水: |
ふだんあまり使っていない空息域のトレーニングがヨゴヨゴでしたね。 |
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寿: |
うむ、息を吐く練習じゃニャ。 |
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水: |
ぼくたちの通常の呼吸は、おもに満息域ばかり使っていて、空息域はあまり使っていないんですね。 |
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寿: |
その通りじゃよ。それを「意識吸息ー自然呼息」と呼んでもよい。 |
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水: |
イシキキュウソク、シゼンコソクですか? |
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寿: |
意識的に吸おうとし、自然にまかせて吐くような呼吸じゃ。したがって、使う領域はおのずと満息域と
いうことになるニャ。 |
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水: |
つまり「吸いが主役の」呼吸ですね。 |
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寿: |
一方、管楽器演奏や武術、舞踊、スポーツ、ヨーガや気功などで求められる呼吸法は、まったく逆のアプローチをとる。 |
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水: |
というと「意識呼息ー自然吸息」ですか? |
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寿: |
そうじゃ。意識的に吐こうとし、自然に吸うことで空息域を使う。「吐きが主役の」呼吸じゃ。 |
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水: |
たしか人体には吐くため専門の筋肉がないため、意識的に呼気をコントロールするためには呼吸補助筋群を総動員しなくてはならないんでしたよね。 |
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寿: |
身体の構造からして、吐くことは難しいのじゃ。ここに古来よりたくさんの呼吸法、それも吐く息中心の呼吸法が開発されてきた理由がある。 |
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水: |
では、生まれたときからずっと呼吸しているのだから、呼吸法を難しく考える必要はないという指導は間違っているんですか? |
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寿: |
学習者をリラックスさせるための方便としては、そういう指導もよかろう。しかし、論理的に考えるならその理屈は通らんじゃろうニャ。 |
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水: |
ふだんとは違う呼吸を学ぶのが「呼吸法」だというわけですね。 |
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寿: |
まさに「正反対の」運動を学ぶといってよいじゃろうニャ。 |
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水: |
前回は空息域での呼気を練習するために、「ヨゴヨゴ」を、そしてそのバリエーションとして「ミゴミゴ」「ニゴニゴ」「ミヨミヨ」「ニミニミ」などを習いました。 |
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寿: |
今回は満息域を使って吸気の練習をしようニャ。 |
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水: |
はい。 |
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寿: |
もう予想がついておるじゃろうが、最初にやるのはロゴロゴじゃ。 |
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水: |
肺の中の空気量を、60%になるまで吸い、50%になるまで吐く。ロ(6)・ゴ(5)・ロ(6)・ゴ(5)と往復するから、ロ・ゴ・ロ・ゴですね。 |
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寿: |
やってごらん。 |
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水: |
はい。(ロゴロゴに挑戦) |
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寿: |
どんな感じがするかニャ? |
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水: |
あまり違和感がないというか… |
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寿: |
ニャはは、そうじゃろう。それがふだんの呼吸に近いからじゃよ。 |
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水: |
あ、なるほど。いつもぼくたちはこんな感じで呼吸してるんですね。 |
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寿: |
50%~60%の満息域で、吸気主導の浅い呼吸をする機会が多いということじゃニャ。 |
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水: |
ロゴロゴにもバリエーションがあるんですか? |
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寿: |
もちろんじゃ。まずは吸息側の振幅を大きくしていこう。ナゴナゴ(70%と50%の往復)をやってみるとよいぞよ。 |
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水: |
ナゴナゴですか、猫みたいですね。 |
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寿: |
ねこ気功じゃからニャ。 |
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水: |
おっと(笑)、こりゃまた失礼しました。(ナゴナゴをやる) |
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寿: |
どうじゃ? |
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水: |
お医者さんで聴診器をあてられているときって、こんな感じかもしれません。 |
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寿: |
ニャるほど。ではヤゴヤゴ(80%と50%の往復)をやってごらん。 |
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水: |
(やってみる) |
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寿: |
これはラジオ体操の深呼吸みたいじゃろ? |
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水: |
たしかに! そうか、ぼくたちは深呼吸しているつもりでも、実際には吸っているばかりであまり吐いていなかったんですね。 |
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寿: |
もちろん、ラジオ体操のときはヤゴヤゴではなくてヤヨヤヨ(80%と40%の往復)くらいになっている場合が多いじゃろう。でも、空息域を十分に使いこなしている人は少ないと思われるニャ。 |
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水: |
たしかにそうでしょうね。 |
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寿: |
次のバリエーションは、ナロナロ(70%と60%の往復)じゃ。今度は振幅は小さいままキープする。 |
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水: |
(ナロナロをやってみる) |
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寿: |
どうじゃ? |
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水: |
なんだか不思議な感じです。難しいわけではないけれど不自然というか。 |
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寿: |
気持ちが落ち着くか、それとも高ぶるかニャ? |
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水: |
高ぶりますね。ヤル気が出てくる。 |
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寿: |
吸息は交感神経に刺激を与えるので、満息域で意識的な吸気を繰り返すと、身体が興奮状態に導かれやすいのじゃ。 |
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水: |
でも、なんだか息苦しい感じもします。 |
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寿: |
そのあたりが呼吸のさじ加減じゃニャ。交感神経は「闘争と逃走の神経(fight or flight)」などとも呼ばれるように、激しい活動を行なうことに適した身体を用意する。人体はある種の緊張状態に置かれるため筋肉は硬くなり、血圧も上がる。 |
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水: |
それって、あんまりいい状態ではありませんよね。 |
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寿: |
いちがいによくないとは言えないニャ。闘争したりあるいは逃走したりするときには、そのような身体が適している場面があるからじゃ。 |
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水: |
でも、緊張し過ぎると自由に動けないし… |
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寿: |
そこで、武術でもスポーツでも「肩の力を抜け」とか「リラックスせよ」という指導をするのじゃよ。 |
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水: |
どうやって? |
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寿: |
息を吐くのじゃ。呼気は逆に副交感神経を刺激するので、興奮というアクセルに対して、ブレーキをかけるような役目を果たす。 |
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水: |
へえ、うまくできてますねえ。吸いと吐きのバランスで心身の状況をコントロールするわけですね。 |
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寿: |
呼吸という身体運動の奥深さがわかるじゃろう?では、残りのワークを片付けよう。ヤナヤナ(80%と70%の往復)をやってごらん。 |
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水: |
(やってみる)う~、これ、けっこうキツいですね。息を思いっきり吐きたくなります。ぷはあ~。 |
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寿: |
さて、チェックしてみようか。ここまで順を追ってやってきたので、きみの身体はたっぷり息を吸える状態になっておるはずじゃ。 |
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水: |
(吸ってみる)おお、本当だ! おもしろいように息が入る。 |
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寿: |
次回は、どういう順序でどのようなトレーニングをすればよいのか、実践的な方法について語ろう。 |
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水: |
お願いします! |
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寿: |
もうひとつ、ロゴロゴの別の使い方についても説明するぞよ。 |
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水: |
楽しみです。ワクワクします! |
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(つづく) |
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