それと、エリントンのメンバーは「エリントニアン」といって、ほぼ固定である。ベイシーもかなり固定的なメンバーだったが、エリントンの場合は「当て書き」といって、個々のメンバーの顔を念頭においてアレンジしてたわけで、たとえばAというテナー奏者がなにかの都合でBに変わったら、エリントンオーケストラでは同じサウンドにはならないのである。だから、エリントンはメンバーが変わるとアレンジそのものを書き直したらしいし、譜面も、1st asとか2nd tsとかではなく、「ジョニー・ホッジス」とか「ポール・ゴンザルベス」とか個人名で書いてあったらしい。有名な在籍者としては、トランペットではバッバー・マーレイ、レックス・スチュアート、クーティ・ウィリアムス、ボントロではトリッキー・サム・ナントン、フィアン・ティゾール(ヴァルブ・トロンボーン)、ローレンス・ブラウン、クウェンティン・ジャクソン、リード楽器ではジョニー・ホッジス、ハリー・カーネイ、ベン・ウェブスター、ラッセル・プロコープ、ジミー・ハミルトン、ポール・ゴンザルベス、ベースではジミー・ブラントン、ドラムではサム・ウッドヤード、ルイ・ベルソン……この原稿は喫茶店でなにも資料を見ずに書いているので漏れもたくさんあるだろうが、パッと思いついただけでこのぐらいいる。まさに枚挙にいとまがない感じである。個人的には、ジョニー・ホッジスのあのとろけるような、誰にも真似できない嫋々たるアルトや、地響きというか溶岩の噴出というか、地下のものすごく深いところから噴き上がってくるようなハリー・カーネイのバリサクなどを、ジャズ喫茶のスピーカーで大音量で聴いていると「たまらんわーい!」という気分になる。家で小さい音で聴いていてもダメっすよ。
最後になるが、エリントンの信じられないようなリズム感のピアノそのものを味わうには、「マネー・ジャングル」というアルバムをおすすめしたい。マックス・ローチ、チャールズ・ミンガスという過激な若手を向こうにまわして、一歩もひかぬどころか、過激さで彼らを上回るほどのパッショネイトなピアノを披露している。コルトレーンとの共演盤なんかよりもずっと凄い。このアルバムを聴いていると、しみじみ(ピアニストとしても)エリントンはかっこええなあ、と思います。