CDレビュー
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DAVE鈴木のCD紹介
皆さん、初めまして、DAVE鈴木です。この度このコーナーで素晴らしいビッグバンドのCDについてご紹介させていただく大役を仰せつかりました。ぜひ、よろしくお願いいたします。
さて、ビッグバンドのCDというと、大きく分けて2種類のものがあると思います。リスナー向けのものと、プレイヤー向けのものです。リスナー向け、つまり楽器を演奏されない方々が主に好まれるのは、「オールド・ジャズ」にカテゴライズされている、グレン・ミラー楽団、ベニー・グッドマン楽団、デューク・エリントン楽団、ビリー・ボーン楽団などがあります。一方、プレイヤーの方々に好まれるものは、やはり自分が演奏する曲に関連した楽団のものが主流となります。良くビッグバンドのプレイヤーが「カウント・ベイシー以降のビッグバンドの曲を演奏しています」、「ビッグバンド・ジャズの基本はカウント・ベイシーです」などと言われることからも、プレイヤーの方々はカウント・ベイシー楽団を定番のビッグバンドととらえています。それ以外にも、バディ・リッチ楽団、サド・ジョーンズ/メル・ルイス楽団、クインシー・ジョーンズ楽団など、どれも古いものばかりですが今でも愛され続けています。
一方、ビッグバンドの形態は今も昔も変わりませんが、サウンドはアレンジによっていくらでも変わります。現代のビッグバンドは昔さながらのスタイルを貫いているバンドもあれば、ゴードン・グッドウイン率いるビッグ・ファット・バンドのように各楽器の可能性を最大限引き出し、いかにも「現代風」なサウンドを生み出すようなバンドも出現しています。
このコーナーでは可能な限りまんべんなく素晴らしいビッグバンドのCDをご紹介していきたいと思いますが、私自身がビッグバンド・プレイヤーのため、少々そちらに偏ってしまうかもしれません。ご勘弁の程。
さて、それでは、まず定番中の定番とも言えるCDをいくつかご紹介いたしましょう。
Basie Straight Ahead
1968年に録音された、カウント・ベイシー楽団の中でも特に有名なCDです。サミー・ネスティコを専属のアレンジャーに迎え、ベイシー=ネスティコの輝かしい時代を築き上げた作品の一つです。収録曲はどの曲も多くのアマチュア・ビッグバンドで演奏されており、ビッグバンドの入門編と言っても過言ではありません。
収録曲
Basie-Straight Ahead、It's Oh, So Nice、Lonely Street、Fun Time、Magic Flea、Switch in Time、Hay Burner、That Warm Feeling、The Queen Bee(アレンジは全てSammy Nestico)
Fancy Pants
1983年12月に録音された、カウント・ベイシー健在の時代としては比較的新しいCDです。カウント・ベイシーが死去したのが1984年8月21日ですので、その直前に録音されたCDです。この年には、他にも「88 Basie Street」というCDが録音されています。アレンジャーはやはりサミー・ネスティコで、アレンジのコンセプトは上記の15年前のCDと大きく変わってはいません。それだけ、ベイシー=ネスティコの時代が長く続いたということになります。タイトル・チューンの「Fancy Pants」はもちろん、今なおアマチュア・ビッグバンドで演奏をされている「By My Side」、「Time Stream」や「Strike Up the Band」といった名曲のオンパレード、そして美しいバラッドの「Samantha」など、聞くものを飽きさせる事がありません。
収録曲
Put It Right Here、By My Side、Blue Chip、Fancy Pants、Hi-Five、Time Stream、Samantha、Strike Up the Band(アレンジは全てSammy Nestico)
さて、上記2曲のキーとなっているのが、アレンジャーのサミー・ネスティコです。ビッグバンドはコンボと違い、アレンジの善し悪しによってその評価を高くも低くもすることが出来ます。サミー・ネスティコはビッグバンドの一時代を築いた御大であり、カウント・ベイシーの専属アレンジャーであっただけでなく、アメリカ屈指のビッグバンドである、アメリカ空軍のビッグバンドAirmen of Noteの専属アレンジャーであったことも加筆すべきでしょう。昨年10月には初めて日本に来日を果たしました(ご高齢の為、これが最初で最後という話)。たったの3日間でしたが、私もご一緒させていただき、彼の人柄に心底惚れ込んだものです。
そんなサミー・ネスティコさんですが、音楽に対してとてもどん欲な方であり、ビッグバンドの編成を核としてサウンド可能性を追求し続けています。その一つとして、昨年リリースされた彼のCDをご紹介いたしましょう。
A Portrait of Sammy
サミー・ネスティコさん自身、自分が高齢のため、これが自分自身の最後の録音(参加している作品としてはその後もリリースされたものがある)と言っておりますが、最高のものを作ろうという気迫が伝わってくる内容です。彼自身がライナーノーツに書いているように、音楽はメロディー、ハーモニー、リズムの3つの基本的な要素から出来上がっているが、その中でも彼が最重視しているのはメロディーであり、今回収録されている15曲(このアルバムの為に2004年に新録音されたのは10曲)は、どれも口ずさむ事が出来るような魅力的なメロディーばかりです。かなり高齢のサミー・ネスティコですが衰えるどころか益々洗練されてくると共に、新鮮なアイデア、サウンドが泉のごとく湧き出てくるのには驚かされます。サミー・ネスティコはもう聞き飽きたという方にも、この1枚は買って絶対損のない、彼の魅力がいっぱい詰まったアルバムです。ボーナス・トラックに古い録音も入っていますので、新録音(=新アレンジ)との対比を感じながら聞くのもおつなものです。
収録曲
Dark Orchid、Freckle Face、Tangerine (Victor Schertzinger / arr. Sammy Nestico)、Veronique、Swingin' on the Orient Express、Lisette、Time Stream、Katy、A Cool Breeze、It's My Turn (Michael Masser and Carol Bayer-Sager / arr. Sammy Nestico)、Kiji Takes a Ride (Sergei Prokofiev / arr. Sammy Nestico)、A Warm Breeze、Out of the Night (Dark Orchid)、Satin 'N Glass、(Bonus Track) 88 Basie Street
このように、同じアレンジャーであっても、時代と共にそのアレンジ・コンセプトも変わっていきます。よく、「ビッグバンドなんて、古い。今はシンセサイザーを駆使した音楽の時代」などという方もおられますが、アレンジ次第でいくらでも現代的に変わることは可能なのです。
最後に、まさに時代の最先端を行くビッグバンドとそのCDをご紹介しましょう。
The Phat Pack
ゴードン・グッドウインは、作曲、編曲、指揮、オーケストレイター、ウッドウィンド&キーボードプレイヤーとして、豊富で多彩なキャリアを持ち、過去3度エミー賞に輝いた実績があります。映画(Gone in Sixty Seconds, Speed 2, Armageddon他多数)、TVやCMをはじめ、ディズニーランドに代表される数々のテーマパーク等の為の作曲およびプロデュース、多くのシンフォニーオーケストラでの指揮等、幅広い分野で活躍しています。それだけに、既存のビッグバンドの枠にとらわれない、大胆なアレンジをすることができます。この「The Phat Pack」はつい最近リリースされたばかりですが、カウント・ベイシー楽団のようにレイ・バックするスタイルではなく、細かいフレーズまで、きっちりリズムに乗って演奏する、メンバー全員が完璧なまでのテクニックと感性があってこそ成り立っている演奏です。ウエストコーストで一番(=世界で一番)といわれているリード・トランペッターのウェイン・バージェロン、トロンボーンのアンディー・マーチン、サックスのエリック・マリエンサルなどの超一流のプレイヤーによって奏でるサウンドはまさに「現代」のサウンドです。さらに、サックスのデビッド・サンボーン、ヴォーカル・グループのテイク6などがフィーチャーされ、ビッグバンド・サウンドというよりは、ゴードン・サウンドといっても良いくらい、ゴードン・グッドウイン独自の世界を築き上げています。ぜひ、ビッグバンド・ファンの皆さんに聞いていただきたい一枚です。
収録曲
1. Cut 'N Run [ Gordon Goodwin ]
2. Too Close for Comfort [ Jerrold Leis Bock / arr. Gordon Goodwin ] featuring Dianne Reeves
3. Count Bubba's Revenge [ Gordon Goodwin ]
4. Play That Funky Music [ Rob Parissi / arr. Gordon Goodwin ] featuring David Sanborn
5. The Phat Pack [ Gordon Goodwin ]
6. Hunting Wabbits 2 (A Bad Hare Day) [ Gordon Goodwin ]
7. La Almaja Pequena (The Little Clam) [ Gordon Goodwin ]
8. Get In Line [ Gordon Goodwin ]
9. Attack of the Killer Tomatoes [ John Anthony De Bello / arr. Gordon Goodwin ]
10. Under the Wire [ Gordon Goodwin ] featuring Eddie Daniels
11. Whodunnit? [ Gordon Goodwin ]
12. It was a very Good Year [ Ervin Drake / arr. Gordon Goodwin ] featuring Take 6
13. Ever Braver, Ever Stronger (An American Elegy) [ Gordon Goodwin ]
著者Profile
DAVE鈴木
1962年生まれ。まっとうな会社員だったが、ビッグバンドの世界にのめり込み楽譜やCDの個人輸入にはまり脱サラ、ミュージックストア・ジェイ・ピー設立。現在に至る。
どこで買えるの?
ここで、ご紹介したCDは、DAVE鈴木の運営するミュージックストア・ジェイ・ピーのホームページ http://www.musicstore.jp/
index.php?afid=kobe
で購入出来るほか、山野楽器銀座本店、ヤマハ銀座店CD売り場、タワーレコード全店、ジュージヤ梅田ハービスENT店などでご購入いただけます。
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