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テネシー州のNPOビッグバンド、「KNOXVILLE JAZZ ORCHESTRA」
今回は、テネシー州に拠点を置いているKnoxville Jazz Orchestraをご紹介させていただきます。このバンドはNPOとして活動しており、組織やスポンサーなども非常にきっちりしていますし、啓蒙活動も含めて非常に活発な活動をしている珍しいタイプのバンドです。
BLUES MAN FROM MEMPHIS
アメリカの地方都市の名前が音楽のジャンルにつくことはよくあります。デトロイトはジャズとテクノだし、シカゴはブルース、フィラデルフィアはノーザン・ソウル、そしてメンフィスはソウルです。そしてこうした都市は同時に多くのジャズミュージシャンも輩出している。メンフィスからは、ブッカー・リトルやチャールス・ロイドやフィニアス・ニューボーンJr.なんかが出ています。

特にピアノはフィニアスを筆頭に、亡くなったジェイムス・ウィリアムス、マルグリュー・ミラー、そしてこのアルバムでピアノと全ての楽曲を提供しているドナルド・ブラウンなんかがいる(全員メッセンジャーズにもいた人達です)。本作のタイトルはBluesman form Memphisだが、中身はメンフィス出身で在NYのミュージシャンを迎えたKnoxville J.O.のモダンでコアなジャズアルバムです。ドナルド・ブラウン自身が割と知性派な感じのピアニストなので、こういう風合いというのは納得です。

1曲目「Nancy and the Children's Playground」は子供の嬌声のSEからスタートしていますが、こういうのってブラックミュージックっぽいですね。アレンジはピート・マクギネスにもアレンジを書いていたBill Mobley(多分このひともメンフィス繋がりだ)。彼のような90年代のマリア・シュナイダーに通底する和声の感覚は、ドナルド・ブラウンの作風といいマッチングをしています。この曲を含めて3曲はLCJO(Lincoln Center J.O.)のリード、セネカ・ブラックが担当し、ソリストにグレッグ・ターディが加わります。グレッグは90年代に出てきた才能ある若手の一人で、トム・ハレルのアルバムにも参加していた人ですね。

2曲目「Blues for Brother Jerome」はブルース、3曲目「Theme for Malcolm」はソウルな色合いを感じさせる曲で、これらのアレンジはこのビッグバンドのディレクターであり、アレンジャー兼トランペットのVance Thompsponのものです。ここでは若いヴァイブの鬼才、Stefon Harrisがソリストで参加しています。この人は守備範囲の広い、黒人ではボビー・八チャーソン以来のプレイヤーではないかと思います。この2曲でもゴキゲンなソロワークを展開しています。この2曲と7曲目はライブでのトラックですが、ライブでもサウンドが大味になっていないのはリーダーのグリップがきちんと利いている証拠でしょう。

4曲目「Daddy's Girl Cynthia」はバラード。奇を衒わない正攻法なアレンジ。グレッグ・ターディのテナーとドナルド・ブラウンのピアノがフィーチャーされます。アメリカでは90年代にメジャーのレコード会社がこぞって「才能ある若手」のアルバムを出した時期があって、そうした人はなんとなく一発屋みたいな感じでその後の動向が見えなくなってしまうのですが、この人のレベルですらそうだということにアメリカの業界の層の厚さを感じずにはいられません。グレッグ、いいソロです。

5曲目「New York」はアップテンポ。リーダーのヴァンス・トンプソンとアレンジをシェアしているビル・モブレイですが、この人は90年代に非常にモダンなビッグバンドを持っていました(ライブのCDが二枚ある)。そこでもメンフィス派のピアニストを複数迎えてやっていたので、ビル本人のバンドを聴いているような錯覚に陥ります。

6曲目「The Scenic Route to Donny's Heart」はラテンテイストの曲、アレンジはドナルド・ブラウン本人。3人の女性コーラスがアンサンブルパートとして加わり、ギターとフルート(二人とも素晴らしく上手い)のサウンドが全面に出で、そこにステフォンのヴァイブが乗ってくるので、今までとはかなりサウンドスケープが異なる感じです。でもこれもモダンでカッコいいですね。後半部分ではベースとチェロのアルコの掛け合いも出てきます。予算持ってるなぁ、このバンド。

7曲目「The Thing About George Coleman」はライブのトラック。スローのブルージーな曲です。タイトルにはやはりメンフィス出身のテナー吹き、ジョージ・コールマンの名前が織り込まれています。イントロのベースソロはゲストのジョン・クレイトン。フェンダーローズとヴァイブのサウンドのコンビネーションが素敵です。エレクトリックな楽器をネガティブに捉える評論家のセンセーってのが昔は大勢いたように思いますが、そういう聴き方は損だと思います。フルバンでのローズを使った色彩感はそれはそれで独特のものがあって良いものです。

8曲目「Peace for Zim」は荘厳なイントロが付いていますが、本編はラテンテイストな感じというか70年代ジャズ的曲想な感じもします。しかも編成がデカいです。フレンチホルンからチューバまで動員してる。後テーマに帰る前でフリーっぽくなるあたりも70年代的です。

通して聴いてみて、バンドのクオリティが非常に高く、NPOで非常に活発な活動をしているのが良く理解できる内容の濃いCDであると感じました。

最後に、リーダーのヴァンス・トンプソンについてあまり書きませんでしたが、アレンジャーとしても敏腕だと思います。複数のアレンジャーが書いている中で、彼のアレンジが埋もれるということがないのですから。そんなことよりも、彼の組織の運営能力であるとか、こういう分野でNPOとしてきちんとワークさせられているその手腕にも驚きました。日本ではこういうことは難しいだろうと。流石音楽都市、メンフィスという感じです。

レビュー協力:辰巳哲也
収録曲
1. Nancy and the Children's Playground [ Donald Brown / arr. Bill Mobley ]
2. Blues for Brother Jerome [ Donald Brown / arr. Vance Thompson ]
3. Theme for Malcolm [ Donald Brown / arr. Vance Thompson ]
4. Daddy's Girl Cynthia [ Donald Brown / arr. Vance Thompson ]
5. New York [ Donald Brown / arr. Bill Mobley ]
6. The Scenic Route to Donny's Heart [ Donald Brown ]
7. The Thing About George Coleman [ Donald Brown / arr. Vance Thompson ]
8. Peace for Zim [ Donald Brown / arr. Vance Thompson ]
参加アーティスト
[Saxophones] Mark Tucker, David King, Bill Scarlett, Bob Maxon, Tom Johnson
[Trumpets] Sebeca Black, Michael Wyatt, Stewart Cox, Thomas Heflin, Michael Spirko
[Trombones] Tom Lundberg, Don Hough, Jeremy Wilson, Brad McDougall
[Rhythm] Donald Brown (piano), Rusty Holloway (bass), Keith Brown (drums)
著者Profile
DAVE鈴木
1962年生まれ。まっとうな会社員だったが、ビッグバンドの世界にのめり込み楽譜やCDの個人輸入にはまり脱サラ、ミュージックストア・ジェイ・ピー設立。現在に至る。
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ここで、ご紹介したCDは、DAVE鈴木の運営するミュージックストア・ジェイ・ピーのホームページ http://www.musicstore.jp/
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