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いぶし銀のアルト・サックス・プレイヤー
今年に入り、相次いで「いぶし銀のサックス・プレイヤー」と形容しても良いと思いますが、フィル・ウッズとバド・シャンクのお二人がフィーチャーされたビッグバンドのライブ録音がリリースされました。お二人とも、結構なご高齢なのですが、そのパワフルかつ繊細なプレイには年齢を感じさせない圧巻なものであり、「素晴らしい!」の一言に尽きます。ということで、今回はこのお二人をフィーチャーしたCDをご紹介します。
Unheard Herd
アルト・サックスのPhil Woodsをフィーチャーした、ロサンゼルスの腕利きのミュージシャンによる臨時編成のビッグ・バンド・アルバムです。コンダクターにWoody Herman Band出身のRon Stout(tp)を迎え、往年のHerman BandのBe Bopナンバーを演奏している2005年5月のロサンゼルスのシェラトン・ホテルでのライブ録音です。

聴き所は一時体調を崩し心配されたPhil Woodsの元気一杯なソロでしょう。全曲で最も得意とするBe Bopナンバーを吹きまくっています。中でも5曲目のスタンダード・ナンバーMy Old Flameでは、バンドはお休みして、ピアニストのRoss TompkinsとのDuoで唄いまくっています。ユーモアを含んだ感情のこもった唄心は、まさに彼の独壇場です。

「Keen and Peachy」はRulph BurnsとShorty RogersのSecond Herd時代のオリジナルで、Phil Woodsに続くJerry Pinter(ts), Scott Whitfield(tb), Bob Carr(bs), Keith Bishop(ts), Ron Stout(tp)のソロが皆素晴らしい!「The Great Lie」はCount Basie, Harry James, そしてWoody herman バンド等にたくさんの名アレンジを残したNiel Heftiのオリジナルです。「Man, Don't Be Ridiculous」はShorty Rogersのオリジナルで1949年録音のアルバムでは、Serge Chaloff (bs)がフィーチュアされていました。Charlie Parkerの「Yardbird Suite」は、若き日のGerry Mulliganのアレンジです。

「We The People Bop」はやはりShorty Rogersのオリジナルで、ビッグ・バンド編成でなく、オリジナルの様に、kim Richmond(cl),Phil Woods (as), Jerry Pinter(ts), Ron Stout(tp)の4管編成で演奏されています。いずれのソロも素晴らしいですが、Lead TrumpeterのCarl Saundersのハチャメチャなスキャットが抜群です。「More Moon」はHow HighThe Moonのコード進行を元にしたShorty Rogersのオリジナルで、Andy Martin(tb)が見事なソロを展開します。アルバム最後を飾る「Boomsie」は 超アップ・テンポのジャンプ・ナンバー。途中のトロンボーン・バトルを挟んだ、いずれのソロも皆乗りまくっています。

全曲を通して聴いてみると、ライブの臨場感が十分に楽しめるだけでなく、ライブにありがちな乱れ過ぎたアンサンブルが無く、録音も良いので、とても楽しく仕上がった見事なアルバムとなっており、当時のHerman Bandの素晴らしさが想像出来る演奏です。途中に挟まれたRon Stout, Phil Woods等の昔話もメチャ面白い!
収録曲
1. Keen and Peachy [ Ralph Burns and Shorty Rogers ]
2. The Great Lie [ Andy Gibson and Can Calloway ]
3. Man, Don't Be Ridiculous [ Shorty Rogers ]
4. Yardbird Suite [ Chrlie Parker ]
5. My Old Flame [ Sam Coslow and Arthur Johnson ]
6. We The People Bop [ Shorty Rogers ]
7. Comments by Phil Woods: Humor in Jazz (トークのみ)
8. More Moon [ Shorty Rogers ]
9. Comments by Ron Stout: Playing the Blues...Fast!(トークのみ)
10. Boomsie [ Conte Candoli, Frank Socolow, and Chubby Jackson ]
Taking The Long Way Home
ウェスト・コーストで活躍するベテラン・アルト・サックス奏者Bud Shankのコンサート、レコーディングの為の臨時編成ビッグ・バンド・アルバムです。Bud Shankは、Art Pepper, Lee Konitz, Phil Woods等と同世代でひとまとめにクール派と呼ばれていますが、その演奏は非常にエモーショナルで、熱い情熱的なソロをとります。3人の中ではどちらかと言うとPhil Woodsにタイプが一番近いCharlie Parker派のプレーヤーです。彼は若い頃、当時最先端のCharlie BarnetやStan Kentonのバンドに在籍していた事がありました。このCDは、2005年5月にロサンゼルス空港近くのホテルで行われたStan Kenton's L.A.Neophonic Orchestraの40周年記念コンサートに招待された時に、臨時に組んだ彼自身のビッグ・バンドのライブ盤です。メンバーには、Roger Ingram, Ron Stout, Carl Saunders (tp), Andy Martin(tb), Lanny Morgan(as), Jack Nimitz(bs), Cristian Jacob(p)等々錚々たる顔ぶれが揃っています。またタイトル・チューンでもある「Taking The Long Way Home」には、作曲者・ピアニストのBob Florenceがスペシャル・ゲストとして加わっている。

1曲目の「Rosebud」は、最近自身の「Live 2005!」と言うビッグバンド・アルバムを出したばかりの作・編曲家、トロンボーン奏者のMike Baroneのオリジナルです。オープニングを飾るにふさわしい洒落た作品であり、彼自身も2nd Tromboneとしてこの録音に参加しています。Bill Evance(p)の演奏でおなじみの「Waltz For Debby」と「Greasiness Is Happening」は、共にテナー・サックス奏者の故Bob Cooperの手によるものです。彼もStan Kenton Orch.の出身で、たくさんの素晴らしい作品を残しています。

「Night and Day」はCole Porterの名曲を、「The Shadow Of Your Smile」や 「Emily」の作曲者であるManny Albumが、珍しくも4分の3拍子(8分の6拍子?)にアレンジしています。「The Night Has A Thousand Eyes」は同名の映画主題歌で、Sonny Rollins(ts)やPaul Desmond(as)等の名演があるスタンダード曲です。BudとDoug Webb(ts)がSaxバトルを繰り広げます。「The Starduster」は偉大なクラリネット奏者で、バンド・リーダーだった故Artie Shawに捧げた美しいバラッドです。曲間に本人が話している、Bud Shank, Art Pepper, Lee Konitz, Phil Woods等が、皆そろいも揃ってArtie Shawの影響を 受けたというエピソードが面白いです。「Lime Away」は、Mike Baroneのオリジナルで「Limehouse Blues」をモジったものです。最後の曲「Taking The Long Way Home」はこのアルバムのタイトルになったBob Florenceのオリジナルで、途中テンポが色々変化する18分余りの大曲です。本人がPianist兼Conductorとして参加しています。

ライブ録音ながら、スタジオ録音のように非常にバランスが良く、且つライブのエキサイティングな雰囲気も良く出た大変楽しめるアルバムです。Budはもう75歳になるはずだが、少しも衰え無いどころか、益々の前向きな姿勢に驚かされます。
収録曲
1. Rosebud [ Mike Barone ]
2. Waltz for Debby [ Bill Evans / arr. Bob Cooper ]
3. Greasiness is Happening [ Bob Cooper ]
4. Night and Day [ Cole Porter / arr. Manny Albam ]
5. The Night Has a Thousand Eyes [ Jerry Brainin / arr. Bud Shank ]
6. The Starduster [ Bud Shank / arr. Mike Barone ]
7. Limes Away [ Mike Barone ]
8. Taking the Long Way Home [ Bob Florence ]
著者Profile
DAVE鈴木
1962年生まれ。まっとうな会社員だったが、ビッグバンドの世界にのめり込み楽譜やCDの個人輸入にはまり脱サラ、ミュージックストア・ジェイ・ピー設立。現在に至る。
どこで買えるの?
ここで、ご紹介したCDは、DAVE鈴木の運営するミュージックストア・ジェイ・ピーのホームページ http://www.musicstore.jp/
index.php?afid=kobe
で購入出来るほか、山野楽器銀座本店、ヤマハ銀座店CD売り場、タワーレコード全店、ジュージヤ梅田ハービスENT店などでご購入いただけます。
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