featuring Kobe Jazz People
Osamu Yoshida / BATTLE JAZZ BIG BAND Leader, Saxophonist, Composer, Arranger

そして、ビッグバンドは残った

ジャズのアドリブとオーケストレーションの魅力を兼ね揃えたビッグバンドというスタイル。今も多くのファンを魅了しています。人気のバトルジャズ・ビッグバンドのリーダー・吉田 治さんに、ご自身の音楽との出会いからバトルジャズ結成、そしてこれからのビッグバンドについて語っていただきました。

person

吉田治さん[サックス奏者・コンポーザー&アレンジャー]

福岡県出身。早稲田大学卒。早稲田大学ハイ・ソサエティ・オーケストラのアルト・サックス奏者として活動。1984年のYAMANO BIG BAND JAZZ CONTESTにおいて最優秀賞並びに最優秀ソリスト賞受賞。卒業後ニューハード、ゲイスターズを経て1992年からフリーに。1996年、穐吉敏子スペシャル・オーケストラのリード・アルト・サックス奏者として参加。同年より2年間、渡辺貞夫ビッグバンドのリード・アルト・サックス奏者として活動。現在、自己が率いるバトルジャズ・ビッグバンドのリーダーとして活躍中。また各方面へ提供したオリジナル・アレンジは多数。コンポーザー/アレンジャーとしても高く評価されている。

interview

サックスとの出会い 学生バンドからプロへ

高校時代、当時聴いていたフュージョンの影響もあって、吹奏楽部に入部。初めてサックスを手にしました。吹奏楽の強豪校だったので、毎日朝から晩まで練習ばかり。僕の担当はバリトン・サックスでしたが、学校の楽器は使いやすいとは言いがたく、ピッチを合わせるのに一苦労。そのおかげで、「なんとしてでも人の音に合わせる」習慣が身についたことは今でも役にたっています。入部約半年後、現在も続いている第1回の「全日本アンサンブルコンテスト」にサックスアンサンブルで出場。なんと全国大会へ行き、優勝までしてしまいました。
その後、憧れの早稲田大学ハイ・ソサエティ・オーケストラに入ってからの4年間は、練習はもちろん、仲間とともに当時の新しいビッグバンドの演奏や楽曲を研究。毎日が本当に楽しかった。
両親からは、楽器に関して「やるのはいいが、間違っても音楽でなんとかしようなどとは思わないように」と、いわれ続けていましたから、卒業後は一般企業に就職しました。
しかし入社365日目に辞表を提出。プロとしての第一歩を踏み出します。この頃はまだ、プロのビッグバンドがテレビ番組などで活躍していた華やかな時代。原信夫とシャープス&フラッツのトラ(代役)を経て、宮間利之とニューハードに入団するという、恵まれたスタートを切ることができました。
プロになりたての頃は、本番中に曲名を告げられ、分厚い譜面の中を探しているうちに一曲が終わっちゃった、なんてことも(笑)。ニューハードには5年間在籍し、その後リードアルトとして岡本章生&ゲイスターズに移籍。このあたりから音楽業界は急速にデジタル化し、給料制のビッグバンドは次々と姿を消していきます。

バトルジャズ・ビッグバンド誕生!

あらゆるジャンルの音楽を演奏していたこの頃は、多くの学びがあった反面、学生時代に夢中になったこと——斬新なアレンジ、楽曲、新しいジャズの動向——の延長線上にはなく、僕自身「ビッグバンドは終わっていく存在」という認識がありました。
92年以降フリーとなり、様々な音楽の仕事に関わりつつ演奏活動を続けるなか、2008年、レコード会社に勤務する大学の後輩、プロデューサーの生明(あざみ)恒一郎君から連絡を受けました。彼は2006年から、バディ・リッチ、穐吉敏子=ルー・タバキン、ギル・エバンス、カウント・ベイシーらが演奏する速い曲ばかりを集めた「バトルジャズ~ビッグバンド・アルティメット高速チューン」というビッグバンドのオムニバスアルバムをすでに2枚制作し、成功を収めていました。「今回は同様のコンセプトでオリジナル・ビッグバンドを結成し、アルバムを作るのでバンドリーダーになってほしい」と。降って沸いたような話に驚きました。
そしてその年の夏に3rdとして発売された「バトルジャズ・ビッグバンド conducted by Osamu Yoshida」は好セールスを記録。この出会いによって、僕は再びビッグバンドと向き合うことになります。
現在、バトルジャズ・ビッグバンドとして3枚のアルバムをリリース。春夏秋冬のライブを行っていますが、難曲をカバーしなければならないにもかかわらず、事前にリハーサルができるのは、毎回1回程度。それは決めごとの確認や、表現などの音楽的な曲作りのための時間なので、それまでに各自が練習し、技術的な問題をクリアしておくことは大前提。本番以外でペイされることはもちろんありません。それでもメンバーは、このバンドの面白さをわかっているし、またいい演奏を重ねていくことが自分の糧になると理解してくれるので、どうにか乗り切っています。
最近のバトルジャズ・ビッグバンドは、オリジナルの楽曲・編曲を演奏する機会を増やし、徐々にバンドのカラーも変化してきています。それでもシンプルにスカッと楽しめる名曲の再現や、学生やアマチュアプレイヤーの「自分たちのやっている曲をプロの演奏で聴きたい」という期待にも応えていきたい。「やっぱりプロは違う!」と唸らせたいから、これもいい刺激になっています。
ワクワクしながら本番で演奏すること。今はこれ以上の楽しみはありません。

16人は黄金比率!? ビッグバンドのこれから

今世紀に入り、質の高い新しいタイプのビッグバンドが世界中に次々と現れてきました。リスナーにとっては好みの選択肢が増え、いい時代になってきたといえるのではないでしょうか。
ジャズという音楽は、スウィングからビバップ、フリーというように歴史の積み重ねできている音楽。それら全てを分かっていないと次の面白いことができないから、時代を追うごとに、より複雑に、難しくなっていく傾向にあります。
また、コンピュータでは代わることのできない「人に聴かせる明確な理由」を持つバンドだけが、これから生き残っていくのだと思います。
何十年も前に商業的な理由から偶然生まれた「16-17人で演奏する」というビッグバンドの演奏形態が、今も変わらずに続いているのは不思議なこと。その理由は僕にもわからないけど、ひょっとしたらなにか「黄金比率」のようなものなのかもしれませんね。大体4声が基本のビッグバンドのハーモニーは、6人もいれば演奏は可能。でもそれでは決してあのゴージャズなサウンドは生まれない。大の大人が16人も集まって、自分の人生を掛け、想いを込めて一斉に生の音を出す。そんな一見「非効率」と思えるようなビッグバンドの迫力と魅力が、ずっと愛され、続いてきたのかもしれません。また、「たとえ主役でなくても自分の立ち位置を決め、その役割を全うする」ことを潔しとする日本人の美意識に、特に合致してきたこともあるでしょう。
やっぱりビッグバンドはなくならない。そんな気がするなあ。

バトルジャズ・ビッグバンド公式HP 『BATTLEJAZZ.com
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取材協力:BIGBAND!編集部アタカル・プランニング