クリヤ・マコトのビックリヤ音楽鑑
インデックスページへ戻る
洗練を極めたブラック・アカペラ・コーラス
TAKE6(テイクシックス)

今回は、僕がアメリカに住んでいた頃にビックリしたグループを紹介したい。高い歌唱力と高度なアレンジを誇る、アメリカの6人編成の男性アカペラ・コーラスグループのTAKE6だ。日本でも有名なので、知っている人も多いんじゃないだろうか。
彼らが出てきたのは1980年代。一般的には、90年代に起こったアカペラ・ブームで知ったという人が多いだろう。最初、彼らはお金がないので学校のトイレでよく練習をしていたらしい。日本人がお風呂で練習するようなものだ。お風呂もトイレもいい感じにリバーブが効いているから、歌の練習にはもってこいの場所なんだ。そんな場所で練習していた彼らだけど、世に出てきたときには既に非常にハイレベルで、初めて聴いたときはものすごいインパクトを受けた。

TAKE6は歌唱技術の高さが話題になり、瞬く間にテレビに出始めアメリカで脚光を浴びた。僕は28歳ぐらいの頃で、彼らは25歳ぐらい、年齢が近かったので共感を覚えた部分もあった。だがピアニストの僕としては、彼らがピアノでしか実現できないような極めて高度なジャズ・ハーモニーを、美しいコーラスで実現しているところに本当にビックリした。
余談だが、TAKE6にはクロード・マックナイトというメンバーがいて、アレンジを手がける中心的人物だ。彼の弟に有名なR&Bシンガーのブライアン・マックナイトがいる。共に子供の頃、教会でゴスペルを歌いながら育った兄弟で、TAKE6のメンバーが欠けた時クロードは弟のブライアンを誘ったそうだ。しかしブライアンはそれを断り、後にソロ・アーティストとして成功したのだからすごい兄弟だ。アメリカのポップシーンには、彼らのように教会でゴスペルを歌いながら育った黒人スターが大勢いる。

チャック・マンジョーネとの共演写真

TAKE6のようなアカペラ・コーラスグループのなかで、日本で最も有名なのはボーイズIIメンだろう。彼らは仕掛けを大規模にやったため、TAKE6以上に世界的な成功を手に入れた。だけど実力の点では、特にデビュー当時の衝撃という点では、圧倒的にTAKE6に軍配が上がる。TAKE6 は新人という表現が似つかわしくないほど完成され、オリジナリティに溢れていた。
彼らのアカペラ・サウンドは、どこか土臭いと思うような部分があるのと同時に、ものすごくソフィスティケートされた部分もあってそのバランスが絶妙だ。ジャズ・ハーモニーを使っているけれど、マンハッタン・トランスファーのようなジャズ・コーラスとは全く違う、新しい魅力を持っていた。ソフィスティケートされていながらプリミティブであるというのは、音楽がいろんな人の耳に届いて浸透していくためのひとつの条件じゃないかと思う。

先ほどゴスペルに触れたが、TAKE6 は主にゴスペルを歌うアカペラ・グループだ。アメリカのゴスペルというと、アメージング・グレイスのようないわゆる宗教的なメロディーのイメージがあるけれど、実はそんな枠には全然囚われていない。近年のゴスペルは、音楽的にはほとんどR&Bと見分けがつかない。「これはゴスペルです」と言われて聴いてみたら、マライヤ・キャリーみたいだったり、ビヨンセみたいだったり、ジャネット・ジャクソンみたいだったりする。HIPHOPのようなラップ入りのものもある。様々な音楽スタイルを借りて、神について自由に歌っている。
昔はこういった音楽を「コンテンポラリー・ゴスペル」と呼んでいたのだけど、今では様々なスタイルのゴスペルが当たり前になっているようだ。そういう意味ではゴスペルも絶えず進化しているわけで、そこにはアメリカ音楽の底力を感じる。そしてTAKE6を聴くと、まさに現代ゴスペルの原点のようなものを感じる。彼らは新たなスタイルを模索する独創性と技術の高さによって、グローバルシーンでの成功というゴスペル・ユニットの夢を実現したんだ。

TAKE6(テイクシックス)

アメリカの6人編成の男性アカペラ・コーラスグループ。ゴスペルをベースにジャズやR&Bの要素を取り入れ、高い歌唱力でアカペラ・コーラスグループの最高峰とも言われる。1988年にリリースしたデビューアルバム「TAKE6」でグラミー賞を受賞して以降8回受賞している実力派。

TAKE6公式サイト(英語)
So Much 2 Say
PAGE TOP