Denso Ten

Concert Report

慶應ライト日本ツアー コンサートレポート

10/26(土)京都 ARCDEUX
10/27(日)名古屋 Good'n Cool
10/28(月)東京 ムーブ町屋 ムーブホール

Written by 慶應義塾大学 ライト・ミュージック・ソサイェティ 松井 智輝

10月26日から28日にかけて、今夏のYBBJCを制した慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイェティ(以下ライト)による日本ツアーが敢行されました。今回はNYから、2年前の日本ツアーにも参加していたカナダ・モントリオール出身の作編曲家フランキー・ルソー氏に加え、オランダ・フローニンゲン出身のアルトサックス奏者ベン・ヴァン・ゲルダー氏を迎えての三日間。ジャズシーンの最先端を拓くミュージシャンとともに京都・名古屋・東京を巡る、学生ビッグバンドとしてはあまり類を見ない規模・内容の日本ツアーとなりました。フランキー・ルソー氏は、The New School卒業の新進気鋭作曲家。デビューアルバム『Hope』を始め、幅広い音楽活動で各方面から期待を寄せられています。
2012年にYBBJC(山野ビッグバンドジャズコンテスト)でライトが作品を取り上げて以来、度々交流を重ねてきました。2014年にもYBBJCのため作品を委嘱、同年秋にはともに日本でライブを行うに至りました。さらに、ライアン・ケバリー氏の協力によって行われた2016年のNYツアーでもルソー氏の率いる「Franky Rousseau Large Band」とライトが共演。そこに観客としてアーロン・パークス氏が来場していたことをきっかけに、フランキー・ルソー氏の協力のもと、ドラマーのアーサー・ナテック氏を加えた3名のゲストと巡る日本ツアーが翌2017年に開催されました。
そして昨年、再びYBBJCのためフランキー・ルソー氏に作品を委嘱。再共演の提案があり、彼と親交の深いベン・ヴァン・ゲルダー氏を迎えた日本ツアーを敢行するに至りました。

一方そのベン・ヴァン・ゲルダー氏はNYの名門クラブ「Jazz Gallery」を中心に経験を積み、2013年にセロニアス・モンク・コンペティションのサックス部門セミファイナリストに選出されるなど、近年目覚ましい活躍を遂げるプレイヤー。独特な浮遊感や色彩感の漂う作品の数々を、今回のツアーで取り上げました。
セットリストは、全日程同一。近年のライトでも何度か演奏し、耳なじみのあるフランキー・ルソー氏の作品『Hope (mvmt I)』で開幕します。続くのは、ベン・ヴァン・ゲルダー氏の作曲で、本人の繊細なアルトサックスがリードする2曲。折り重なるように生み出されるハーモニーが会場を包む『Guiding Principle』と、軽快なリズムの上に印象的なメロディーが躍る『Musings』が聴衆の心を掴みました。『Musings』は、「ポケットに入れて持ち歩くように、ふとした時にいつでも演奏できる曲を」との思いで作曲したそうです。そして、1stステージを締めくくるのはフランキー・ルソー氏の友人で、100m走の五輪代表候補という異色の経歴を持つというアイスランド人作曲家アリ・ブラギ・カラソン氏の『Pav』。アイスランドの寒さと雄大さを彷彿とさせるどこか寂しいハーモニーの中に、シンプルながらも温かいメロディーが紡がれていく作品でした。

2ndステージはピアノが湧き上がるようなフレーズを繰り返すルバートに始まり、タイトルの通り懐かしい情景を思い起こさせるメロディーが感動的なベン・ヴァン・ゲルダー氏とのユニゾンで織りなされる『In Retrospect』で会場が柔らかな空気に包まれると、趣向を変えて前回のツアーで共演したアーロン・パークス氏の作品『Chronos』を演奏。3拍子を4つに割りながら進む荘厳かつ勇壮なメロディーと、テナーサックスやフィーチャーのピアノによる長尺ソロが魅せどころです。続いては、『Tribute』というベン・ヴァン・ゲルダー氏の作品。テナーサックス奏者のハロルド・ランド氏による『The Peace Maker』という楽曲へのトリビュート(称賛)として作曲したものだとか。3連符を多くちりばめた印象的なメロディーで、彼らしい浮遊感のようなものを感じさせる、ゆったりとした作品でした。そして、最後に演奏したのは『Frame of Reference』。こちらは最後を締めくくるのにふさわしく、やや明るくポップながら独特の空気感も忘れない、ベン・ヴァン・ゲルダー氏のデビューアルバムで表題曲となっている作品でした。
演奏が終わると、客席は大きな拍手で、礼をするライト一同を讃えました。拍手はアンコールへと移り変わり、真に最後を飾る曲が始まります。ライトが用意していた曲は『Hikari』。昨年のYBBJCに際するフランキー・ルソー氏への委嘱曲にして、ライトとの絆を途切れることのないサウンドによって表現した思い出の一曲です。ベン・ヴァン・ゲルダー氏の素晴らしいソロも加わり、喝采のうちに終演を迎えました。
各地の土地柄や人柄を表すように、会場ごとの反応には様々な表情がありながら、どの公演も客席の温かい拍手が会場を彩りました。
今回共演したルソー氏、ゲルダー氏とライトの絆はこの先も続いて行くでしょう。再びの共演と、慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイェティの更なる活躍が楽しみです。