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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.126
Juha(ユハ)

古くて新しい「コーヒー音楽」を味わう
@東京・西荻窪

VOL.122の老舗『マイルストーン』オーナーの「お店を創る人なりのおもしろさを持った新しいジャズスポットが生まれる可能性は大いにある」という予言!?を聞いて、真っ先に思い浮かんだのがここ西荻窪の『Juha(ユハ)』。
西荻窪(西荻)といえばカフェ・吞み屋・雑貨・古着・古書・お菓子屋などなど、個性的なお店が建ち並ぶ“レトロで独創的”といったイメージを持つ場所だが、『Juha』は、そんな西荻らしいたたずまいだ。
昔の映写室の扉をそのまま使っている鉄のドア。白いモルタルの壁に両開きの小さな窓。メニューが置かれた古い木のテーブル、アイビーのプランターにホーローのポット。うーん、いい味出してるなァ。
「もともと喫茶店が好きで、そこから音楽へつながっていったということでしょうか。先に喫茶店文化ありき、なんです」とおっしゃるのはこの店のオーナー、大場俊輔さん。大場さんは新宿の老舗名曲喫茶『らんぶる』に7年間勤務し、2010年に『Juha』をオープンさせた。

アキ・カウリスマキ、植草甚一、沼田元氣らは大場さんが敬愛し、影響をうけた人たちだという。『Juha』という店名もカウリスマキ監督の映画に由来する。その映画のポスターと、写真家 高梨豊による植草甚一の写真は、店内の中でもひときわ輝きを放つ。かつて彼らの本を片手に喫茶店を巡っては、勤務先近くにあったジャズ・レコード専門店で毎日2〜3枚買って“勉強”した。『Juha』では今でもレコードがメイン。その音だけではなく、ジャケットから発信される情報や美しさに惹かれ、ブルーノートのジャケットに魅了されたこともジャズにハマるきっかけのひとつだったという。
店内にはほどよい音量の柔らかな音が広がっている。お客さまは30代の女性が中心だが、一方でいかにもジャズに詳しそうな中年男性もよく足を運んでくれるそうだ。
「両方のタイプの方がいらっしゃるときの選曲は難しいですね。ここで聴く音楽は、リラックスしていただく“コーヒー音楽”ですが、しっかりしたジャズも聴かせたいし。お客さまの邪魔はしないけど、ひっかかって欲しいという気持ちはあります」。
大場さんはカフェではなく喫茶店の良さを大事にしたいとも。その違いってなんでしょう??という私の質問には、奥さまのゆみさんが応えてくれた。
「喫茶店にはラジオやテレビがついていても許せてしまえるようなゆるさがあります。古さも魅力というか。いかにも“おしゃれでしょ?”といったわざとらしさがない分、喫茶店のほうが落ち着けるんじゃないでしょうか」。
ゆみさんは下北沢のジャズ喫茶の名店『マサコ』で働いていた経歴を持つ。大場さんがまだジャズを聴き始めたばかりの頃、ロック好きでも入りやすいものを彼女から教えてもらっていたことも。つまりこのお二人は日本の喫茶店文化とその音楽を継承する“由緒正しき最強のカップル”なのだ。

オープン当初から、50〜60年代以前のジャズのほか、フォークや戦前のタンゴなど、大場さんの琴線に触れるジャズ以外の音楽もかけられていた。現在は20〜30年代のものをよくかけるそうだが、ジャズに詳しい人にも、詳しくない人にも評判がいいという。このラインナップは大場さんの真骨頂、特筆もの。
1. ジーン・オースティン
‘29年録音。フレッド・アステアが好きという大場さん。ジャズも歌えば俳優もやるという時代。オケをバックになんとも温かい歌とサウンド。
2. ルル・ジャクソン
‘28年録音。大場さんいわく「ビリーホリデイに匹敵する」。ジャンルは戦前ブルースのくくりになるそう。
3. エマホイ・ツェゲ・マリアム・ゴブルー
エチオピークというエチオピアの音楽を集めたシリーズ中の一枚。サティやドビュッシーを学んだという彼女のピアノ演奏は、圧倒的なオリジナリティ。
まだジャズもブルースもポップスも、混然一体のエンタメだった時代、どの曲も宝石の原石のような魅力を放つ。ジャズへのこんな入り口もあるんだと思わせる、ガイドブックには絶対に載っていない『Juha』ならではのセレクションなのだ。
「好きなことを続けるのは幸せでもあり苦しくもある。店に来てここで聴いた音楽を、若い世代のひとたちがバトンタッチのように引き継いでくれたら」と大場さん。そしてゆみさんがこう付け加えた。
「上の子供が小学生になり、何かひとつ好きなことを見つけられたら良いなぁと感じることが増えました。こんな私たちの背中でも何か感じてくれたら嬉しいなと思います」。
“コーヒー音楽”という視点からジャズに出会い、おふたりの通ってきた世界が、今ここに全部ある。