ISHIKAWA YASUNORI / High School Music Teacher
ジャズの楽しさを子どもたちに。
社会人ジャズバンドやプロミュージシャンと一緒に、最近ジャズコンサートでよく見かけるのが中高生のジャズバンド部の生徒たち。数ある学校のなかでも、一際華のある演奏で観客を楽しませてくれるのが甲南中学高等学校のジャズバンド部、甲南ブラスアンサンブルの皆さんです。毎年数多くの中高生ジャズバンド部が参加するジャパンステューデントジャズフェスティバルでも、昨年の第23回には最高賞といわれる神戸市長賞を受賞。「Be Happy Together」をモットーに活動を続ける甲南ブラスアンサンブルを統括するのは顧問の石川保則先生。常に高いモチベーションを保ち続ける甲南高等学校の魅力についてうかがいました。
person
甲南高等学校 音楽教諭 石川保則さん
兵庫県芦屋市にある甲南中学高等学校で音楽の授業で教鞭を振るうかたわら、ジャズバンド部甲南ブラスアンサンブルの創部から現在までの指導に当たる。
JAJE交歓会(親睦演奏会)
2008年3月23日(日)13:00~ 甲南高等学校講堂 入場無料
出演:甲南高等学校ほか
interview
「最初はリコーダーから始まったんですよ」。甲南ブラスアンサンブル創部のきっかけ。
甲南中学高等学校にジャズバンド部が誕生したのは、1982年のこと。現在では多いときには60人もの部員数を誇る甲南ブラスアンサンブルですが、最初は一人の生徒のある一言から始まったのだとか。「Be Happy Together」をモットーに、みんなで楽しく演奏し、みんなに楽しく聴いて欲しいという甲南ブラスアンサンブルのコンセプトは創部の頃から現在までずっと続いています。
「昔は吹奏楽部もなかった学校なんですよ。でもある日、『リコーダーのハーモニーってこんなにきれいなんだ!』って生徒の一人が言い出したんです。それで、じゃあ一緒にリコーダーのアンサンブルをやってみようか、ということになって昼休みや放課後を利用して練習を始めたのがそもそものきっかけなんです。その後、生徒がフルートを貰ってきて、私もクラリネットをやっていたので、フルート2本とクラリネットのアンサンブルを始めました。すると、やりたいという生徒が増えて5人ぐらいになったんですよ。そうなると昼休みや放課後の練習だけでは足りないと、日曜日に我が家でみんなで練習を始めて。前の家では隣の家の方に迷惑をかけましたけど(笑)、おかげでレベルが上がって文化祭で発表も始めたんですよ。それが宣伝効果になって、また生徒が10人20人と増えて。
そんな折、アメリカに留学した生徒がカウント・ベイシーの楽譜を送ってきてくれたんです。それを試しにみんなで演奏したら、ものすごく楽しくて。それでジャズバンドをやろうってことになったんです。最初は一人の生徒から始まって、現在では大きな大会や定期演奏、学外での演奏などもできるようになりました。今思い返しても、生徒たち自身がヤル気を持って部活に取り組んでいるからこそ現在があるんだと思います」
「あくまでも『楽しく』演奏がしたい」。普段の練習と定期演奏会、大会について。
「昨年、ステューデントジャズフェスティバルで神戸市長賞をいただいて、生徒たちも大きな自信につながったと思います。賞をもらうことももちろん目標になるのですが、やっぱり一番大切にしたいのは、勝ちにいくのではなくて皆が楽しい、共に喜びを分かち合うということ。昨年大きな賞をいただけたのは、それができたからだと思います。
そこそこ上手くなってくると、やっぱり大きな大会に出ると勝たなあかんという気分になってくるのはしょうがないですけどね。なので、どうしてもステューデントジャズはメンバーも上手い子を中心になります。でも、出た子も出なかった子も共に喜べるような部にしたいんですよね。常に甲南ブラスアンサンブルらしい演奏ができることを目指してます」
大会に力を入れつつも、定期演奏会などでは全員が演奏できるように工夫をしているそう。あくまでも生徒の自主性を大切にしたいので、楽曲のセレクトなども生徒たち自身で行うのだとか。普段のパート練習でも上級生が下級生を教えるというスタイルはずっと変わりません。中学1年生の入部時にはまったくジャズを知らない生徒たちも、3年生にもなると演奏だけでなく、ジャズについて語りだすシーンも多々あるというから生徒の成長には目を見張ると石川先生は言います。
「1年生にジャズを教えるのは大変ですが、子どもたちは本当に柔軟で吸収も早い。最初はもちろん楽譜なんて読めませんから、それを上級生がいろいろ教えるんですね。で、吹けるようになって、初めて楽譜を覚えられるようになるんですよ。そうなれたらもう一人前で、あとは上達も早いです。ありがたいことに、本当にみんなヤル気を持ってくれてるので、こっちもそれに応えてあげなくてはと思いますね。前にブルーノートに聴きに行こうと、自由参加で募ったら結局50人ぐらいになって(笑)。やらしてるわけではなくて、生徒から『やりたい!』と言ってくれるのが嬉しいです」
「若い子を育てる環境をつくりたい」。生徒との思い出とこれから。
これまでにもイギリスやハワイの学校とも音楽交流をし、単なる部活動としてではなく、ワールドワイドに音楽を楽しんでいる甲南ブラスアンサンブルの皆さん。「音楽は共通語、言葉が分からなくても音楽があれば分かり合える」と肌で音楽の魅力を感じた経験を活かし、海外留学を進路に選ぶ人も多いそう。卒業生の多くは、プロミュージシャンや社会人バンドなど現在も音楽活動を続ける人が多いのも甲南高等学校ジャズバンド部ならでは。
「音楽は生涯楽しめるものですから、その楽しさを生徒たちには感じてもらいたい。そのためにも若い子たちを育てる環境をもっと整えていきたいなと思ってます。生演奏の素晴らしさというのは体験しないと分からないこと。素晴らしい音楽を聴いて、それで自分たちでやってみようと思ったら、自然と努力をし始めます。そんな学生たちに安く、いい音楽を聴かせてあげることができる機会をつくってあげたいですね。
部活動の顧問というのは、もちろんしんどい面も多々ありますが、やっぱりその分大きなやりがいを感じます。今でも頻繁に連絡をくれる卒業生や、活躍している卒業生の姿を見るのも大きな楽しみ。毎年、生徒は変わっていくのが部活の難しいところですが、その年その年の思い出があって、それは私の財産だなあと思います」
石川先生と2008年甲南ブラスアンサンブル部長の
田中友貴くん。
特集「神戸ジャズ文化を彩る人々の魅力」 KOBE Jazz People