米澤さん。ギターの小川悦司さん、ピアノの佐藤勇作さん、ベースの藤村竜也さん、ドラムの村上友さんがスタンバイします。疾走感溢れる「Tenor Hunter」でステージが始まり、会場の熱は一気に上昇。ヘッドドレスの鮮やかな羽飾りを舞わせながら、パワフルな音で魅了する米澤さんのサックスを「待ってました」と言わんばかりにオーディエンスが身体を揺らし始めます。テクニカルなキーボード、頼もしく低音を支えるベースに精密なリズムを刻むドラム、安定した技術で彩りを添えるギター、全ての一体感はリハーサル時など比べ物にならない圧巻の一言。
ギターの小川悦司さんはギタリストで作曲家でありながら、米澤さんの先生でありマネージャーであり、事務所の社長でもあり…そのマルチな活躍ぶりに驚かされます。そんな小川さんが11月初旬に発売したばかりの2ndアルバムからも、急遽曲を追加してライブ演奏するとの事。(リハーサルで配布していた譜面はこれだったようです)心躍らされるMCを挟み、2曲目は冒頭でもご紹介したカバーアルバム「Dawning Blue」の中から「My Love(ポールマッカートニー)」。ソプラノサックスに持ち替えた米澤さんが、がらりと雰囲気を変え艶やかな旋律を奏でます。

この公演の数日前、BS-TBS「オトナ女子ストーリーズ」に出演したばかりの米澤さん。様々なジャンルで活躍する女性に密着するこの番組で紹介された効果からか、「Dawning Blue」の人気が改めて上昇しているのだとか。たった今目の前で至高の「My Love」を聴いたばかり故に、更なるトップセラー1位の記録を伸ばして然るべきだと感じました。
濃密なステージが続く中、3曲目ではアルバム未収録の「ファンタ(仮タイトル)」。3拍子で奏でられる幻想的なサックスの音でファンタジックな異世界へ誘われます。霧の中に佇む古城を思わせるような切なげな美しいメロディを愉しんだ後は、小川さんの新譜から「Song for Mr.J」。Joe Sampleの曲からインスピレーションを受けて生まれたというこの曲は、哀愁の漂うしっとりとした旋律が胸を打ちます。
1st set最後の曲を前に、UFOを見たという話で笑いをさそう米澤さん。そんな不思議体験の雰囲気を漂わせる「Magic Swirl」で前半は終了しました。

後半からは瑠璃色のワンピースで登場した米澤さん。スタイリッシュで軽快な「Exotic Gravity」から始まり、プログレ色の強い近未来的なサウンド「Providence」へ繋げます。米澤さんのテクニカルでパワフルな演奏に息を呑んだところで、「SOLDIER'S DREAM」へ。
これがリハーサル時に急遽追加となり譜面を配布していた例の曲です。移動の車中で米澤さんが提案し、早起きして譜面を書き起こしたという小川さん。ライブ当日にipadで聞きながら耳コピして書き起こしたそうです。プロって凄いですね…。兵士が戦地で見る夢を想って書いたというこの曲は、ずっしりと下腹へ響くような硬派で哀しげなバラード。主旋律を辿る米澤さんのサックスがしみじみとした物悲しさを語りかけて来るようです。会場がしんみりとした哀愁に包まれた後、軽快なリズムと共にラストを飾る「Orange Juice」へ。各パートの掛け合いに遊び心が満載の痛快な一曲で幕を閉じました。けれどこんなに楽しい曲でテンションを上げられては、客席の拍手も止まりません。アンコールへと突入し「Wyvern」へ。ワイバーンは翼竜のような架空の生物。火山と怪獣をイメージしたという力強い演奏が始まり、会場の熱気は最高潮へ。
万雷の拍手の中ステージは終了し、圧巻の一夜が閉幕しました。