ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
ビッグバンドを聴こう2ーカウント・ベイシー2

・ガス・ジョンソン、ソニー・ペインといった強力無比のドラマーが、温泉のようにリズムを沸き立たせることで、バンド全体が津波に乗るように盛り上がった。
・リードトランペットとドラマーが一体となり、ここぞというところでバンドが何倍にも聞こえるほどのド迫力を発揮した。
・フランク・フォスター、フランク・ウエス、エディ・ロックジョウ・デイヴィス、ジョー・ニューマン、サド・ジョーンズ……といったきら星のようなソリストが、エキサイティングなソロをとった。
・マーシャル・ロイヤルのリードアルトを中心としたサックスセクションが、まるでオルガンのハーモニーのようにゴージャスで、ブルージーなアンサンブルを奏でた。
・「エイプリル・イン・パリ」「コーナーポケット」、フランク・フォスターの「シャイニー・ストッキングス」、バラードの「リル・ダーリン」といったヒットナンバーがあった。
・ジミー・ラッシングにかわる若きブルース・シンガーとして、ジョー・ウィリアムスを擁していた。

などが挙げられよう。とくにソニー・ペイン在籍時のアルバムはどれも、リズムの塊のようなドラミングに鼓舞されて、バンドがエクスタシーに達するさまがひしひしと伝わってきて、ニュー・ベイシーの頂点を形成している。しかし、忘れてならないのは、いくらソリストがビバップ的なブロウを繰り広げようとも、そのバックのノリは、カンサスシティからの伝統的なレイドバックしたものであったことで、その空気が、ベイシー御大のあのピアノによって作りだされていたのは言うまでもない。つまり、この時代のベイシーバンドの稀有な音楽というのは、カンサスシティジャズとモダンジャズの絶妙なバランスが生みだしていたのである。

こうしてまたビッグバンドを率いることになったベイシーバンドの当時のアルバムのなかで私が好きなのは、ルーレットの「ブレイクファースト・ダンス・アンド・バーベキュー」「アトミック・ベイシー」、ヴァーヴの「ベイシー・イン・ロンドン」などなど枚挙にいとまがない。この時期はライヴ音源や映像も多く残っているし、来日もしているので、カウント・ベイシー・オーケストラの最高の演奏に触れるのはたいへん容易である。

これらのアルバムをつねにベストの状態で提供してくれていた「コーナーポケット」という空間に最大級の感謝を捧げたい。マスター、長いあいだありがとうございました。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
http://www004.upp.
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