クリヤ・マコトのビックリヤ音楽鑑
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アラブ世界の歌姫によるボサ・ノヴァ
Fairuz(ファイルーズ)

今回は昨年のワールドツアーの中で出会ったアラブの音楽を紹介しよう。アラブの音楽は僕たちが当たり前だと思っていることと違っていて、聴くたびに新鮮な気分になる。
たとえば、カイロにいるときにTVで「エジプトの美空ひばり」と言うべき存在であるオンム・クルスームの公演を観た。そのバンドの並びがとても新鮮で、上手にアラブ特有のパーカッションが固まっていて、下手に弦の人たちがいる。で、オケで言うところの木管金管がパラパラといるわけだけど、その中で面白いのがファーストバイオリンの位置にいるギターの存在。しかもそのギターがものすごく安い音なんだ。簡単に言うと寺内タケシさんのベンチャーズ系のクリーンギターで、なんの濁りもないテケテケテケテケテンというような感じのギターが必ずいる。
で、いわゆるオペラハウスなので、演奏者は皆タキシードを着て演奏している。パーカッションとかアコーディオンはもちろん、ギターの人ももちろん正装でテケテケやってるっていう。
オケの一員としてそのテケテケがいることが僕らからするとかなり違和感を覚える。残念ながら勉強不足のため僕には何故そのギターが必要なのかは知らないんだけれど、確かにものすごいインパクトではある。ソロをとるとまたものすごく上手くて面白いんだ。
ナイル川のクルーズコンサートの後に観たベリーダンスやスーフィー(旋回舞踊)のときにもちゃんと生バンドがいて、そこにもギターはちゃんといた。テケテケギターは現地では欠かせない存在なんだろう。

くるくると回転することで神との交流を図るといわれているスーフィーダンス

それから、なんといってもビックリするのはボウイングだ。目で見るとよく分かるんだけど、あっちはボウイングがメチャクチャなんだ。普通、オケでは他のパートとの間で弓の動きがバラバラにならないようにボウイングを合わせるわけだけど、向こうはてんでバラバラで、揃えるという観念がない文化のようだ。だから、譜面がどれだけ十二音階のダイアトニックの音階で書いてあったとしても、結局クォータートーンが出てしまうっていうね。バッチリ合ってるはずなのに、よくよく聴くとみんながそれぞれ自分の音楽をやっているっていうのが面白い。TVで観たのもナイル川クルーズでもCDでも、結局ボウイングは全部バラバラだった。
そういう大きな部分でもそうだし、細かく聴いているとたくさんのビックリに出会えるのがアラブミュージックだ。

カイロジャズフェスティバルのステージ

今回紹介するファイルーズはレバノン出身のミュージシャンで、エジプトからイランあたりまで広くアラブで愛されている存在だ。Napraのような民族性の高いポップスもあって、僕らが聴くと民族音楽にしか聴こえないようなものもあれば、いわゆるボサ・ノヴァのような洋楽も演奏している。
ボサ・ノヴァといってもよくよく聴くと、やっぱりオケの感じがアラビアで面白い。ボウイングやギターもそうだし、ユニゾンが好きという点もアラブならではだと思う。ファイルーズに限らず、アラビア人はユニゾンがとにかく好きで、ここぞってときにはテケテケギターも全部同じで、聴いてる人もそこですごく盛り上がるんだ。コーラスが入っててもハモるんじゃなくて皆同じっていう。あまりにユニゾンが多いので違うところを探しちゃったくらい。たまに二声に分かれる部分があっただけで、結局またユニゾンになるのが面白かった。
でもその分、リズムがとても複雑になっていて、パターンの多様性には驚かされた。普通にきかないビートの種類がたくさんあって、すごく勉強になった。
いずれにしろ、ファイルーズのアルバムはあっちの音楽プロダクションの制作物としては超一流で、お金もかかってるし、オケのマンパワーもすごくて、アレンジという意味でもとても手の込んだアルバムに仕上がっているから、アラビアの音楽に興味がある人は是非聴いてみて欲しい。

カイロでのワークショップ終了後、質問に集まってくる学生達
クリヤ・マコト presents 「アドリブコンテスト」「アドリブコンテスト」バナー
Fairuz(ファイルーズ)

75歳にして今なお現役であるアラブミュージックを代表するレバノン出身の歌姫。アラブ特有の民族性の高い音楽からジャズやボサ・ノヴァまで幅広く歌いあげ、アルバム、年代によってまったく異なるテイストを見せる。

Fairuz公式サイト(英語)
Eh Fi Amal
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