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大空に舞い上がるようなサウンド~ライアン・ヘインズのビッグバンドの世界
今回は、いわゆるベイシーサウンドとも、またゴードン・グッドウインのような超モダンなサウンドとも違う、独自のサウンドを築いてるライアン・へインズのビッグバンドの世界をご紹介したいと思います。

ライアン・ヘインズは、アリゾナ州・ツーソン出身です。アリゾナ大学で音楽学位を修得後、1989年リードトロンボーニストとしてカリフォルニア州リバーサイド・アメリカ空軍ゴールデン・ウェスト基地のエアフォースバンドに加わり、ビッグバンドだけでなく、ロックバンドやコンサートバンドでも演奏した経験の持ち主です。1994年、オーディションを経て合衆国エアフォースの最高峰のひとつであるロッキーズ・バンドに入団し、プレイヤーとしてだけではなく作曲と編曲も行い、エアフォースバンドに譜面を提供すると同時に、一般の出版社にも楽曲を提供しています。

2001年に自身の初リーダー作となる「To the Sky」を発表しました。アメリカ空軍にいたからかどうかは定かではありませんが、大空に舞い上がるかのような爽快なサウンドは、ビッグバンドの演奏者を中心に瞬く間にファンが増えていきました。

その後、2005年に「New Horizons」、そして2007年初めに「People & Places」と第2作、第3作を矢継ぎ早にリリースし、そのサウンドに磨きをかけています。

このバンドの魅力は、まずなんと言ってもその素晴らしいアレンジでしょう。大空に舞い上がるようなサウンドは他のどのアレンジャーとも一線を画すものがあります。そして、そのアレンジを平然と吹きこなす演奏メンバーがいてこそのアレンジです。

ほとんどの楽譜が出版されているため、たくさんの日本のアマチュア・ビッグバンドが果敢にチャレンジしているようですが、上手く演奏できたという話はあまり聞いたことがありません。それだけ、ライアンのアレンジは難易度が高いのですが、それを難なく演奏できる腕前のプレイヤーがいて、それらのプレイヤーを信頼出来るからこそ、このような素晴らしいアレンジを書くことが出来るのです。

それでは、最新作の「People & Places」を中心に、ライアン・ヘインズの作品をご紹介いたします。
People & Places
Ryan Hainesの2007年初にリリースされたばかりの新譜です。タイトルの『People & Places』の名の通り、彼自身にとって思い出の深いであろう地名や個人名がタイトルにつけられていますが、内容はいつもと同じ、エンターテインメントとサービス精神に溢れた(演奏するにはブラスセクションが大変な)譜面が盛りだくさんです。

「Tierrasanta」のイントロからお約束通りの演奏です。ライアンのアルバムを買われる人はまずはトロンボーンの人ではないかと思うのですが、まずは期待通りと快哉を叫ばれるのではないかと思います。ライアンのソロも名刺代わりにラッパのハイノートと肩が並んでいます。 「Sabina's Theme」は彼の愛娘への曲。最初のうちこそ柔らかいジャズワルツ調ですが、中間から後半にかけて相当アツく展開していきます。「Underground」はファンク調。バリトン・サックスの熱演が光っています。

「Wednesday's Friend」は再び3/4-6/8なビートの曲。彼がコロラドにいた時代に毎週水曜にやっていたビッグバンドへのオマージュです。ライナーによるとこの時、カール・フォンタナとビル・ワトラスと3人で4barsのチェイスをやったのが人生でのの最大の思い出の一つだと書いていますが、その思いをここでは存分に歌っています。

「Riding the Bavarian Sidecar」はアリゾナ大学時代の友人をイメージして書いた曲だそうです。非常に個性的なヤツだったとのことですが、ユーモラスなモチーフが色々なリズムの上で展開して行きます。途中のクラリネット5本でのソリはジャズ的には相当違和感ありますが、きっとその友人というのはそういうキャラクターだったのでしょう。

「Yvonne」はバラード。タイトルのYvonneは彼の奥さんの娘さん(アメリカならではという感じですね)。もちろんここではライアンのトロンボーンのみがフィーチャーされます。

「Blaine Street」は彼が最初に住んだカリフォルニアのアパートメントの通りがタイトル。この曲もどちらかというとファンクなビートで書かれていますが、当時のLAの音楽の匂いが反映されているような気がします。

「Thicker Than Water」は、タイトルを直訳すると「水よりも濃い」、即ち彼の家族に対する思いが詰まった曲あのでしょう。そしてこの曲の編成はセミダブル・フルバンです。リズム隊はひとつですが、管楽器セクションがフルバン2つ分になってます。しかもドラムは休み。で、エンディングにスネアロールで入ってきてそのまま最後の「People and Places」に流れて行きます。この2曲は組曲のようなものと考えていいでしょう。そして最後の「People and Places」はこのアルバムで唯一の4ビートが軸になっている曲で、全曲の流れを引き継いだドラムソロから徹頭徹尾熱く流れて行きます。
レビュー協力:辰巳哲也
収録曲
1. Tierrasanta [ Ryan Hains ]
2. Sabrina's Theme [ Ryan Hains ]
3. Underground [ Ryan Hains ]
4. Wednesday's Friend [ Ryan Hains ]
5. Riding the Bavarian Sidecar [ Ryan Hains ]
6. Yvonne [ Ryan Hains ]
7. Blaine Street [ Ryan Hains ]
8. Thicker Than Water (for 2 Big Bands) [ Ryan Hains ]
9. People and Places [ Ryan Hains ]
Sea Breeze Records SB-2140
New Horizons
最新作の「People & Friends」と基本的には同じコンセプトですので、異色作品を1曲ご紹介します。

4曲目の「Bottom End Shuffle」は、普段バンドの最低音を受け持つバリトン・サックスとバス・トロンボーン(ボトム・エンド)をフィーチャーした、シャッフル・リズムにのったBbのブルース。ライアン・ヘインズはベース・トロンボーンに持ち替えソロもとっています。最近、日本のアマチュア・ビッグバンドで取り上げられる機会も多い、非常にユニークな曲です。

最後の曲「America The Beautiful」は、このアルバム唯一のオリジナルでない曲。日本人には馴染みの無い曲ですが、アメリカ人の魂とも言うべき美しい愛唱歌をどんどん展開し、堂々たる大曲と仕上げています。ウェイン・バージェロンの「You Call This a Living?」で取り上げられているTom Kubisのアレンジと聴き比べると大変面白いでしょう。
収録曲
1. New Horizons [ Ryan Haines ]
2. Swing Open [ Ryan Haines ]
3. Without You [ Ryan Haines ]
4. Bottom End Shuffle [ Ryan Haines ]
5. A Problem With The Sun [ Ryan Haines ]
6. Pan-Fried Doodles [ Ryan Haines ]
7. Goodnight Story [ Ryan Haines ]
8. No Harm, No Foul [ Ryan Haines ]
9. America The Beautiful [ Samuel Ward / arr. Ryan Haines ]
Sea Breeze Records SB-2138
To the Sky
オープニングでタイトル・チューンでもある「To the Sky」は、まるでジェット機が大空へ舞い上がるようなサウンドではじまります。まさに、ライアン・ヘインズの名刺代わりとも言えるような曲です。10曲中8曲がライアンのオリジナル、残りの2曲はボーカル・フィーチャーのアレンジ作品です。ボーカル曲の1曲を受け持つボーカリストはライアン・ヘインズの愛妻、シャロン・ヘインズさんです。
収録曲
1. To the Sky [ Ryan Haines ]
2. Good-Bye for Now [ Ryan Haines ]
3. Do You Know What it Means To Muss ne Orleans? [ Louis Alter / arr. Ryan Haines ]
4. Like Lightning [ Ryan Haines ]
5. Beach Assignment [ Ryan Haines ]
6. I Will Wait for You [ Michel Legand / arr. Ryan Haines ]
7. There's A Letter from Home [ Ryan Haines ]
8. Like Thunder [ Ryan Haines ]
9. The Reunion [ Ryan Haines ]
10. Back to the Blues [ Ryan Haines ]
Sea Breeze Records SB-2113
著者Profile
DAVE鈴木
1962年生まれ。まっとうな会社員だったが、ビッグバンドの世界にのめり込み楽譜やCDの個人輸入にはまり脱サラ、ミュージックストア・ジェイ・ピー設立。現在に至る。
どこで買えるの?
ここで、ご紹介したCDは、DAVE鈴木の運営するミュージックストア・ジェイ・ピーのホームページ http://www.musicstore.jp/
index.php?afid=kobe
で購入出来るほか、山野楽器銀座本店、ヤマハ銀座店CD売り場、タワーレコード全店、ジュージヤ梅田ハービスENT店などでご購入いただけます。
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