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メル・ルイス

ビッグバンドのレコードを持っていれば、リーダーなり、サイドマンでこの人が叩いてるものが一枚もない、ということはあり得ないのではないか、と思います。50年代のケントンから、最晩年まで、多くのビッグバンドに残したその足跡はとても素晴らしいものなのに、復刻されているものが非常に少ないのが非常に残念なのです。なんと言ってもこの人はサドメルでの仕事が圧倒的に語られるのですが、今回はサドと袂を分かってからのメルの作品に焦点をあててみましょう。

サド.ジョーンズがヨーロッパに移住することで、サド.ジョーンズ= メル.ルイス.ジャズ.オーケストラはメル.ルイス.ジャズ.オーケ ストラと名前を改めました。一枚目のNaturallyは全編サド. ジョーンズの譜面を収録していますが、以後、サドの譜面を録音するこ とは封印されます。代わって、ボブ.ブルックマイヤー、ボブ.ミン ツァーなどのアレンジャーの作品を取り上げるようになり、最晩年の頃 には、マイク.アベネやジム.マクニーリーなどの譜面も貪欲にレパー トリーに入りました。つまり、メル.ルイスのバンドはモダンでゴキゲ ンなアレンジャーのショウケースとしての役割を果たしたのです。この アプローチは実はスタン.ケントンに似ていると思えます。ケントンも 自分がリーダーでしたが、全部自分のアレンジということではなく、 様々なアレンジャーの作品を呈示したわけですから。50年代にケント ンで頭角を表したメルがそのアプローチを踏襲するのは不思議ではない と私は推測します。メル.ルイス名義のビッグバンドのアルバムは残念 なことにその大半が廃盤で入手が難しいのです。が、DVDの普及 により映像の再発で比較的入手しやすいのがあるのでまずはそれを紹介 します。

これは80年代前半のスミソニアンセンターでの演奏で、ハンコックの 曲をミンツァーがアレンジしたものが大半というモダンビッグバンドの 魅力満載な構成です。メルがミンツァーのアレンジをやってたころのア ルバムは絶望的に入手が難しいので、これが映像としてこうして出るの は本当に有り難い。しかもメンバーも強力。多分今40代半ばくらいの 方で学生時代にビッグバンドをやってた人は、この辺りの音は知ってる しやったこともある人が大勢居るように思います。 少なくともこの頃までは、ミュージシャンの叩き上げコースとして、ケ ントンやファーガソンやハーマンを経由してNYCでメルのところ に来るっていうようなものが明確にあったわけです。この時のメンバー のトム.ハレルやジョー.ロヴァーノや、デニス.アーウィンのような 今や大御所な人も含めてメンバーほぼ全員がそういう流れでバンドに参 加していた筈です。その意味ではケニー.ギャレットはちょっと例外的 なのかもしれないけれど、彼はここからウディ.ショウを経て OTBで大きく注目されていくわけで、こうした才能を数多く発掘したメ ルの慧眼っていうのももっと評価されていいでしょう。とにかく、現時 点で最も入手しやすいメルの作品ということでこれを挙げたいと思いま す。手に入れるなら今のうちです。

そして、これは現在入手が非常に困難なのですが、最晩年に4枚(一枚 はセクステット)集中的に出されたアルバムは是非紹介しておきたい作 品です。さっき書いた通り、メルはサドの作品を録音することを永らく 封印していましたが、最後の最後にサドの作品集として2枚、多くのア レンジャーの作品を集めたものを1枚出しました。この録音の2年後に メルは癌で亡くなりますが、恐らくは死期を悟っていたメルが、自分の 音楽生活の集大成として、自分のバンドの全貌を残したかったのではな いかと思えてなりません。メルがサドの譜面を録音しなかったという封 印を解いたのはそういうことではなかったかと。サドが亡くなった時 (86年)にも特にメモリアルなアルバムはやらなかったですし。メ ル.ルイスはサド.ジョーンズが亡くなった時に、渡欧してサドメルバ ンドが解散となった時のことも併せて「アイツはいつも突然いなくなる んだよなぁ」みたいなコメントを残したのですが、そこにはサドに対す るッ大きなリスペクトもあるし、「オレも多分もうそろそろいなくなる けど、音楽は残すぜ」って考えたのかもしれません。

ヴァンガードで五日間連続で演奏した中で、3枚分録れてしまう、とい うのは毎週月曜日に何十年もやってたら朝飯前なのかもしれませんが、 このクォリティが日常だ、というのはやはり半端でなく凄いことです。 特にサド.ジョーンズ作品集はおなじみのあの譜面群をやっている訳 で、ともすると聴く側は「あぁ、あれか」な感じになりがちですが、こ のアルバム群を聴いていると絶対にそうならないんです。多分メルもメ ンバーも「これがメル.ルイス.ジャズ.オーケストラとしての最後の 録音になる」ということを判っていたと思うし、その気持ちというか気 迫みたいなものが演奏に反映されてる感じがします。メルのタイコ、 ディック.オーツのリードアルト、アール.ガードナーのリードラッ パ、ジョン.モスカのリードトロンボーン。このポジションのメンバー が十数年変わらなかった、っていうのは恐らく過去に例がないのではな いかと。もちろんエリントンのホッヂズとキャット.アンダーソンとか ベイシーとマーシャル.ロイヤルなんてのもあるけど、セクションリー ドが十年以上不動っていうのは奇跡的なことだと思います。そしてその 不動のチームがあったからこそのこのサウンドなのだと思います。この シリーズは廃盤になって長いですが、内容は素晴らしいので、中古でも 見つけたら即刻手に入れて欲しいと思います。メル.ルイスはウエスト コーストであろうが、イーストコーストだろうがそんなの関係なく参加 したバンドを片っ端からドライブさせました。この人がタイコにいると 時代とかスタイルなんていうどーでもいいイメージは取っ払われます。 ここではメルの80年代の仕事を中心に取り上げましたが、これをきっ かけにメルが叩いているビッグバンドを色々聴いてこの人の凄さを知っ てくれる人が大勢増えたら嬉しいなぁ、と思います。







Funupsmanship

収録曲
Jazz Masters Series: Mel Lewis & Jazz Orchestra

1.One finger snap(Hancock/Mintzer)

2.Dolphin Dance(Hancock/Mintzer)

3.Make Me Smile(Bob Brookmeyer)

3.Eye of the Hurricane(Hancock/Mintzer)

参加アーティスト

Mel Lewis(ds)

Earl Gardner, Tom Harrell, Joe Mosello, John Marshall(tp)

John Mosca,Ed Neumeister,Earl mcIntyre, Doug Purviance(tb)

Stephany Fauber(frh)

Dick Oats, Kenny Garrett, Joe Lovano, Gary Bribeck, Gary Smlyan(sax)

Jim McNeely(p), Dennis Irwin(b)

収録曲
Naturally:

1. Cherry Juice

2. Two as One

3. My Centennial

4. 61st and Rich'id

5. Easy Living

6. Que Pasa Bossa

参加アーティスト

Mel Lewis(ds)

Earl gardner, Ron Tooley, Larry Moses, John Marshall(tp)

John Mosca, Lee Robertson, Lollie Bienenfeld, Jim Daniels(tb)

Dick Oats, Steve Coleman, Bob Rockwell, Rich Perry, Gary Brown(saxes)

Jim McNeely(p), Bob Bowman(b)

収録曲
Soft Lights and Hot Music

1. Soft Lights and Sweet Music

2. Our Love Is Here to Stay

3. Compensation

4. Little man, You've Had a Busy day

5. Lester Left Town

6. How Long has This Been Going On

7. It Could Happan to You

8. The Touch of Your Lips

9. Off The Cuff

参加アーティスト

Mel Lewis(ds)

Earl Gardner, Joe Mosello, Glenn Drewes, Jim Powell(tp)

John Mosca, EdNeumeister, Doug Purviance, Earl McIntyre(tb)

Dick Oats, Ted Nash, Ralph Lalama, Joe Lovano, Gary Smlyan(saxes)

Kenny Werner(p), Dennis Irwin

収録曲
The Difinitive Thad Jones Vol.1&2

vol.1

1. Low Down

2. Quietude

3. Three In One

4. Walkin' About

5. Little Pixi

 

vol.2

1. Second Race

2. Tip Toe

3. Don't Git Sassy

4. Rhoda map

5. Cherry Juice

参加アーティスト
same as "Soft Lights and Hot Music"
 
著者Profile
 
 
 
辰巳哲也( たつみ てつや)
 
DAVE鈴木
 
   
神戸市生まれ。10歳から本格的に楽器を始め、大学入学後ジャズに傾倒。卒業後しばらく会社勤めをしてプロに転向。神戸在住時にAtomic Jazz Orchestra, 西山満氏のHeavy Stuffなどにも参加。98年Global Jazz OrchestraでMonterey jazz Festivalに出演。98年、秋吉台国際芸術村でのアーチスト.イン.レジデンスにAssociate Artistで参加、Dr. Fred Tillis氏の薫陶を受ける。2001,2003年にPersonnage Recordingよりアルバム発表。打込みを含むほとんど全てのトラック制作を行い、クラブジャズのフィールドでロンドンや北欧で反響を呼ぶ。2004年にジャズライフ誌にて「トランペット超初級者コース」連載。50年代ウエストコーストジャズを回顧するオクテット、Bay Area Jazz Ensembleを主宰し、それを母体としたビッグバンドも展開している。一方で2005.6年とThe Five Corners Quintetのトランペット、Jukka Eskolaとジョイントし、2008年にはTom Harrellと東京でセッションを行いラッパ関係者の間で大きな話題となった。Eddie HendersonやCarl Saundersを初め、多くの海外のミュージシャンとも親交が深い。Lincoln Center Jazz OrchestraのEducational Programでの通訳サポートなど、演奏のみならずジャズ教育のフィールドにも関与。『ジャズ』という記号のある音楽であればなんでもやるオールラウンダー。IAJE会員。
 
http://www.myspace.com/
tetsujazz

http://members3.jcom.
home.ne.jp/
dadriemusic/
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