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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.78
GINZ

音楽好きなら誰でもウェルカム! 市民参加型の音楽基地
@東京・調布

『調布駅』といえば新宿から特急で15分、アクセスがいい郊外のターミナル駅だ。また深大寺や植物園、サッカースタジアム,花火大会、映画祭などがあり、人の行き来が多い街でもある。近年では水木しげる氏が在住する『ゲゲゲの鬼太郎』発祥の地として有名になった。

『GINZ』(ギンズ)は駅からほど近い住宅地の中にある。マンション脇の、うっかり見落としてしまいそうな狭い階段を下ってドアを開けると、外観とのギャップに驚かされる。クラシカルで落ち着いた内装の店内はゆったり広々。入店すると真っ先に目に飛び込んでくるステージは、床面から80センチほど窪んだユニークな形状だ。なにやら「音楽のヒミツ基地」といった雰囲気がワクワクさせる。

「以前はダンスフロアだったようです」と答えてくれたのは店主の小川銀士さん。小川さんは早稲田大学ハイソサエティ・オーケストラ出身のサックスプレイヤー。ラッツ&スターとは解散までいっしょに活動し、参加したセッションやレコーディングは、ジャンルを問わず数え切れない。音楽活動のかたわら、16年前にこのお店をオープンした。

「野球には野球場が必要なように、音楽にも場所が必要だと感じて店を始めました。音楽と楽器の好きな人が集まれる場所が欲しかった。オープンする際には六本木や赤坂をはじめ、神奈川の湘南方面まで探しましたが、気に入るところがなかなか見つからず、調布のこの場所に行き着きました。始めてみてわかったのは、目的があれば、場所は意外と関係ないということ。むしろ住宅地だったことで、年配の方、お母さんとお子さん、学生さんなど、あらゆる年代の方が足を運んでくださることになった。それは本当にうれしいですね」

GINZの大きな特長は、アマチュア音楽家が参加できるイベントを定期的に行っていること。ちなみに本日は44回目となる「GINZビッグバンドセッション&ワークショップ」を開催。フェイスブックでビッグバンドの参加者を募り、セッションリーダーが参加人数やメンバーの技術レベルにあわせて選曲、当日の進行を務める。パートが足りなかったり、かぶったりするのはあたり前。参加して配られた譜面にとにかくチャレンジしてみる、という方式だ。

「初心者は譜面が読めない、アドリブができないと尻込みしてしまいがち。間違えることを恐れず、楽しみながら参加してみれば興味も広がります。最近では吹奏楽の経験があって譜面に強く、ジャズもやりたいという若い人が増えています。ここにくれば譜面も、教えてくれる先生もそろっていますよ」。

今回のリーダーは音楽専門学校の講師の方。どうりでさっきからてきぱきと進行している訳だなぁ。小川さんご自身がプレイヤーということもあり、プロの音楽関係者とのつながりが深く、彼らが書いたオリジナルのスコアが自然に集まってくるのだという。中には使わなくなった譜面をここで役立てて欲しいと持ち込んでくれた音楽家もいるのだそう。また自由参加のセッションや地元の映画イベントなど随時催されるほか、小川さんとスタッフのnorikoさんとでそれぞれサックスとボーカルの音楽教室も運営。そういえばセッションが始まる前、ちょうど生徒さんが帰るところだったり、映画祭の関係者が立ち寄ったりとひっきりなしに人が出入りしていた。

おっと、もちろん本格的な通常のジャズライブも開催している。トロンボーンの村田陽一、T-SQUAREのドラマー坂東 慧を筆頭に、彼らがなにか新しいコンセプトでバンドを組むときは「とりあえずいちどGINZで試してみるか、と来てくれます」と小川さんは笑う。

「僕の店は人とのつながりがすべて。この16年間、トラブルに巻き込まれたことはほとんどない。お客様のなくしたお財布も、全部そのまま出てきました(笑)。音楽を学んだ人たちが、社会へ出てもずっと活動を続けていける場所を提供し続けたい。そして子どもたちが、みな何かしらの楽器を演奏できるような地域になってくれれば、と願っています」。

地元の老若男女が集まった『GINZジャズオーケストラ』の演奏が聴ける日も、そう遠くはないかもしれない。