今年で42回目を迎えた山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト。一度でもそこに足を運んだことのある方なら、「知られざる国府弘子」の魅力に驚かされるのではないでしょうか。
ウィットに富んだトーク、会場とのユーモアあふれる絶妙なやりとりは、司会という枠に収まりきらない、まさに言葉のジャズライブともいうべきシーンの連続です。そんな国府さんにとっての山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテストについて、語っていただきました。
国立音楽大学ピアノ科卒業後、ジャズ修行のため単身渡米。ジャズ界の重鎮バリー・ハリス氏に師事。帰国後1987年ビクターJVCレーベルと契約、その後1年に約1枚のペースで自己のアルバムを日米で発表。クラシックからジャズ、ラテンからロックまで幅広い音楽性を取り入れた独自の国府ワールドを確立。
またテレビ・ラジオのパーソナリティ、音楽雑誌の連載コラム執筆など、その活動は多岐にわたる。山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテストの名司会者として学生に絶大な人気を誇る。
私が山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテストの司会を務めさせていただいてから、はや19年がたちます。
当初の私は、ちょうど『ピュア・ハート』というアルバムで日米規模のプロモーションをしていた頃でした。「毎年CDをリリースしているピアニスト」として、とにかく周囲に認めて欲しくて気負っていた時期です。そんな自分が司会をする、ってどうなんだろうと、お話をいただいたときは正直迷いました。若気の至り、というやつですね(笑)。
ところがいざお引き受けしてみると、これはもう司会というより楽器を使わないアドリブプレイのようなもの。なにが起こるのか分からない。ステージの上も会場も、常に熱気に包まれ、学生は緊張したり興奮したりの連続です。
最初の頃は、ちょっと年上のお姉さんとして、時には励まし、時には慰めていましたが、彼らに接するうちに「いたわるだけでは何かが欠けている」と感じていました。もっとジャズ的な要素、つまり毒とかユーモアが必要なんじゃないかと。
それからは意識的に、おかまいなしに彼らにつっこみを入れるようにしました。不快にならないぎりぎりのところで、よい思い出となる会話を残したい。「演奏前なのに話しかけないでよ」なんて思っている子がいるとしたら、「そんなこと言っているようじゃ、ジャズなんかとてもできないゾ!」という気持ちも込めました。弟や妹みたいな彼らへの親しみや愛情を感じるからこそ、そう思うのでしょう。
FM局や音楽雑誌の編集部、レコード会社等へ行くと「学生時代、山野へ出て国府さんにイジられました」なんておっしゃる方によくお会いするんですよ(笑)。
今でこそ守屋純子さんや本田雅人さんなど、同輩の審査員が増えましたが、当初は年上のベテランの先生方ばかり。なかでも前田憲男先生は丸二日間というもの、険しいお顔をステージへ向けていられます。私のことはきっと、「このお調子者めが!」と思っているに違いない、と、帰りがけに楽屋でご挨拶するのが精一杯でした。
それから10年近くたったある時、前田先生とピアノデュオのコンサートでご一緒することになりました。すると先生は「ホントに彼女はおもしろい!山野の司会をみれば、この人のジャズ能力がいかに優れているのかがよく分かる!最高だよ」といって私を絶賛し、スタッフに紹介してくださったのです。驚きました。まさかそんなふうに見ていてくださったとは。嬉しかったですね。
今年から審査員にエリック・ミヤシロさんが加わり、初日の最後はご自身のEMバンドでゲスト演奏されました。私はすっかりリラックスし、一番前の客席から声援を送っていました。すると、なんとエリックさんが途中で私をステージに招き入れたのです。
普段は演奏以外の仕事をしていると、すぐにピアノを弾くモードに切り替えられないのですが、この日は自分でも驚くくらい、プレイヤーモードにすんなりチェンジ。ハッピーなセッションをさせてもらいました。
その時初めて「ああ、私は一日、ずっとここで音楽をやっていたんだ!」という感慨が込み上げてきました。
19年間の、山野での時間とはそういうことだったのかと。
私がコンテストに関わるようになってから、もっとも大きく変化したこととは、音楽の質の向上でしょう。
初期の頃はスウィング系の曲が主流だったのですが、いまやクラシックとジャズを融合した、組曲ともいうべき壮大なスケールの作品も演奏されるようになりました。コンテストというよりコンサートの雰囲気さえ漂い、そのレベルアップには目を見張るものがあります。
また、学生さんたち、細身できれいな「イケメン」が激増しましたね! 昔はもっと汗臭い感じの、おじさんみたいな子が大勢いたのに (笑)。
でもよく言われるように「最近の子はおとなしくなった」なんてことはまったくないですね。だってあれだけの目標をもって挑むのですから。9位だって10位だって狂喜乱舞してステージに上がり、それはもう大騒ぎです。昨年の最優秀ソリスト賞を受賞した学生は、その2年前、彼のお兄さんも別な大学から出場して同賞を受賞していました。兄弟W受賞です。発表されると、お兄さんが客席から現れ、二人で静かに抱き合って泣いていた。あの場面もとても印象的でした。
汗と涙と笑顔をもって、仲間や家族と感動を分かち合う。このシーンだけはこれからもきっと変わらないことでしょう。
私もその一員として、若い彼らとともに学び、出会い、音楽する楽しさを共有していけるなら、こんな嬉しいことはありません。
「第42回 山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト」の
コンサートレポートはこちらからご覧ください
[ http://kobejazz.jp/concert_report/vol82.html ]
国府弘子によるブログやTwitterも好評。
国府弘子HP[ http://kokubuhiroko.net/ ]