ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
エディ・ロックジョウ・デイヴィス

どうしてジャズ・ミュージシャンに商品の宣伝をやらせないんだろう? 例えば、煙草、アルコール、ガソリンなんかはミュージシャンの生活から切り離せないものだし、品質の違いなんかとても良く知っているのに。ガソリンの違いは確かにあるんだ。もしレギュラーを使っているとしたらXよりはWのほうがいいし、ZよりYのほうがすぐれている。(中略)俺は長く音楽をやってるから、酒や飲料の宣伝は簡単にできるよ。どれが宿酔いしないかを知っている。なにしろ毎晩飲んでるからね。そして今はカティ・サークの宣伝をしたい。ありとあらゆる煙草をすったから、どの銘柄が一番煙草らしい味がするか知っている。(中略)『──をどうぞ』とよく宣伝している煙草がある。この煙草を持って檻に入るのはやめといたほうがいい。ミュージシャン以上に檻の中で働く人種があるかい。いつも煙のたち込めてる部屋の中では、何か問題があるんだ。ミュージシャンはいつ吸えばいいか知ってる!(そして変てこな飲み物をやりながら、いつ吐き出せばいいかもわかってる)。スポーツ選手に煙草のことを尋ねちゃいけないよ。彼らはロッカールームでシャワーを浴びてるんだ。どうして煙草のことがわかる。檻の中にいるミュージシャンに聞けよ!

なんのこっちゃ。こんな調子で延々続くのである。あまりにおもしろいので、もう一箇所引用しよう。

俺は証明できるよ。いろんな飲み方をした時の演奏を自分のテープレコーダーで録音してみたんだ。本当に科学的なプロジェクトだろう! とてもきちんとした演奏をしていたグループが、時々、後のステージがだらだらしてくるのに気づくことがあるだろう。それは連中が飲み方を知らないからなんだ。

この「本当に科学的なプロジェクトだろう!」という文章は、読んでいて爆笑してしまった。ロックジョウは、もちろん大まじめで言っているのである。

ロックジョウを味わうには、もちろんピアノトリオをバックにしたワン・ホーンのものもいいし、JATP的なジャムセッションもいいのだが、ベイシーバンドでフィーチュアされている演奏や、オルガンとのトリオ、ジョニー・グリフィンとのテナーバトルチーム「タフ・テナーズ」(すごいネーミング)などにおいてとくに、クライマックスのうえにクライマックスを作りだすような縦横無尽で豪快、かつ変態的なブロウが聴ける。どうぞこの「世紀の変態フレーズ男」を堪能してください。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
http://www004.upp.
so-net.ne.jp/fuetako/
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