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ビッグバンドの世界で活躍する名トロンボーン奏者を挙げるならば、文句なくそのNo. 1として認められるのはビル・ワトラスだと思います。6歳の時に父の影響を受けてトロンボーンを吹き始め、10代で伝統的なビッグバンドで演奏をし、海軍のバンドで活躍をした後、1960年代にはニューヨークを中心に演奏活動を行ってきました。その後、ロサンゼルスに拠点を移し、現在に至ります。
リーダー・アルバムおよび参加アルバムは実に20タイトル以上もあり、深く美しい音色と超絶技巧とも言えるテクニックを駆使したアドリブプレイは、多くのトロンボーン奏者を魅了します。
ビッグバンドの作品としては、1997年にDouble
Time Jazzレーベルよりリリースされた「Space Available」があまりにも有名です。Gordon GoowinやTom Kubisといった現代のビッグバンドの筆頭作曲家の曲の提供により、実にモダンな作品に仕上がっており、10年を経た今聞いても、全く古さを感じさせません。
最も新しいアルバムとして今回ご紹介するのは、サックスのPete
Christliebと共にフィーチャーされているThe Gary Urwin Jazz Orchestraの最新作でもあります。 |
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作・編曲家 Gary Urwin のビッグバンド第3作です。以前のSeaBreeze から Summit Records に移籍した本作は、徹底的に
BillWatrous(tb) と Pete Christlieb(ts) の両ベテランがフィーチュアされています。
1曲目の Lester Young
の名曲「Lester Leaps In」から、アンサンブルもゲストの二人のソロも快調そのものです。2曲目の「Theme from "Chinatown"」は、映画「Chinatown」の主題歌。柔らかい木管のハーモニーをバックに、Billのトロンボーンがなんとも素晴らしい!途中のChristian
Jacob(p)も印象に残ります。スロー・スウィングで演奏される事が多い「Girl Talk」は、4分の3拍子に編曲されています。この曲でも前記の二人が吹きまくっていますが、
完璧なアンサンブルもたっぷりあり大変楽しめます。「Beautiful Love」も Victor Young のスタンダード・ナンバーです。ここではBobby
Shew(tp)も健在です。美しいバラッド・ナンバーの「My Foolish Heart」では Pete のテナーがフィーチュアされています。この曲でもBobby(tp)
と Jacob(p)の短いソロが効果的に使われています。トランペット・ソロの後のバンドのアンサンブルに、Gary の腕の冴えが感じられます。「Kindred
Spirits 」はこのあるアルバム唯一のオリジナル・ナンバーでブルース。後半にリード・トランぺッターの Wayne Bergeron のハイ・ノート・ソロも楽しめます。彼は今やロスアンゼルスで一番の売れっ子ミュージシャンになりつつあります。
7曲目のアイルランド民謡「Danny
Boy」では Billとトロンボーン・セクションが美しいハーモニーを聴かせます。「E.S.P.」はWayne Shorter のオリジナルで、このアルバム中で一番ジャズっぽい曲です。「That
Old Feeling」も美しいメロディーを持ったスタンダード・ナンバー。ピアノのルバートからトロンボーンのアンサンブル、そしてフル・バンドへといつの間にか展開して行きます。「My
Ship」は Mack The Knife 等に代表される、個性的な曲をたくさん作った Kurt Weill の作品です。 「No More
Blues」は、Antonio Carlos Jobin の名曲中の名曲。ゲストの二人の楽しい様子が目に浮かぶようです。イントロではバスーンが彩りを添えています。最後の「I'll
Be Seeing You 」のフランス生まれの名曲では、ピアノ、テナー、そしてトロンボーンの3人のみでしっとりと演奏され、アルバムを締めくくっています。
Gary
のアレンジはとてもオーソドックスで、奇をてらう部分が全くなく、大変好感を持てます。フィーチュアされた二人には実に見事で何も言うこと無いのはもちろんですが、アンサンブルの見事さは特筆ものです。
しかし、それ程有名でも無いアレンジャーが、なんでこんなに凄いミュージシャン達を集めたすごいCDを作れるのか・・・実は、彼の場合「弁護士」というもう一つの顔があり、経済的な十分な裏付けがあるそうです。 |
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1. Lester Leaps In [ Lester Young / arr. Gary Urwin ]
2. Theme from "Chinatown" [ Jerry Goldsmith / arr. Gary Urwin ]
3. Girl Talk [ Neal Hefti & Bobby Troup / arr. Gary Urwin ]
4. Beautiful Love [ Victor Young, Wayne King Egbert Van Alstyne & Haven Gillespie / arr. Gary Urwin ]
5. My Foolish Heart [ Victor Young & Ned Washington / arr. Gary Urwin ]
6. Kindred Spirits [ Gary Urwin ]
7. Danny Boy [ Traditional / arr. Gary Urwin ]
8. E.S.P. [ Wayne Shorter & Miles Davis / arr. Gary Urwin ]
9. That Old Feeling [ Lew Brown & Sammy Fain / arr. Gary Urwin ]
10. My Ship [ Kurt Weill & Ira Gershwin / arr. Gary Urwin ]
11. No More Blues [ Antonio Carlos Jobim / arr. Gary Urwin ]
12. I'll Be Seeing You [ Irving Kahal & Sammy Fain / arr. Gary Urwin ] |
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トランスクリプション本は数多くあれど、本人の演奏を収録したCDがついているものは、(特に)トロンボーンのものはほとんどありません。ビル・ワトラスのアドリブをコピーするというのは、それが超絶技巧であるが故に、譜面化されただけではなかなか難しいものがあります。その意味で、参考CDがついている本書は全てのビル・ワトラスのファンにとってのバイブル的存在であること、間違いありません。 |
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1. Just Fiends
2. Mudslide Solly
3. Sweetface
4. You Nut
5. Snafu
6. La Zorra
7. A Hot One for Jason
8. For Art's Sake
9. Lights Out
10. Chinatown
11. No More Blues
12. Smooth Talk
13. Don't Tell Me What To Do
14. Cherokee |
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余談ですが、昨年の12月にシカゴでアメリカ海軍のビッグバンドCommodoresと、ビル・ワトラスの共演を聞いてきました。ビル・ワトラスのパワフルで繊細な演奏は、年齢を感じさせない素晴らしいものがありました。彼の代表的な曲
Mama Lama Sambaは、ここ最近アマ、プロを含めいくつも立て続けに聞いてきましたが、やはりビルがフィーチャーされたものは格別でした。 |