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Rob McConnell and The Boss Brass
70年代中期っていうのは実はビッグバンド的にはなかなか面白い時代 だったのでは?と思えてなりません。エリントンの没後、色々なビッグ バンドが出たり消えたりしてましたもんね。フランク.フォスターのラ ウド.マイノリティとか、クラーク.テリーのBig “BAD” bandとかね。 そうした中で最も頭角が出ていたの が秋吉敏子さんとロブ.マッコネルではなかったかと思います。今回は カナダの強力なビッグバンド、ロブ.マッコーネルのボスブラスを取り 上げましょう。
ALL IN GOOD TIME
ロブ.マッコネルのサウンドは「速い、軽い、カッコいい」みたいな三 拍子が揃ったサウンドだと思います。80年代の学生バンドでは結構流 行ったのではないかという記憶がありますが、実際にやってみるとブラ スが異様にキツかったりして、尚更にこのバンドの凄さというのを実感 したものです。ラッパ5本でリード2枚でやるんだもんねぇ。そりゃ反 則じゃんって昔は思ったものです。しかもフレンチホルン2本に曲に よってはパーカッションやヴァイブなんかも入ったりと、アメリカでは ジャズには不遇な時代だったといわれるこの時代に、カナダからゴー ジャスな編成でやりたい放題やるバンドが出てきたわけだから、当時の ビッグバンド界では結構な話題になったのではないかと思われます。彼 のアルバムは70年代中期から最近に至るまで沢山あるのですが、今回 は当時ビッグバンド部門でグラミーを穫ったAll In Good Timeを 取り上げましょう。

オープニングはガーシュインのI Got Rhythm。掴みから仕掛け満 載でワクワクします。実は難しいのですが、さらっとプレイしているの で、譜面を見て「え~」ってなる見本みたいな曲です。タイコは90年 代以降ジム.ホールのサポートを長く務めているテリー.クラーク。こ の頃から既に猛烈に巧いなぁ。

M2はジョニー.マンデルのClose Enough for Love。フリューゲ ルホーンのグィド.バッソをフィーチャーします。このバンドでバラー ドでフリューゲルと言ったらこの人の独壇場です。この人はSammy NesticoのNight Flightでもいいソロ吹いていますが、実はあの アルバムにはこのバンドのメンバーが多数参加しているんですよ。

M3はオリジナルのPhil not Bill。軽快なジャズワルツです。曲 中でのリズムがブレイクしたソリは素晴らしいです。フレンチホルンが 2本あることもあるのですが、実にカラフルです。ギターはポール.デ ズモンドの相方を長く務めたエド.ビッカート。トロンボーンソロの後 ろでのコンピングとか実に素晴らしい。

M4はホレス.シルバーの名曲Ecaroh。このトラックはこのバンド のカラーを象徴していると思います。ホレス.シルヴァーという、我々 のイメージでは「ファンキー」というイメージが強いこの作家の作品を こういうスマートなカラーにしちゃうんですから。蛇足ですか、このバ ンドのplays the jazz classicsというアルバムでのPeace/Blue Silverという曲では、ブルー.ミッチェルのソロ3コーラスを完全に ハーモナイズさせるというもの凄いことをしていますので、興味のある 方はそちらも是非。

M5のCan't stop my legはブルースです。泥臭くなりません。こ のバンドはパーカッション類としてヴァイブやマリンバも使うのです が、ここでもいい効果を出しています。それにしてもブラスの譜面は大 変そうです。リードをスプリットしているという認識がなかったらそれ はそれは超人的に聞こえるのではないでしょうか。

M6はバラードのDarn That Dream。テーマ部分はトロンボーンの ロブとギターのエドのデュオです。JJジョンソンとジョー.パス のアルバムのイメージがあるのかなぁ。デュオが終わるとボッサで トゥッティなのですが、バラードで有名な曲でこういうビートを使うこ と、エレピの使い方なかを聴いていると、彼のアレンジには西海岸的な ものの影響が強いのかな、という気もします。ボブ.フローレンスみた いに聞こえる部分が結構あります。ロブはトロント出身ですが、今はウ エストコーストの大学で教鞭を取っていますね。因縁なのかなぁ。

M7のSchlep it up to Joeはアップテンポのナンバー。テーマ後 のサックスソリが終わるとテンポが半分になってピアノソロなのです が、こういうテンポチェンジも彼の譜面では結構あることのような気が します。大学に入って右も左も分からない頃にこの曲をやって大変だっ たことを思い出しました。今の耳で聴いてもやっぱり大変そうです (笑)。

M8はバラード。管だけです。70年代にジャズコーラスのグループ でThe Singers Unlimitedっていうユニットがあって、多重録音 でもの凄く分厚いサウンドを作るユニットだったのですが、それを思い 出しました。そういえば、ロブは後年The Hi-Lo'sとSingers Unlimited(この二つのコーラスグループはどちらもGene Puerlingがリーダーでした)とジョイントしたアルバム(どっちも名 盤!)を作るのですが、アンサンブルの色彩感なんかのルーツはもしか したらそこにあるのかもしれないなぁ、と感じます。

それにしても、最近このバンドの譜面をやる学生さんとかアマチュアの ビッグバンドっていうのがあんまりないようで、ちょっと寂しいなぁ、 と思います。ミンツァーやマントゥースのようなモダンさとはちょっと 違う、ゴードン.グッドウィンのような底抜けなエンターテイメントと も違う、非常に色彩感の豊かで骨のあるアレンジが多いので、この人は 忘れて欲しくないなぁ、と強く思うのであります。90年代以降はボブ がLAにいて、録音のためにメンバーが集まるような感じで隔年く らいでコンスタントにアルバムを出していたという記憶がありますが、 最近はどうなのかなぁ。ちなみにこのアルバムはsea breazeから 出ているので、廃盤にはならずにしぶとく出ていると思います。むしろ 90年代以降のconcordの作品群の方が見つけにくいかもしれま せん。

収録曲
1. I Got Rhythm [ George Gershwin ]
2. Close Enough For Love [ Johnny Mandel ]
3. Phil Not Bill [ Rob McConnell ]
4. Ecaroh [ Harace Silver ]
5. Can't Stop My Leg [ Rob McConnell ]
6. Dam That Dream [ Jimmy Van Heusen ]
7. Schlep It Up To Joe [ Rob McConnell ]
8. Songbird [ Loonis McGloohan ]
参加アーティスト
Rob McConnell and The Boss Brass
Rob McConnell (tb, leader)
Arnie Chycosky, Erich Traugott, Guido Basso, Dave Woods, John MacLeod (tp, flh)
Ian McDougal, Bob Livingston, Dave McMurdo, Ron Hughes (tb)
George Stimpson, Jaames MacDonald(frh)
Moe Koffman, Jerry Toth, Eugine Amaro, Rick Wilkins, Bob Leonard (woodwinds)
Jimmy Dale(p), Ed Bickert(g), Steve Wallace(b), Terry Clarke(ds), Brian Leonard(perc)
著者Profile
辰巳哲也( たつみ てつや)
DAVE鈴木
神戸市生まれ。10歳から本格的に楽器を始め、大学入学後ジャズに傾倒。卒業後しばらく会社勤めをしてプロに転向。神戸在住時にAtomic Jazz Orchestra, 西山満氏のHeavy Stuffなどにも参加。98年Global Jazz OrchestraでMonterey jazz Festivalに出演。98年、秋吉台国際芸術村でのアーチスト.イン.レジデンスにAssociate Artistで参加、Dr. Fred Tillis氏の薫陶を受ける。2001,2003年にPersonnage Recordingよりアルバム発表。打込みを含むほとんど全てのトラック制作を行い、クラブジャズのフィールドでロンドンや北欧で反響を呼ぶ。2004年にジャズライフ誌にて「トランペット超初級者コース」連載。50年代ウエストコーストジャズを回顧するオクテット、Bay Area Jazz Ensembleを主宰し、それを母体としたビッグバンドも展開している。一方で2005.6年とThe Five Corners Quintetのトランペット、Jukka Eskolaとジョイントし、2008年にはTom Harrellと東京でセッションを行いラッパ関係者の間で大きな話題となった。Eddie HendersonやCarl Saundersを初め、多くの海外のミュージシャンとも親交が深い。Lincoln Center Jazz OrchestraのEducational Programでの通訳サポートなど、演奏のみならずジャズ教育のフィールドにも関与。『ジャズ』という記号のある音楽であればなんでもやるオールラウンダー。IAJE会員。
http://www.myspace.com/
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